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第四十話 白騎の捜索

 白い草原の中に黒髪の少女は倒れていた。


 少女の胸は剣に貫かれ、白い大地を赤く染め上げている。彼女の傷の深さはどう足掻いても助けられないことを物語っていた。


 震える手で少女の華奢な体を抱き起こす。すると、彼女は私の頬にそっと触れた。その手に力はなく、冷たくなり始めている。



 私達の周囲には生きている者はいない。辺りには屍となった兵達が、敵も味方も関係なく山となって積まれていた。


 遠い地平の彼方では巨大な魔力が荒れ狂っているのが見える。激しくぶつかり合う炎雷が大地を裂き、山を平地に変えていく。



「ねぇジーク……どうして、こんなことになっちゃったんだろうね……」


 静かな草原に少女の涙ぐむ声が聞こえた。

 その問いには答えられず、少女を抱く腕に力が入る。



 私は何て非力な人間なんだ……。


 騎士として、一生を捧げると誓った主を助けることもできない。こうして最期の時を共にすることしかできない。


 うっすら目を開けた彼女と目があう。燃えるような赤い瞳には、血にまみれた私が映り込んでいた。


「ジーク……私のことは忘れなさい。私の騎士だったことも全て。それが、最後の命令よ。どうか、貴方だけでも幸せに生きて……」



 そう言った彼女の腕は力なく地面へ垂れた。安らかに眠るその顔は動かない。もうあどけなく笑うこともない。



 この白い世界で生きているのは私だけになった。


 彼女を優しく地面に下ろし、胸に刺さった剣を引き抜いた。血に濡れた刀身が碧く瞬く。


 「申し訳ありません姫様……私はその命令に従えそうにありません」

 私は……





「……殿? ジーク殿?」


 ローチェ将軍の声で現実に引き戻される。どうやら夢を見ていたようだ。


 目を開けて周囲を観察すると、隣には心配そうに覗き込むローチェ将軍がいた。


 ここは軍が所持している小屋の中だ。

 今はリジー様の命令の元、ローチェ将軍と共に城下街の探索をしていた。探知魔法を酷使していた私はいつの間にか気を失っていたようだった。


「二日間ずっと魔法を使われておいでだ。少しは休んでください」

「お心遣い感謝します。しかし、もう回復しましたので陛下の探索を続けましょう」


 いけない。リジー様の命令中に昔の夢を見るなど、従僕失格だ。


 頭を振って白い夢を追い出す。

 意識が飛んでいたのはほんの少しの間だろうが、それでも心の中で反省した。


 私は再び探知魔法の準備に取り掛かる。



 ことの始まりは三日前の貴族会だった。


 シェリー様が目を覚ますのを待つ間、私達は国王の容態の確認に向かった。だが、その本人はどこにもいなかったのだ。

 彼の居室、病棟の病室など、病人が運ばれる場所を探すも見つけることはできなかった。


 その事実を前に、リジー様とローチェ将軍はキンレーン殿下を疑った。国王が倒れたことは彼しか知っていなかったからだ。


 陛下が行方知れずになった事実に二人の王女は驚愕した。

 エイン様は詰め寄ったが、殿下は国王失踪に関与していないの一点張りで話は進まなかった。

 殿下のその異様な態度は人が変わってしまったような印象を受けた。それは、毎年神殿で見てきた私でも異常を感じ取れるくらいだった。


 まだ十二歳のリズ様はショックのあまり自室に引きこもってしまわれた。彼女のことはエメリナ殿に任せているが、立ち直るまでに時間を要するだろう。敬愛する兄が国に謀を巡らせたのだから仕方ない。



 しかし、問題は国王失踪だけでは終わらなかった。

 二日前、キンレーン殿下の出していた偵察班がセレシオン軍の情報を持ち帰ってきたのだ。


 情報によれば敵軍の数は二万。十日後には国を出るという情報だった。


 例え「星の雫」を継承したリジー様であっても、それだけの軍勢と正面切っての戦闘は勝ち目がない。


 そのため、リジー様は戦争に向けた準備に集中せざるを得なかった。


 シェリー様を解放するため、主は戦う覚悟を決めた。その凛々しい姿はかつての主人と重なる。だからあんな夢を見たのだろうか……。




「西地区に国王の魔力はないようです。次は南地区に焦点を絞って探索しましょう」



 リジー様から仰せつかった命令は、彼女に代わって国王陛下の行方を捜すこと。私は国王を捜すために魔力探知を展開することになった。


 人にはそれぞれ固有の魔力があり、一人一人特徴が異なる。魔力探知は探したい人物の魔力性質を知っていれば、広範囲の捜索でもすぐに見つけることができるのだ。

 しかし、その魔力探知を行使しても今回の捜索は難航していた。王都全域で探知しても陛下の魔力は見つからなかったのだ。

 理由としては三つ考えられる。そもそも陛下がこの王都にいない、あるいは既に死んでいる。もう一つは極度に魔力を失っており広範囲探知に引っかからないかのどれかだ。


 王都の外にいる場合や亡くなっている場合は探しようがないが、その可能性は低いと考えられる。


 それはキンレーン殿下が死んではいないと言っていたことだ。今の彼の言葉に信用は無いが、殺すのは露骨すぎる。

 それに、一晩のうちに大の大人を遠く離れた場所に移動させるのも無理がある。なので、国王は王都内のどこかにいる可能性が高いのだ。


 ただ、王都全域での魔力探知で見つけられなかったので、範囲を限定しての探索に変更した。

 王都全域を虱潰しに探すことになるため、労力は計り知れない。だが、その方が探知精度は跳ね上がるのだ。


 リジー様からの命令を完璧に遂行すべく、私は全身全霊を込めて探知し続けた。


 そして、それはようやく身を結ぶことになった。



「見つけた。かなり魔力は少ないが、キンレイス国王で間違いない。ローチェ殿、南地区のこの宿に兵を送ってください」


 私は王都の地図のある一点を指差してローチェ将軍に言った。



挿絵(By みてみん)

挿絵紹介

リジーの忠実な従僕「ジーク」

@Kagami_Toru様より

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