第二百五十話 天の攻撃
金色に光る魔法陣は僕の視界いっぱいに広がっていく。
空間系の魔法と攻撃系の魔法が組み合わされていて、これは僕を殺すための光だと言うことが見るだけで分かる。
タイミングで考えるなら天教会からの攻撃だろう。
僕の居場所をどうやって見つけたのか分からないが、未知の魔法を使える相手なら可能性がないことはない。
魔法陣の大きさから見て、この一帯を吹き飛ばすには十分な魔力が込められている。走って逃げられる距離ではない。
「ちょっと……何よ、あれ」
魔法陣の完成が着実に進む中、僕の横でメウラが消えそうな声で言った。
下を見ると、メウラは地面にへたり込み、驚愕を通り越して絶望したように上を凝視していた。
小さな肩も小刻みに震えている。その肩にそっと手を添えると、メウラはゆっくりと僕の目を見た。
「メウラ、大丈夫だ。ここから先は僕に任せろ」
傷が癒えた今なら動ける。疲れはあるが、気力は十分だ。
僕は自信を持ってメウラに告げ、転移魔法の構築を急いだ。
あの魔法陣の少し外では余波を喰らう可能性もあるので、麓のジストヘール荒原の境目に転移することにした。
僕が行き先を決めた時、ちょうど頭上の魔法も完成したらしく、その光が一際強くなった。
どうやら完成しても攻撃の規模は変わらないらしい。移動しても攻撃範囲内と言うことはないだろう。
「今だ、行くぞ!」
日の光よりも明るい光が出た瞬間、僕はメウラを連れて転移した。
ジストヘールに着地した瞬間、僕はメウラから手を離して地面に転がる。今のこの体での空間転移は、疲労という面で相当きつい。
ベルネリア山の方に視線を向けると、白い光の筋が空から降り注いでいる。そして、僕らがさっきまで立っていた場所を山肌ごと吹き飛ばされていた。
「傷が癒えてなかったら危なかったな、助かったよメウラ……それと、リーグも」
僕は二人に感謝して起き上がる。
もしかしたらリーグは、この状況すらも予想していたのかも知れない。
生き残った安堵のせいか、僕はついリーグに思いを馳せてしまった。
「待って、嘘でしょ……あの攻撃、単発で終わりじゃないの?」
しかし、僕らの窮地はまだ続いているようだった。
メウラの声に吊られて上を見ると、新たな魔法陣が上空に浮かび上がっていた。それも、さっきより構築が早い。
「まずい! メウラ、僕に掴まれ!」
状況を一瞬で理解した僕は、メウラの右手を掴んで転移魔法を瞬時に構築し、即座に発動した。
行き先を悠長に選んでいる暇はない。あの攻撃が届かない場所を選んだ。
再び腰が強く引っ張られる感覚が来ると、僕らはジストヘールの中心部に転移した。
「ぐっ……流石にしんどいぞ。休まずの転移なんてーー」
体に押し寄せてくる疲労に愚痴をこぼしそうになったが、再び頭上に現れた魔法陣に一瞬で言葉を失ってしまった。
三度目の攻撃は、僕が転移する場所が分かっていたかのように既に構築が完了していた。
「くそっ、こうなったら持久戦だ。絶対に逃げ切ってやる!」
敵の攻撃がどこまで続くか分からないが、負けたくなかった。リーグに助けられた命はそう簡単に消せるほど安くはない。
痛む体に鞭を打った僕は転移魔法を連続で展開した。敵の攻撃間隔が短くなっているので、転移が終わったらすぐ次の場所に移動できるようにする。
上空の攻撃はいくら構築が早いと言っても、僕が転移するまでは展開が始まらない。
先にふたつ先の転移魔法まで準備しておけば、攻撃を受ける前に確実に移動できる。
そこからは僕の体力勝負になっていった。
転移を終えた時には次の攻撃が上空に展開され、それを回避するため即座に次の転移魔法を使用する。それを幾度と繰り返した。
なるべく人里を避けてはいるが、小さな村はいくつか吹き飛んだかもしれない。だが、逃げるのに精一杯な僕はそれを気にする余裕はなかった。
「やっぱりじり貧だ……一度エンカ達と合流しよう。何か策を思いつくかも知れない」
北西に移動しながら僕はこの後の策を練った。
アネット山でエンカとフォレスを回収した後、フォレスの魔法で回避する。そんなうまくいく魔法をフォレスが持っているか分からないが、今は仲間に頼るしかない。
僕は祈る気持ちでフォレス達のいるアネット山へ跳んだ。
「なっ、何だ! 何でこんなことになってるんだ?」
しかし、海の拠点に着いた瞬間、僕は目の前の光景に素っ頓狂な声をあげてしまった。
アネット山では僕の予想とは違って激しい戦闘が行われていたのだ。エンカは海面上で雷獣のライカと戦い、フォレスはリズ王女と戦っている。
エンカとライカの戦いは拮抗しているようで平行線を走っている。
ただフォレスの方は不利のようだった。いつの間にか左腕も失っているフォレスは、魔力操作で浮かせた剣を振ってリズの猛襲をどうにか凌いでいる状況だった。
恐らくシェスの足取りを追って来たのだろう。僕は自分の詰めの甘さに頭を抱えそうになったが、この状況を見ている訳にもいかない。
そうこうしている内に上空に金色の魔法陣が展開されていく。
「……迷ってる暇はなさそうだ。一度全員を飛ばそう」
深呼吸で気持ちを切り替え、僕は目の前で戦っている者達を空の攻撃範囲から離れた砂浜に強制的に転移させた。
「え? アル? どうなってんのこれ?」
「何? アルドベルだと? 貴様どういうつもりだ!」
メウラを連れて彼らの元に向かうと、案の定、神獣達の騒ぐ声が聞こえた。
その隣では、フォレスは僕の登場に安堵の表情を浮かべ、リズ王女は突然の変化に困惑した表情をしている。
しかしここで争っている暇はない。僕は右手で彼らを制し、状況を説明するためさっきまで戦っていた場所を指差した。
その瞬間、空から光の柱が降り立ち浜辺を抉るように吹き飛ばしていった。
「見ての通りだ、今僕は未知の敵に追われている。細かい説明は転移で移動しながらさせてもらうよ」
驚く面々を僕は一瞥し、次の転移魔法を展開しながら言った。




