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第二百十一話 王女と旅立ち

 次の行き先が分かった私は、険しい顔をしたアレク将軍を連れて一度地上へと戻ることにした。

 今後の行動を決める為にも一度落ち着いて考えたかった。



 そして地上に降りた私達はシェリー別荘で作戦会議を開くことになった。


 今私達にできることは三つある。


 一つはセレシオン初代国王の墓場へ赴き、アルドベル達を追跡すること。二つ目は黒石の魔法具を辿ってシェス・ルードベルの居場所を追跡すること。そしてもう一つがパウリに関して情報を集めることだ。



 三つ目に関しては無視しても良かったが、私達に協力してくれた人物が善人でない可能性もある。


 もちろんこれは何の根拠も確証もない話でしかない。それを分かった上でアレク将軍か秘密裏に行動することに決まった。



 自国の中で得体の知れない何かが蠢くようで気が休まらないのだろう。対策を話し合った後、彼は足早に王城へと戻って行った。

 王城の警備強化も兼ねてパウリのことを探るようだった。


 アレク将軍は冷静沈着な人間だが、自らの犠牲を厭わない場面も多々見受けられる。国のため、民のため、その身を全て捧げる騎士らしい行動ではある。


 しかしそれはいざという時に命を危険に晒すことにもなりかねない。


 彼がパウリのことで踏み込み過ぎないよう見張れ、とフィオとベルボイドに補助を命じた。

 パウリのことを知る二人なら、アレク将軍が無茶するような真似はさせないだろう。



 そして、残った私達は二手に分かれて追跡を続行することにした。


 私とジークの組はアルドベルの追跡だ。彼は今屍人のリーグを連れているので、私とジークで迎え撃つのが現実的だ。


 そしてリズとシーズの組はシェス・ルードベルの追跡を行う。


 実はリズは私の帰りを待つ間、魔法具の最構築と転移先の解析を終わらせていた。

 ジーク達のちょっとした手助けはあったものの、それを殆ど一人でやったらしい。


 それなら思い切って彼女に託してみよう。そう考えた私はリズにシェスの足降りを追ってもらうことにした。


 仮に戦闘が発生してもシーズが側にいる。それに、この短い期間でも彼女には最低限生き残る術は教え込んだので何とかなるだろう。



 そして旅用の荷物をまとめた私達は別荘の広い庭に集合した。



 リズはエイン王女に倣った黒い戦闘服に身を包み、旅用の黒い外套を羽織っていた。普段は白いブラウス姿だったので、初めて見る姿に彼女の成長を感じる。


 ただ、彼女とはしばしの別れとなるので少し不安な気持ちになる。

 大切に育てた弟子が私の手元を離れる。ストニアも私が王都に行く日はこんな気持ちだったのだろうかーー



「そう心配するなリジー。リズのことはわしに全て任せてくれ。無茶はさせん」



 シェリーとリズの別れの挨拶を見ていると、シーズが私の右手に額を擦り付けて言った。

 手の平から伝わるシーズの温もりが揺らいだ心を落ち着かせてくれる。シーズがいれば多少の荒事も問題ないと安心させてくれる。


 さっきまで張っていた息をそっと吐き出し、シーズに感謝しつつ言った。



「それもそうですね。リズのこと、シーズに任せました」

「うむ。あーその耳の裏、もっと掻いてくれ。そこそこー」



 私が撫でるとシーズは気持ち良さそうに耳を動かす。最後がしまらないのは何とも惜しいがシーズらしい。

 しかしこの毛並みともしばらくは触れ合えない。私も今の内に堪能することにした。



 そして私がひとしきり撫で終えるとシーズは大きく伸びをしてジークに向いて言った。


「ところで、ジーク。お前の方は大丈夫だろうな? 今度はリジーから離れるなよ?」


 それはベルネリア山の戦いのことを言っているのだろう。

 あの時、アルドベルの策にはまり、私達は見事に分断されてしまった。その反省を活かせと暗に言ったようだった。


「ああ、次は失敗しない。私に任せておけ」


 それが分かっているジークは大きく頷いて言った。


 シーズはそれだけで満足したようで鼻を大きく鳴らすとニヤリと牙を見せて笑った。それを見たジークも表情は崩さなかったが照れ臭そうに口の端を緩めた。


 ジーク達は何だかんだ言っていいコンビだ。横で見ているだけで微笑ましく感じる。



「リジー姉様、あの……少しよろしいですか?」


 ジーク達のやり取りを見守っているとリズが背後から私を呼んだ。

 振り返ってみると少し伏し目がちにしたリズが立っていた。少し声も落としているので相談ごとだろうか。


 戦闘が起きるかもしれない調査で私の元を離れる。


 それは私が彼女の実力を認めたから実現したことなのだが、生まれて初めての独り立ちは勇気がいる。今のリズは風が吹けば倒れてしまいそうな気持ちなのかもしれない。


「初めての単独行動は不安ですか?」


 リズの胸中を察した私は単刀直入に聞いた。

 私の予想が当たったのか、リズは一瞬ハッとしたように顔を上げ、私と目が合うと再び視線を下に落とした。


「はい。すごく、不安です。うまくできなかったらどうしようとか、戦いが始まったら私は本当に戦えるかな、とか色々考えてしまって……」



 リズは震える両手を誤魔化すように胸の前で強く握りしめた。


 彼女は元々引っ込み思案だったのでその影響もあるだろう。気丈に振る舞って入るが、やはり私の前ということもあって無理もしているのかもしれない。


「今回の調査は何も気負う必要はありません。今回が初めてなのですから、まずは自分のことを最優先に考えて行動してください」


 そう言って小さく震えるリズをそっと抱きしめると、同じ背丈のはずのリズが私の胸にすっぽりと収まった。


 私の予想通り、リズはやはり不安で一杯だったようだ。熱い日差しの中でも、リズは凝るように体を震わせていた。


 こういう時は多くを語る必要はない。彼女を勇気づけるには、手の温もりと温かい言葉だけでいい。


 まずはリズを落ち着かせるため、背中に回した両手でリズの背中と頭を温める。

 すると、私の手の動きに倣うように、彼女の震えも徐々に小さくなっていった。



 そして、彼女が落ち着いたあたりで抱擁を離し、リズの両肩を抑えた。



「リジー姉様?」


 突然のことでリズの困惑顔が見えた。


「今のままでも貴女は十分できると思います。ですが、もし、リズが少しでも前に進みたいと思った時、今から言うことを実践してください」



 私の言葉が耳に入るとリズは頭を小さくこくんと縦に振った。


 彼女の震えは止まっている。もう動けるだろうが、最後に勇気が湧く魔法の言葉をかけてあげる。


「最初の一歩目は躊躇わず、力一杯踏み出してみて。それがリズの支えになるはですよ。リズの実力は私が認めたのですから自信を持ってください。離れていても私は側にいますから」



 私が言ったことは、改めて考えれば当たり前のことだ。訓練中もリズは同じように打開してきたので頭の中に入っている。

 しかし、緊張して視野が狭くなっている状況だと思い出すことも難しいのだ。



 リズは一人じゃない。私もジークもシーズもいる。

 国に帰ればキンレイス国王やエイン王女、その他にもリズの成長を見守っている人がたくさんいる。


 そのことを教えると、リズは今度は嬉しそうな表情になった。

 もう迷いはない。いい目をしていた。


「リジー姉様、ありがとうございます。私も、精一杯頑張ってみます!」



 迷いを晴らしたリズはとびきりの笑顔になった。

 それは、今日のどの空よりもずっと青くて輝いていた。

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