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第二十一話 少女と神殿

 昼からの馬車旅は久し振りに楽しかった。

 シェリーと打ち解けたことが大きかった。翌日、神殿に到着するまで二人で話し込んだ。


 シェリーが魔法剣士に興味があると言ったので、ストニアとの訓練内容を伝えたら、青ざめながら「そんなことしたら普通の人は死んでしまいますわ!」と言っていた。


「……やっぱり私は戦いに参加するよりも、文官として働く方が性に合っているようですわ。リジーの話を聞いただけで足が震えるんですもの」


 シェリーはため息混じりに呟いた。実家で魔法師の仕事はしてはいるが、正直なところ居辛いらしい。嫁入り前に軽く仕事を経験させられているだけなのだから無理もない。


「それで私、思いましたの。この家を出て一人で生きていこうと。親元を離れて暮らすのは些か不安ではあるのですが、それで居座っていては何も始まらないわ」


 それに、長男のジルが継ぐのであれば、彼女は家にいる必要はないと考えたらしい。


 少し興奮しているシェリーを見る。昨日の暗い顔とは打って変わって目が爛々と輝いていた。私の影響でも受けたのか、家を出ると言う意思は堅いようだ。


 実行しようとすれば両親との衝突は起きるだろう。だけど、それは彼女自身が解決するものだから私がとやかくいう話ではない。


 ただ、困ったことがあったら助けると伝えるとシェリーはほくそ笑んだ。


「もちろん実家との衝突があるのは承知していますわ。でも、私はこのままでは本当に生きている意味を感じられなくなってしまいますわ!」



 シェリーが決意表明したところで馬車の動きが止まった。窓の外を見ると草原の中に石造りの神殿が目の前に見えた。


 それは、全面が白い巨大な箱の建造物だった。ストルク王国の城より遥かに巨大だ。


 いくつも立ち並ぶ白い柱が巨大な屋根を支えているのだろうか。とても人が作れる代物ではない。神話時代に神が人々を導いて建設したと言われているのも頷ける。


「話には聞いていましたけれど予想以上に大きいですわね」


 一緒に窓を覗いていたシェリーが感嘆した。これはこの世界の建造物の中でも一番じゃないかというくらいだった。


 少なくとも私が見てきた中では一番巨大だった。離れて見ていても自然に光っているように日の光を異様なほど反射していた。



 神殿に近づくとその異様さがさらに際立っていた。白い石壁には汚れが一切見当たらないのだ。


 普通の建造物ならば、日々雨風にさらされて砂などの汚れが蓄積していくものだ。ましてや神話時代から存在するのなら風化が進んでいてもおかしくない。


 しかし、この神殿はそういったものが一切見当たらなかった。まるで、神殿だけが時間から切り離されて存在しているかのようだった。


 神殿の周囲にだけ草木がないのがそれをさらに連想させる。



「リジー、何していますの? 皆さんはもう中に入ってしまいましたよ?」


 シェリーの声がした方に顔を向けると、不思議そうな顔をしてこちらを見つめていた。


 神殿を眺めるのに夢中になっている間に全員中に入ってしまったらしい。エイン王女とフィオが彼女の近くに立っているだけだった。


「リジーもこの神殿のことが気になるようだな。私もここへ来るたびに不思議に思っているよ」


 エイン王女も神殿を眺めながらポツリと呟いた。


「本にも書いてなかったものでつい見入ってしまいました」

「この神殿は次元が違いすぎる。学者達は皆そう言って匙を投げてしまっているんだ」


 王女はそう言って日に照らされる神殿をまた眺め始めた。



「……さて、儀式の方はすぐに始まるはずだから、私たちも中に入ろう」


 一通り眺め終えたエイン王女はそういって私達を神殿の中へと促した。


 シェリーと並んで神殿に入っていくと、中の光景にも驚かされた。松明などの明かりはないというのに神殿内は光に満ち溢れていた。


 外の日の光が壁を透過して降り注いでいるかのようだった。白い壁がさらに明るさを増長していた。


「そう言えば、儀式のことだが、内容は簡単だ。奥に神器が祀られているんだが、それに触れるんだ」


 エイン王女は思い出したように語り出した。神殿内の記憶は外に出ると思い出せないと言ってたっけ。


「神器に触れるだけでいいんですか?」

「正確には神器を引き抜いた者に英雄の力である『星の雫』が継承されると言われている」


 エイン王女の説明は続いた。神器は神殿奥、円柱の台座に突き立てられているという。神器の名前は青雷という剣だ。


 神アイルが本物の雷を封じ込めた魔法剣で、ありとあらゆるものを斬り裂くという。


 英雄リーグの伝記では、この剣は『星の雫』を継承する者だけが扱うことができると書かれていた。


 理屈は分からないが、普通の人間では触れることすらできないようなのだ。国王もエイン王女も試みたが触れるだけで動かなかったという。


「それから、剣がある部屋には守護人がいる。これは比喩ではなく、本当に人間がいるんだ。ストルク王国が建国された時代には既にここにいるらしい。神からこの神殿を守るために配置されたと言っていたな」



 そうして進むうちに大きな扉のところにたどり着いた。既に大きく開け放たれている扉は、他の白い壁と違い、蒼い装飾が施されていた。


 王族のエンブレムに使われている色と同じだった。その重厚な扉をくぐり抜けた先には広大な空間が広がっていた。


 白い柱がいくつも立ち並ぶこの空間は先ほどの通路と違って天井が異様なほど高かった。


 天井には巨大な絵画が描かれている。中心に太陽が描かれていて、二人の人物が線対称に配置されていた。


 一人は炎を模った剣を構え、もう一人は雷を纏わせた剣を持っていた。この二人は天教と星教がそれぞれ信仰している神、ハイドとアイルなのだろう。


 中心の太陽からはスポットライトのように強い光が差し込み、台座に鎮座する神器を照らしていた。


 扉の色と同じ蒼色の柄の剣だ。蒼色の鞘に収まっているそれは淡く光を反射していた。


 少し離れていたが、途轍もない魔力が内蔵されているのが分かった。扱いを間違えれば使用者もただでは済まない。そう危険に感じる程の魔力だった。



「ようこそいらっしゃいました、ストルク王国の方々。私の名はジーク。この神殿の守護人です」


 不意に男の声が響き渡った。

いつも読んでくださりありがとうございます!

新たなキャラクターの登場ですね。彼は一体何者なんでしょうか?

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