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第二十二話 少女は継承者

「ようこそいらっしゃいました、ストルク王国の方々。私の名はジーク。この神殿の守護人です」


 不意に男の声が響き渡った。珍しい光景に騒ついていた貴族達もその声に反応して静かになった。すると、台座奥の影から一人の男が姿を現した。音もなく現れたのは白髪の青年だった。黒い服に身を包んだ彼は生気が感じられないほど白い肌をしており、見る者の背筋を凍らせた。



 ジークと名乗った青年は淡々と儀式の内容を話した。

 内容はエイン王女が語っていた内容と同じで、剣を持ち上げられた者が力を継承するというものだった。


「とは言え、この一千年の間は誰も継承できてません。あまり気負う必要はないでしょう」


 彼はそう言うと私達に視線を向けた。一人一人観察するように眺めていた彼は、私と目が合った時に少し驚いたような顔をした。しかし、それも一瞬のことで、すぐに元の無表情に戻った。


 息を飲む音が聞こえたので横を見ると、隣にいたシェリーが身震いしていた。


「シェリー? どうしましたか?」


 小声で話しかけるとシェリーは顔をプルプル振りながら「な、何でもありませんわ」と言った。


 ただ、彼女は青い顔をして彼を凝視していた。周囲を見回すとシェリーと同じように硬直している人が何人か見受けられた。



「では、どなたから行きましょう?」


 ジークの声が反響する。彼の不気味さに押されてか、すぐに動いた者はいなかった。団体の最後尾にいた私は、押しのけてまで行く気は無かった。



「では、私から行かせてもらおう!」


 少し間を開けて高らかに宣言した人がいた。その声は昨日聞いたばかりだ。シェリーの兄ジルが前に進み出た。悠然と歩くその後ろ姿は、どこか自信に満ち溢れていた。昨日の事件からは回復したようだった。


「ストルク王国上院貴族、その中でも有数のルードベル家の嫡子、ジル・ルードベルだ」


 ジルは白髪のジークに自己紹介し、右手を差し出して握手を求めていた。しかし、突然の名乗りにジークは小首を傾げた。


「貴方の意図は分かりかねます……後が支えますから早くしてください」


 ジークは彼の手を取らず、剣に触れるよう促した。その対応にジルは憤慨したようだ。


「どう言うつもりだ。貴様、先程は私に目配せしたではないか」


 ジルの言っている意味が分から無かったようで、ジークは意味を問うた。しかし、ジルが説明した内容を聞いて彼は初めて笑った。広い空間に冷たい笑い声が響いた。


「君が継承者だから私が目配せをした? 見た目によらず面白いことを言う方だ。私は貴方のことは眼中にありませんでしたよ」


 早く行きなさい、とジークは再度促した。

 眼中にないと言われたジルは顔を真っ赤にさせながら台座に向かった。



 しかし、ジルは剣に触れることが出来なかった。彼が手を伸ばす直前、剣から眩い光が放たれて彼を吹き飛ばしてしまったのだ。まるで剣に意思があるかのように鞘が明滅していた。


「一つ言い忘れましたが、邪な欲望しかない人間は剣に触れることすら許されない。彼のように吹き飛ばされますのでご注意ください」


 ジルはさっきの衝撃で背中から落ちたらしく気を失っていた。アセットたちが急いで介抱していた。


「お兄様……」


 シェリーは心配そうに呟いていたが動くことはなかった。


「気を失ってるだけです。すぐに目を覚ましますよ」


 こっそり魔力を送って彼の状態を調べたが、どこにも異常はなかった。そう伝えてシェリーを安心させた。


 問題は目の前の儀式だ。


 貴族達も同じ考えのようだった。さっきまではただ剣に触れるだけでいいと軽い気持ちでいたのに、大勢の前で邪心を暴かれる可能性も出てきたのだ。公開処刑もいいところだ。



 それでもやはり貴族としてのプライドが勝ったのか、次々に挑んでいった。大半の人は吹き飛ばされることなく剣に触れることが出来たが、それでも剣を持ち上げるまでには至らなかった。


 どれくらい経ったか、列もだいぶ短くなってきていた。壁際には吹き飛ばされて気絶した貴族達が寝かされていた。無事だった人たちは残りの挑戦者たちを介抱ついでに眺めていた。


「残りは私たちだけのようですわね」


 気付けば私とシェリーを除いて全員終えていた。



「そうみたいですね。それじゃ行きましょう」


 そう言って並んで歩いて行った。台座に近づいたところでシェリーが一歩前に出た。



「リジー、私が先に行きますわ。もし、飛ばされたら、受け止めてくださいね?」


 緊張した面持ちで振り向いたシェリーは冗談めかしく笑った。ルードベル家の参加者は全員気絶していたから心配なのだろう。私が頷くと、彼女は決心したように台座へ向かって手を伸ばした。



 結果としては、彼女は剣に触れたが、持ち上げるには至らなかった。ただ、シェリーは今まで見せたことのない笑顔で戻ってきた。


「やっぱり駄目でしたわ。でも、私はお兄様達とは違うって証明されたみたいで自信がつきました」


 微笑む彼女はどこか輝いて見えた。


 残すは私だけとなった。さっきまでざわざわと話していた貴族たちもそれに気付いたのか注目しだしていた。昨日、あれだけ暴れたのだから注目されるのは仕方ない。



 エイン王女の方を見ると目が合った。彼女は力強く頷いて返した。行ってこい、と言っているようで背中を押してもらえた。


 恐らく、この中で一番邪な考えを持っているのは私だ。両親、メリルとカインの敵を殺したい。その暗い欲望はずっと渦巻いている。私の復讐心は、純粋な殺意を苗床に育った。それを見抜かれれば剣に吹き飛ばされる可能性は高い。



 立ち止まっていても仕方ない。意を決して台座に向かって歩き出した。



 私が近づくと、青雷は青白い光を放ち始めた。弾かれると思って身構えるも何も起きなかった。剣に近づくたび、その輝きは増していった。不思議なことに眩しくはなく、微かに温もりを感じた。



 目の前に立つとこの剣の凄さをより強く感じ取れた。たぶん、この剣の全魔力で攻撃すれば小さな町なら塵一つ残さないだろう。

 そう思いながら右手を伸ばすと、剣の輝きが突然消失した。不思議に思っていると剣が飛び出し、伸ばした右手に収まった。全く重さを感じさせないその神器は持ちやすく手に馴染んだ。


 剣が飛んできたことに少し驚いたけど、神器ならそれもあり得るかと勝手に納得した。それよりも驚かされたのは、手に取った瞬間、剣の形状が変化したことだ。

 王国騎士たちが扱うような長剣だったそれが、私が普段扱う細身の剣へと変わったのだ。もしかすると、持ち主の意思に反映されて形状が変化するのかもしれない。


 そう考えながら剣を見つめていると、私はあることに気が付いた。それは私が剣をもっていると言うことだ。形はどうあれ、『星の雫』を継承する条件を満たしてしまっていた。

 その考えに至った直後、ジークの抑揚のない声が響き渡った。


「器は示された! 継承の間よ、『星の雫』を求める者に戸を開け!」

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