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第四百二十六話 犠牲と謝罪

 屍人軍を率いるローチェとキンレーンは、拮抗状態を崩すため、数の有利を利用した作戦を遂行していた。


 それは空間固定の魔法を地中から仕掛け、アレク軍の動きを直接鈍らせる。

 空間固定で体が思うように動かなくなれば、防御魔法の維持や魔法弾による攻撃もままならなくなる。その綻びは一部に発生させるだけで効果があった。


 動きが鈍くなった軍の側面を叩けば、そこから雪崩れるように攻め込むことが可能だ。もちろん途中で態勢を立て直されても、同じことを繰り返せば消耗戦となっていく。数の有利が最大限に発揮される作戦だった。


 だがその魔法を発動するには大掛かりな準備が必要なのでアレク将軍に気付かれる恐れがあった。


 そのため、キンレーンは軍を二手に分けて監視の注意を引き、水面下で準備させている魔法から目を逸らさせたのだ。


 緊迫した戦況下では大きな動きに目が行きやすく、その裏側を見落とすことは多い。それはアレク将軍達も同じで、屍人軍の動きを監視していた者達はローチェ将軍達の策に嵌ってしまったのだ。


 その結果、アレク将軍が異変に気がついた時には、屍人軍の次の攻撃が始まっていた。


 側面に展開を始めたファイの部隊は、地面に発動した空間固定の魔法で体が動かなくなった。そして、防御魔法が満足に張れなくなった彼らは、敵の魔法弾の攻撃を浴びることになった。


 一歩も動けない状態なので、魔法弾を避けることもできない。恐怖を貼り付けた兵達は一人ずつ撃ち抜かれ、あるいは巨大な魔法弾でまとめて吹き飛ばされていった。


 統制が取れないファイの部隊にすぐに動揺と悲鳴が広がる。その彼らも、身動きが取れないためなす術もなく散っていった。


 アレク将軍はその悲鳴を、均衡が崩れる音を聞き、すでに後手に回っていることを悟った。


 まだ被害は少ない。今すぐに助けに向かえば多くの兵は救えただろう。だがそれは軍の勝利を捨てることになる。


「ファイ、みんな、すまない……だが、ここで負けるわけにはいかないんだ」


 死にゆく仲間に謝るのはこれで何度目のことだろうか。アレク将軍は張り裂けそうな痛みを抱えながら、ファイ達に謝罪の言葉を口にした。


 彼らの死を無駄にするわけにはいかない。上に立つ者は勝つために常に最善の行動が求められる。そう何度も自分に言い聞かせ、アレク将軍は敵軍に目を向けた。


 拳が白くなるほど握りしめ、歯を食いしばったアレク将軍は防御魔法の強化を命令した。

 そして、地面からの攻撃にも対応する防御魔法は即座に展開され、ローチェ達の攻撃はファイの部隊を壊滅させたところで区切りとなった。


 だがそれで屍人軍の攻撃が止まることはない。空間固定の魔法が効かなくなると知ると、彼はすぐに次の作戦を初めた。


 後方に展開していたキンレーンの部隊が、新たに攻撃用の魔法を起動し、小さな魔法弾を雨のように降らせた。


 魔法弾の一つ一つは屍人兵が一人ずつ起動したものなので大きな威力はない。どれだけ魔法壁に当たってもびくともしなかった。

 雨粒のように、魔法弾が弾ける音が戦場を包み込む。まるで他の大きな音をかき消すように、ばらばらと大きな音を立てていた。


 アレク将軍はその攻撃に最大限の警戒を払った。

 ファイの部隊を襲った時のように、次は音に紛れて本命の攻撃を仕掛けてくるかもしれない。


 そう直感した彼は、同じく魔法弾を撃って相殺するように命じた。全ての魔法弾を凌ぐことはできないが、音は格段に抑えることができる。そして、その予想は正しく、魔法弾の衝突音が遠のいていくと、別の音が聞こえてきた。


 それは地下から響く音だった。地面を小さく振動させるそれは、まっすぐアレク将軍達の元に向かっている。ローチェ達はアレク軍のど真ん中に軍を送り込む地下の道を作ろうとしていたのだ。


 敵陣のど真ん中からの攻めは無謀に近い。だがその入り口から屍人が溢れ、乱戦に持ち込まれれば、数で劣るアレク達に勝ち目はない。


「してやられたな……まさか上に気を取られているだけで振動にすら気づかないなんてな」


 地面に目を落としたアレク将軍は、ローチェとキンレーン二人の方が一枚上手だと唇を噛む。それと同時に自身の采配の甘さに苛立ちを隠せなかった。

 だが悠長に構えている時間は残されていない。


「アレク将軍、もうすぐ接敵です! いかがなさいますかーー」


 部下が焦ったように言った瞬間、地面が大きく揺れて体勢を崩す。アレク将軍は転けそうになった部下の肩を支えると、軍の中心でヒビが入り始めた地面を睨んだ。


「もちろん交戦だ! 敵の出現箇所に魔法弾を集中、一歩も入らせるな!」


 アレク将軍の怒号が響く。

 この攻撃を被害を最小限に留められればまだ勝機はある。先行させたフロットの部隊が作戦を継続してくれていることを願い、アレク将軍も自ら戦うべく魔法弾の構築を始めた。


 そして、地面の揺れが立つのも難しいほどに激しくなると、地面の底から青白い魔法弾が飛び出していった。


 空に向かった魔法弾は軍の防御魔法を突き抜け、遥か上空で爆ぜてもう一つの太陽を作った。

 眩しいほどに照らされる中、魔法弾が開けた大穴から屍人がぞろぞろと這い出し始めた。


「今だ! 撃て!」


 激しい閃光に目を細めながら、アレク将軍は号令を飛ばした。それを合図に、本隊の兵達は地面から這い出る屍人に向けて魔法弾を撃ち込み始めた。

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