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第二百二話 白王の苦慮

 オレは屍人魔法による復活者だ。ただ普通に復活した場合は自由に行動できるが、今のオレはアルドベルに操られている。


 最も全ての行動が縛られている訳ではない。戦いに関すること以外は縛られず、自分の意志で行動できる自由がある。


 それは使役する人間としてはかなり優しい対応だと思う。



 普通だったら完全に行動を縛り、戦いの道具として使役するだろう。それを敢えてしないということは、死人を普通の人間として扱うことと変わらない。



 それがこの男の深根が腐っていないからこその配慮だろう。彼の中に人間の心がまだ生きている証拠だ。



 初めの頃は本当に破壊者としか映らなかったアルドベルも、今では復讐に囚われた哀れな人間としか見えない。


 それは一緒に旅をしてそれがよく分かったことだ。

 普段の気さくな態度が彼の本質なので、真人間に成長していればきちんとした王として君臨したことだろう。


 それなら、オレが出来ることはただ一つ。この男を心から支え、少しでもまともな人間に戻すことだけだ。


 荒んだ人間でも、どれだけ罪を犯した人間でもやり直せる可能性があるならそれに賭けてもいい。



 できればこの国では戦闘に巻き込まれることなく穏便に済ませておきたい。

 そう願っていたが、セレシオンの石碑にたどり着いた今、現実は否定するように進んだ。



「リーグ、二人を殺せ。リジーが来る前に謎を解いてここから離脱するぞ」


 いつもより冷たく放たれたアルドベルの声に俺の体は即座に反応した。


 命縛法により動いたのか、はたまた自分の意思で動いたのかは分からない。ただ今は彼の命令を遂行するだけのリーグでいればいいと直感した。


 以前殺し損ねた二人なので、今度こそきっちり始末すればそれで終わりなのだ。

 それで今まで通りの旅ができる。この男が壊れる様を見なくて済む……



「元同胞達よ、お前たちに恨みはないが死んでくれ。今は急がなければならんからな」


 俺は名も知らぬ二人に向けて剣を抜いて構えた。


 前回の戦闘で彼らの実力は大体把握している。特に労することなく倒せるだろう。



「そうよね、まずはあんたから倒さなくちゃアルには届かないわよね……あの時の痛み、そのまま返してあげる」


 以前腹を刺した女が口を開いた。余程自信があるのか、手に持つ短剣に魔力が込められる。


 前回は彼女の攻撃を良く見ずに制圧したので気づかなかったが、魔力強化の練度はなかなかのものだった。



「ほう、そこまで洗練できたのか。この二節の間にどういう修練を積んだ?」



 少し興味の湧いた俺は女の方に声をかけたが、それは前と同じように無視された。


 やはり敵対者と深く言葉を交わすことは難しい。こちらがどんなに話しかけようが、相手は聞く耳など持たない。


 せめて一撃で終わらせてやろう。

 目の前に飛び込んできた彼女を、真っ二つにするつもりで魔力強化した剣を振り抜いた。

 しかしーー


「なるほど、受け止めたか……」


 思わず感嘆してしまった。


 全力で振ったオレの一撃は、彼女の剣で受け止められ止まった。


 よく目を凝らせば魔力強化の外側に魔力の鎧のようなものが展開されている。普通の人間が扱う防御魔法よりもずっと強固な魔法だ。



 少なくとも何かの対策はして来ると思ったが、まさか受け止められるとは思わなかった。


「リーグの攻撃力は私が一番理解しているわ。二度、同じ失敗は繰り返さない!」


 女はさっきより苦しそうな息を漏らしながら言った。


 攻撃は受け止められても衝撃までは逃しきれなかったのだろう。彼女の腕が痙攣を起こすように俺の剣を押し返そうとしているのが分かる。



「それに今は二対一だ。いくら元継承者でも、二人同時に相手にするのは難しいだろう?」


 目の前の剣に気を取られていると、不意に頭上から声が聞こえた。



 咄嗟の判断で女の剣を下に流し、そのまま自分の体を地面に転がす。その瞬間、さっきまで俺の頭があったところに天から剣が振り下ろされる鈍い光が走った。



 いつの間にか頭上へ移動した男の振り下ろしの攻撃だ。避けていなければ頭を砕かれ消滅したかもしれない。


 こいつら、前回会った時よりも魔力の質も攻撃の技術も格段に上がっている。



 突然の戦闘力の増加。その意味を考える前に目の前にいた女がニヤリと笑った。


「少しは驚いたようね。今の私達はリジー様の防御魔法が働いているのよ。だから、前回のように簡単にやられないわ!」


 女はそう言うと、腰に装着している魔法具に手を重ねた。


 半透明な円盤状のそれは、彼女の手に呼応するように青い光を放つ。すると、彼女の体を覆っていた防御魔法がさらに強化されていった。



 改めてそれを見ると、その魔力はリジーから渡されたものだと分かる。使用者に強力な防御魔法を付与し、魔力も外部供給なので疲れることはない。

 完璧な補助魔法具だ。


「それがお前たちが強化された秘密か。なるほど……あの娘が関わっているならすぐに殺せそうもないということだな」



 二人の腰に装備された魔法具を見ながら言った。まずは魔法具を破壊し、隙ができた瞬間に息の根を止める。あるいはそれをも上回る力で捩じ伏せるしかない。

 

 問題は防御魔法を破壊する手段が指折り程度しかないことだ。果たして自分の攻撃で破壊できるだろうか。



 そんな一抹の不安を抱きながらオレは再び二人に剣を向けた。

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