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第二十六話 神の使い

 私達が踏み込んだそこは、土人形と戦った部屋とは違っていた。


 部屋の中央には巨大な生物ような石像が設置されていた。その石像はさっきの人形よりもふた回りも大きかった。


 見た限り、この世にいる生物ではなさそうだ。

 背中には巨大な翼、後ろには木の丸太より太い尾が伸びている。禍々しい頭には人を丸呑みできるほどの巨大な口があり、手には全てを切り裂きそうな爪が何本も伸びていた。


 床や壁は薄い青色で統一された空間で、床には骨もなく綺麗な状態だった。それは、ここに辿り着く者がほぼ皆無であることを物語っていた。


 周囲を注意深く観察していると、


「人間よ、よく来たな。ここが最後の試練だ。心して戦え」


 冷たい声が聞こえてきた。

 声の出所を見ると、部屋の中央、石像の上で蒼白い獣が見下ろしていた。四足歩行の獣は、目が合うとひらりと私達の目の前に着地した。


 抑揚のない声で話すその獣はじっくりと私達を観察した。


「わしは雷獣。神アイルの使い。そして、ここで継承者の戦いを見守る者だ」


 雷獣。神話の書物に登場する神獣だ。その名の通り天翔ける雷を操り、神話戦争においては天変地異を巻き起こしたとも言われている。

 しかし、そんな伝説級の雷獣が目の前にいても不思議と動揺はしなかった。神が作った虚数空間があるくらいだ、この程度では驚かない。ただ、シェリーはそうはいかなかったようで、後ろで息を飲む音が聞こえた。



「私はリジー、最後の試練はここであなたと戦えばいいの?」


 私の質問に雷獣は笑った。静かな空間に雷獣の笑い声が不気味に響いた。



「ふふふっ。今までの挑戦者の中で一番肝が据わっているな。昔来た奴らは皆一様に驚いたりしたんだがね」


 そう言うと雷獣は首を横に振った。

「残念ながら相手をするのはわしではない。後ろのこいつが、お前の相手だ」



 雷獣は後ろにある石像に顔を向けた。

 また土人形と戦うのだろうか。そう思っていると、石像の下の床が光り始めた。光が徐々に強まる中、石像にヒビが入っていく。


「お前達は見たことはないだろう。こいつはかつて神話時代に生きた神獣、デンベスだ。こいつと戦って力を示せ。さすれば、神より力が与えられよう」



 さっきまで石像だったそれは、表面の石が剥がれ落ちて本物の魔獣として動き出した。今まで見てきた中でも気持ち悪くなるほどの禍々しい魔力だった。それに保有魔力が明らかに多い。ビリビリと肌を撫でるその魔力は、私の保有量より確実に多いのが分かった。



「な! こんなの……こんなのに勝てるはずがないですわ!」


 後ろでへたり込む音が聞こえた。振り返るとシェリーが腰を抜かしている。その顔は既に絶望に染まっていた。


「シェリー! しっかり!」


 私が呼びかけても彼女はデンベスの方を凝視して動けないでいた。



「ガアァァァーーーー!!!!」


 耳を塞ぎたくなる程の咆哮を上げたデンベスは、迷わず私たちに突進してきた。一瞬で距離を詰めてきたそれは、鋭く尖った爪で攻撃してきた。


 保険で展開していた防御魔法をデンベスの爪は容易く引き裂いたが、私とシェリーを傷つけることなく空を切った。

 デンベスが動き始めると同時にシェリーを抱えて真横に跳んだので回避できた。私はデンベスと少し距離をとって攻撃の間合いから離脱する。動きが直線なので避けるのは簡単だった。


 ただ、このままシェリーを抱えながら戦うには敵が強すぎる。いずれは爪に引き裂かれて死ぬだろう。


「……思ったより速いですね、それに一撃の威力が高すぎます。シェリーはここにいてください。私が何とかします」


 抱えていたシェリーを壁際に座らせ、腰に下げていた剣を抜いた。

 シェリーが何か言っていたが、それに応える余裕はない。シェリーに攻撃が及ばないように少し距離を開けてデンベスの方に向き直った。

 デンベスは最初の攻撃が外れたことに驚いているのか、私の方を向いて静かに観察していた。


「これは、全力で戦わないと勝てそうにないですね」


 瞬時に魔力強化とマジックアーマーを展開した。さっきの威力だとマジックアーマーでも一撃しか耐えられないのは確実だ。あの攻撃は絶対に受けるべきではない。

 デンベスの攻撃を避けつつ隙をついて急所に一撃を叩き込む。それしか勝機はない。



 私が戦う姿勢を見せたところでデンベスが再び突進してきた。今度は口を大きく開けて私を飲み込もうとする。私はそれをスレスレでかわし、デンベスの背中に向かって魔法弾を数発打ち込んだ。


 土人形を破壊したのと同じ威力の魔法弾だったが、デンベスの表面に当たると全弾弾かれてしまった。

 しかし、弾かれたことに驚く前に腹部に強い衝撃が走った。


「あうっ!」


 気がついた時には反対側の壁に吹き飛ばされているところだった。魔法弾を撃つ隙をつかれて長い尾で鞭打つように殴打されたのだ。


「っーー!」


 受け身を取れずに壁に背中から直撃した私は、肺の息を全て絞り取られた。そして、床に落ちるのを感じながら視界が暗闇に飲まれていった。

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