第二十三話 少女と儀式
器は示された 継承の間よ 星の雫を求める者に戸を開け
神アイルは見定める
邪を屠る者を……
私はジークの言葉は聞こえたが、その意味まではすぐに理解できなかった。器、それに、継承の間? 剣を取るだけで終わりではないのだろうか?
白髪の青年はゆっくりと私の方に歩き、期待するような眼差しで私を上から下まで観察し始めた。私は彼が何か言うまで出方を待った。
しかし、彼は終始無言で、最後には無表情のまま首を振ってしまった。
「やはり、私の思い過ごし……確かにそのようなことなどあり得ない。この子の姿は偶然似ているだけ」
小さな声で嘆く彼に私は首を傾げた。継承の間の意味を聞きたかったが、彼は全く違う内容を言っているように聞こえた。
「どう言う意味ですか? それと、さっきの継承の間とは何ですか?」
「……さっきのは気にしなくていい。それより、継承について説明しましょう」
そう言うと、ジークは神器が安置されていた台座の奥を指差した。そこにはさっきまで壁だったところに紅い扉が出現していた。
「あの入り口から神殿最深部に向かい、そこで力を示してください。力を示した暁には『星の雫』が継承されるでしょう」
どうやら、剣を持ち上げるのは何かしらの器を測る行為だったようだ。実際に『星の雫』を継承するには何らかの挑戦をしなければならない。
「内容はこの場で伝えることはできません。ですが、『継承の間』では命の保証はされません。力を示せなかった時は死ぬと言うことを覚えておいてください。ただ、この先に進むも止まるも自由です」
後悔のない選択をしなさい。そう言うとジークは指をパチンと鳴らした。すると紅い扉は重い音を立てながら全開になった。
扉の奥は今までとは違い、先が見えないほど暗かった。視線をジークの方に戻す。彼は私を興味深そうに見つめていた。
「私が挑まないと言う選択肢も用意されているんですね。その場合、この剣とあの扉はどうなりますか?」
「君が挑戦しなくてもその剣は生きている限りは君のものです。しかし、『継承の間』は力を示す者が現れるまで開き続けることになります」
それは、私以外の人間が『星の雫』を継承することも可能だそうだ。
「しかし、神器すら持てない人間が生き残れるほど甘くはないですがね」
ジークの話を聞いてため息が出た。私が挑戦しないと言う道はなさそうだった。
誰でも挑戦することができると言うことは、私が力を示さない限り無駄な犠牲者が増えることになる。誰かが死ぬことへの罪悪感、私はこの感情が嫌で仕方なかった。
もう一つ、命をかけるところにもリスクがある。もちろん、死ぬことへの恐怖がないわけではない。
それ以上に恐ろしいのは、私の復讐が果たせずに終わってしまうこと。それだけは避けなければいけない。
危険が迫ったら転移魔法で離脱しようか、と対策を考え始めたところで視界の隅を誰かが通り抜けた。
と同時に「あっ、お兄様! 何をするんですの!」と言うシェリーの声が聞こえた。
「この女以外に挑むことができるのであれば、私にもまだチャンスが残っている、と言うことだな?」
そこにはいつの間にか気絶から回復したジル・ルードベルが開け放たれた扉の前に立っていた。
そして、彼の後ろにはシェリーがいた。 彼女はジルに手首を掴まれるているようで動けないでいた。
必死になって振りほどこうとするも、彼の手から離れることはできなかった。
「シェリー!」
気づくのに遅れたことを後悔した。一瞬で扉の前まで詰めるも、ジル達は扉をくぐった。その瞬間、扉が閉じてしまったのだ。
閉じた扉は重く、どれだけ押してもびくともしなかった。背中に嫌な汗が滲む感じがした。




