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第二百五十一話 灰王と命

 フォレス達を魔力操作でひとまとめにした僕は、次の攻撃が始まる前に再び転移を開始した。


 雷獣達も流れで連れて来てしまったが、攻撃に巻き込ませる訳にもいかないので仕方ない。状況が飲み込めず、無理に暴れないでいてくれたのは助かっていた。



 その間に僕はバシモンク山からの経緯を簡単に話して聞かせた。


 天教会のオーヴェルの企みに強力な屍人の双子、クーチェとの攻防。リーグの最後の言葉。そして、今受けている攻撃の特性について、思い当たる部分を語った。



「ーーと言うことでね、僕は今絶賛逃げてるって訳だよ。僕としては、君達とは一時休戦を申し入れたいんだけど、どうかな?」


 オーヴェルの持つ戦力は強大だ。神器は持たないが継承者の屍人が少なくとも三人もいて、オーヴェルの実力も未知数。


 そんな勢力が世界を手に入れるために暗躍しているのだ。僕はリーグとの約束を果たすため、リジーと協力したい。


 そう話を締めくくって僕は雷獣の方を見た。

 リズ王女は話の急展開について来れていないのか、口を小さく開けて僕を見つめている。

 それに対して雷獣は苦虫を噛み潰したように額を歪ませ、僕を睨んでいた。



「俄には信じられん話だの。が、今の状況を見る限り、お前の言葉は信用できるの……エンカ、この攻撃に思い当たらんか?」


 しばらく僕と見合っていた雷獣は、ため息を吐いて下にいるエンカの方に向いた。その口ぶりから、どうやらこの攻撃のことを知っているようだった。


 それはエンカも同じようで、僕と雷獣を交互に見て言った。



「ええ、知ってるわ。これはクーチェが使ってた遠隔型の攻撃魔法よ」


 エンカのため息につられて僕もため息を吐きそうになった。


 大規模な魔法なので、双子かクーチェの誰かによるものだとは思っていたが、想定した中でも最悪の方を引くとは思ってなかった。



 クーチェは最後まで僕達を攻撃しないように抗ってくれていた。それが一転して攻撃に切り替わったと言うことは、彼女が完全に支配されていると言うことに他ならない。


「それなら、この魔法の切り抜け方はエンカに任せればいいか?」



 ちくちくと痛む胸を押さえ、僕は半ば懇願も混ぜてエンカに聞いた。かつてクーチェの側にいたエンカなら対処法くらいあるだろう。


 しかしその期待は虚しく散る。エンカは首を振って否定した。



「この魔法から逃れる術はないわ。クーチェの探知力はね、この大陸内ならどこに隠れていても見つけ出せるのよ」


 エンカはそう言うと再びため息を吐いた。

 クーチェは生来目が見えない。そのため彼女は他の感覚が人よりもずっと優れている。音や嗅覚も、そして魔力探知も常人の何倍も優れているらしい。


 その鋭敏な探知力を活かして生み出されたのが、この天から来る光だった。

 彼女のこの光は千年前の戦争でも大きく貢献したらしい。



「聞くだけで嫌になるよ。それじゃ僕の行動は自分の首を絞めてたってことだよね。全く、クーチェも人が悪いよ。告白する前に教えて欲しかったな……」



 白く美しいクーチェの顔を思い出して僕はひっそりと笑った。


 彼女には色々振り回されているが、僕にとっては小鳥のさえずりに等しい。大切な人の失敗など笑って受け流すのが男の務めだ。



「さて、そうなると、リズ達にはこの転移旅行に付き合わせる必要もないし、ここらで別れるってのはどう思う? 出来ればこの後も協力体制を取りたいけど、そっちの回答も欲しいかな」



