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第百八十四話 少女の網

 セレシオンでの計画を伝えた私は、一人で王都の散策に出かけることにした。


 シェリー達を置いていくのは後ろ髪引かれる思いだったが仕方がない。この外出は表向きは散策だが、本当の目的は公言できないものだからだ。



 アルドベルの追跡のため、先にセレシオン王国に旅立ったフィオ達と合流する。

 二人は罪人として死んでいるはずなので、特にシェリーとリズに知られる訳にはいかなかった。



 そして、私は再び人気のない路地裏に立っていた。



 通信具を介してフィオに接触すると、待ち合わせにこの場所を指定されたのだ。雨が降った後のせいか、少しじめじめするが特に気にならない。


 そう言えば、ストルク王国で会話した時も同じような場所だったな……


 アルドベルと初めて接触した日に、私はフィオ達と同じような場所で合流した。その時のことを思い出していると、外の通路から人が一人歩いてくる気配がした。


 気配の方向に視線を向けると、普段着のような軽い服装をしたフィオが近づいてくるのが見えた。


 セレシオン王国では彼女を知る者はいないので隠れる必要もないのだろう。フィオは顔を隠すことなく堂々と現れた。


「思ったより馴染んでいますね、フィオさん。ベルボイドさんはどちらに?」


 彼女の相方の姿が見えないので、彼女の後ろに視線を投げて訊ねた。



「ベルは今は王都の反対側にいるはずよ。少し距離があるから私だけでここに来たのよ」


 近くの壁に背中を預けたフィオは私に視線を投げながら言った。


 ここについてまだ数日のはずだが、すでに方々に足を運んでいるようだ。彼女が街中に溶け込めるような服装を選んでいるのはそう言うことなのだろう。


「それで、リジー様も早い入国でしたが、王国側で何か新しい動きでもありましたか?」


 彼女達の行動に思考を巡らせているとフィオの淡々とした質問が飛んで来た。


 フィオ達を送り出してからまだ十日も経っていないのだから、彼女が不思議がるのも当然だろう。彼女の質問に頷いた私は、厳重に封をした二通の書簡をフィオに手渡した。


 それは王都リールを発つ前に事前に準備していた書簡だ。


 対象の魔力を持った者しか文字が読めず、読み切った後は燃えて消失するように魔法で細工している。これは機密情報を渡す際の一番厳重なやり方だ。


 厳重な封に驚いたフィオは書簡と私を交互に見比べた。



「中身は今この場で確認してください。内容に関する発言はこの場でしないように。ベルに伝える場合はもう一通の書簡を読ませて上げてください」


 ここはすでに他国で、どこに誰がいるか分からない。通信具で情報を渡してもよかったが、その場合、重要事項を聞かれないように工夫して話す必要があるので面倒なのだ。



 なので、私は全ての情報を書簡で共有しあった上で、最低限の指示だけ与えることにした。


 私の意図を素早く汲み取ったフィオは無言で封を解除し、中に書かれている内容を読み始めた。

 するとフィオの表情はすぐに曇り始め、眉間に大きなシワを作った。


 書簡に記載したのは事の経緯とフィオ達への追加指令だ。


 シェス・ルードベル失踪の件と裏でアルドベルが絡んでいるかもしれないこと。私やジークでシェスの追跡をセレシオンで行うこと。


 そして、フィオ達には別のルートでアルドベルの所在を探ってほしいこと。



 書簡には今この国で席巻している内容を事細かに記載している。彼女の表情が険しくなるのは当たり前のことだろう。


 そうこうしていると、フィオが全て読み切ったのか、書簡が突然燃え始めた。

 辺りに紙の燃える軽い匂いが充満する。


「なるほど、これなら確かに厳重な封をするわね。さすがリジー様です」


 彼女は燃える書簡を空に散らして言った。

 書簡だけで全てを理解したのか、フィオはそれ以上何も言わず、私を見つめ返すだけだ。


 フィオはやはり優秀だ。

 数年間誰にも気付かれずにストルク王国に潜入していただけのことはある。


 そう感心した私は彼女達に新しい指令を伝えることにした。



「このセレシオン王国なら、フィオさんの元いた組織の情報網が使えると思います。彼がこの国で動こうとした場合、すぐに見つけられるはずです」


 フィオ達の元組織、灰。そこにはメウラという女が所属している。フィオの情報では彼女は世界中、各国につながりを持ち広大な情報網を持っているらしい。


 フィオはすでに組織を除名されているが、アルドベル達に見つからずにその情報網を利用することはできる。


 そこで、彼女に伝えた作戦はその情報網をを逆手にとった戦法だ。



 アルドベルがメウラの情報網に手をつけた瞬間に彼の居場所を手に入れる。餌を撒いて獲物が罠にかかるのを待つのだ。



 危険は伴うが、これはフィオ達にしかできない。

 私の指令を聞いたフィオは瞬時に目の色を変えて口角を吊り上げた。


「ベルの言葉を真似するようだけど、面白くなって来たわね。」



「はい。ベルネリア山では裏をかかれましたが、今度は私達が欺く番です」


 私はそう言って、最後にフィオと視線で言葉を交わした。



 彼女との主従関係はそれほど長くはない。しかし、信頼の厚さは、単純に付き合った長さで培われるものじゃない。

 互いにどう向き合うかによって深めることができる一面もある。


 この国にいる間、私は彼女に全てを任せるつもりでいる。情報網を利用した作戦は彼女でないとできないからだ。


 その代わり、私は彼女の命を預かる。任務の間、フィオ達に危険が及べば必ず助けに入るし、絶対に死なせない。


 そんなことを視線だけで伝える。


 すると、私の考えが上手く伝わったのか、彼女は満足そうに頷いて街中へと消えて行った。

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