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第三十七話 王都の行進

「はぁーー! かわいいーー!」


 レイ隊長の黄色い声が私の部屋にこだまする。

 今日開かれるパレード用の服に身を包んだ私を見て歓声をあげたのだ。


 それは私の目の色と同じ真紅をベースにした戦闘服だった。私の体格に合わせて作られているので、着た時の違和感はなく動きやすい。


 黒い肩掛けも背中に流れているがゆったりとしたデザインなので窮屈さを全く感じさせなかった。


 私が以前ドレスが苦手と言っていたからレイ隊長なりの配慮だろう。


「やっぱりこのデザインにして正解だったわ! リジーのその髪と目の色とばっちり合ってるわ!」

「ありがとうございます。この服、動きやすくて私好きです」


 何故私の体格を知っているのか聞こうか迷ったが、嬉しそうにしている隊長を見て止めた。それに、急な依頼にも関わらず衣装を準備してくれたのだ。


 私のお礼を聞いたレイ隊長は満面の笑みで答えてくれた。



「いいのよ〜! 私の夢が一つ叶ったんだから、むしろお礼を言うのは私の方よー?」


 そのまま彼女に抱きつかれ頭を撫でられる。頭を撫でられるのは好きだが、普段されないこともあって何ともこそばゆい。


 少し気持ちよくなったので、そのまま身を預けていると、扉の方から声が聞こえてきた。



「リジー、準備できたか? そろそろ始まるぞ?」


 開け放っていた扉の前にはエイン王女の姿があった。今日はいつもの戦闘服ではなく法衣を着ている。彼女の後ろにはエメリナとジェットが控えていた。


 二人ともいつもより嬉しそうな顔をしている。まるで娘の成長を喜ぶ親みたいだ。


「準備できてます。レイさん、そろそろ下に降りましょう」


 そう言って私が離れると、レイ隊長は名残惜しそうに人差し指を咥えた。


「もうちょっとだけ独り占めしたかったわー」

「着替えからずっと一緒だったじゃないか……そのまま引っ付いてたら主役が遅れてしまうぞ?」


「はいはーい」


 エイン王女はため息混じりに窘めた。だが、レイ隊長は彼女の苦言など気にすることなく部屋を出た。


 この二人は十年来の仲で、身分を超えて友達感覚で連んでいるらしい。私とシェリーのような関係なのだろうか。


 私もレイ隊長の後に続いて部屋を出ようとすると、シーズが寝室から出て来る音が聞こえた。


「お、もう行くのか? ならわしもついて行くぞ!」


 いつの間に移動したのか、シーズは私の足元にいた。

 ここ数日はずっとこの部屋で過ごしていたから退屈してきたのだろう。小型化して私の肩に飛び乗った。


「パレードの間はその姿でいてくださいね。ジークも一緒に行きましょう」

「私はこのなりですからここで待機しております。下手に国民を怖がらせる必要もないと思いますので」


 シーズの後に続いて出てきた白髪の青年は恭しく礼をした。全身が白で覆われた彼は自らの容姿を気にしているようだった。


「私の姿もこの国では異端です。そんな私が国に受け入れられ、こうして表に立てるんです。ジークも気にする必要はないですよ」


 もちろん私も不安だった。城下の見回りである程度認知されているとは言え、公的な場で表に出るのは初めてのことだ。でも躊躇していては国民に示しがつかない。


 なので、私は彼の冷たい手を取って強引に連れ出すことにしたのだ。ジークは渋々という顔だったが抵抗することなく付いてきてくれた。




 パレードの行進は思った以上に順調に進んだ。奇異の目で見られることも予想していたが、その気配はなく、通路に集まる国民達からは祝福の声が寄せられた。


 小さい子達が沿道で元気よく手を振っている。私が手を振り返すと、彼らの目は輝き、近くにいた親の足元で飛び跳ねていた。


「今更なんですが、私の無愛想な顔で良かったんでしょうか」


 私は横に座っているエイン王女に小声で相談した。

 基本的に馬車に乗って手を振るだけでいいらしい。しかし、笑顔を振りまくのが苦手な私はぎこちない手つきで手を振るくらいしかできなかった。



「今集まっているこれが答えだ。知らないだろうが、リジーは前から人気があったからな。民衆には受け入れやすかったんじゃないか?」


 反対側を向いて手を挙げていたエイン王女は、一拍おいてから答えた。


「ジークを見てみろ。出る前はあんなに渋ってたのに、今は誰よりも堂々としてるぞ? リジーも気にせずいつも通りでいればいい」


 私の乗る馬車を先導しているジークは、全く姿勢を崩さず歩いていた。


 連れ出したのは私の方だと言うのに、その後ろ姿だけでも私より頼もしく見えた。このままでは私は主人失格だろうな。


「そうですね、いつも通りにしてみます。ありがとうございます」


 エイン王女に礼を言った私は、その後はいつも通りに振る舞った。声援に包まれるのは初めは慣れなかったが、教会に着く頃には慣れて周りをよく見ることができた。



 老若男女、誰もが祝福のために集まってくれた。私はこの人達を守るために戦うことになる。負ければこの光景は失われ、幸せな時は失われてしまうだろう。


 そう思うと自然と身が引き締まったように感じた。私の戦う理由、それはこの国の何気ない日常を守るためなのかもしれない……。



 そんなことを考える内に、馬車は教会に到着してパレードは終了した。後は本殿でレイン司教から祈祷を受けるだけだ。


 私は教会に入る前に、もう一度民衆に向かって手を振った。すると、それに呼応するように声援が返ってきた。その声援を受けながら、私は教会奥へと進んで行った。



 そう言えば、パレードの間シェリーの姿が見当たらなかったな……。


 二日前、パレードを楽しみにしていると言っていたし、彼女の性格なら必ず出席するはずだ。もしかして、出席できないほどの面倒ごとが起きたのだろうか?


 ルードベル家との話し合いについてはあれ以降連絡がない。

 話し合いがうまく進んでいない可能性はあった。シェス・ルードベルの姿がなかったのも気にかかる。


 明日は貴族会もある。そこでこっそり聞いてみるのもいいかもしれない。


 レイン司教の祈祷を見ながら、私は明日の貴族会のことで頭が一杯になっていたのだった。

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