 優しい笑顔を胸にしまった僕はそう切り出した。


 天教会の狙いが僕であれば、彼女達とはここで別行動をとった方がいい。



 パテオ山脈の北辺を東に移動するように転移を続け、ちょうどベルネリア山に戻って来ている。ここで別れれば、そのままストルク王国に戻ることもできるだろう。



「その提案はありがたい。こっちは巻き添えで連れて来られてるからの。それと、協力するかどうかはリジーの判断が必要だの……まあ、わしからは一言添えてやるよ。リズもそれで良いな?」


「は、はい! 私はそれで構いません」



 僕の提案に頷いた雷獣はリズに確認を取って僕に頷いた。決断が余りにも引が早くて驚いたが、世情を見極めての判断だろう。

 雷獣はエンカよりも気が利くようだった。



「悪いね。僕相手に気を使わせてしまって。リジーにはくれぐれも早まった行動はしないように言っておいてくれよ」


 照れ隠しにそう言うと、雷獣もそっぽを向いて不機嫌そうに言った。


「勘違いするなよ。これはリーグがお前を認めたからやっているだけで、お前を思ってのことではないからの」


 鼻息荒く言う雷獣は僕の背中を柔らかい尻尾で叩いた。


 言葉とは裏腹にそれは僕を認めてくれたのだろう。エンカが張り合って僕の背中を叩き始めたので間違いない。



「分かった分かった。それじゃ、次の移動はお互い別方向だ。また会おう、シーズ、とリズ王女」


 背中が痛くなってきたのを誤魔化すため、僕は別れの挨拶をしてリズの頭を撫でた。


「はえっ! えっ! あ、さ、さようなら。アルドベ……」



 リズ王女は突然のことで驚いたのか、甲高い声をあげた。最後の方は声も小さくなって聞こえなかったが、恥ずかしそうに僕の名前を呼んだことは分かった。


 敵だった僕に律儀に返してくれるところはリジーと違って新鮮だった。さらに痛くなる背中を無視して僕は次の転移魔法を展開した。



 そして、ベルネリアの海岸に着いた瞬間、雷獣とリズを少し離した場所に置いた。僕らの頭上には既に新たな魔法陣が展開されは始めているのでゆっくりとしていられない。


 片手で挨拶を終えた僕は、再び転移魔法で雷獣とは反対方向に移動した。



「で? かっこつけたのはいいけど、この後はどうするわけ?」


 消し飛ばされた山肌に降り立つと、エンカの刺々しい声が聞こえた。何に不満を持っているのか、未だに僕の背中を叩いている。


 色々心当たりはあったが僕はそれを無視してフォレスの方を見た。移動中にメウラの治療を受けたらしく、顔色は悪いが意識はあるようだった。



「フォレス、何かいい手はないかな? 正直言って、僕は移動で手が一杯なんだよ。君の魔法で何とかできない?」


 すると二方向から盛大なため息が聞こえた。フォレスとエンカだ。


 両腕のない相手に頼んだことと無策で動いていることに対して呆れているのだろう。

 フォレス達の僕を見るジト目がそれを物語っていた。



「勝手に巻き込んだのは悪かったよ。でもほら、旅の仲間は助け合いとも言うしさ、何とか頼むよフォレス!」


 新たに転移魔法を展開しながら軽く謝った。



 こんな切羽詰まっていてもまだ大丈夫と思えるのはフォレス達がいるからだ。それはフォレスも伝わっているようで、もう一度ため息を吐いた彼はいつもの調子で言った。


「こんな状況で笑ってられるとは、どれだけ俺の魔法を信頼しているんだか……まあいい、この追跡から逃げる方法が無いわけではない。賭けに近いがな」



 そう言うとフォレスは魔力操作で黒石の魔法具を取り出した。僕の質問は想定済みだったのか、既に魔法の発動準備は整っているようだ。



「ここにいる全員の命を助けるため、アルドベル、お前の命をいただくぞ」


 そう言って僕に不適な笑みを向けたフォレスは、僕の返事を待たずに魔法具に魔力を流していった。

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