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第百八十二話 少女達の旅路

 シェス・ルードベルの足取りを追うため、陛下に報告した三日後の今日、私はジークとシーズとリズ、それからシェリーを連れてセレシオン王国へと旅立った。


 どうしてここにシェリーがいるのかと言うと、彼女もリズと同じで付いて行くと言ったからだった。


 シェリーはベルネリアの戦いで一人待ちぼうけをくらい、相当に気を揉んだらしい。

 それは仕事に身が入らないほどで、それならばいっそ一緒に行こう、と言うのが彼女の説明だ。



 正直に言うと危険が伴う調査なので避けたかったが、他でもなシェリーの頼みだ。私は二つ返事で彼女も連れていくことにした。


 しかし私はセレシオンへの移動で一つ大きな失敗をした。

 それは王都クーチへの移動を転移魔法ではなく浮遊魔法にしたことだ。



 理由は単純で、ただ私が空を飛びたかったからだ。


 ここ暫くは戦闘中に浮遊魔法を使うくらいで、ただ目的を持たず空に浮かぶと言うことを全くしていない。


 なので少しでも楽しみを増やそうと、私は半日かけてセレシオンまで飛んでいくことに決めた。



「ううっ、やっぱり付いてくるんじゃなかった……気持ち悪いですの……」

「ごめんなさい。シェリーが苦手なの忘れてました」


 私は地面に四つん這いになって呻いているシェリーの背中をさすった。しかしその効果はほとんど見られず、単調な声が途切れず聞こえる。



 思い返せば神殿でも同じことがあった。浮遊魔法を初めて経験したシェリーは、少し気持ち悪そうにしていたはずだ。


 私は横から心配そうに覗き込むリズ達を見ながら反省した。



「このお腹の中を掻き回される感覚、忘れていましたわ。うう、でもリジーのせいではありませんの。行きたいと言ったのは私ですから……」


 しばらく唸っていたシェリーは落ち着いた頃にようやく口を開いた。


 こんな時まで私に気を使う必要はないと思ったが、それがシェリーの美徳でもある。

 私はそれに応えるように、酔いを覚ます治療魔法と体力を戻す魔法をシェリーに向けてかけてあげた。



 この魔法の利点は酔いが完全に覚めてすぐ動けるようになることだが、損害としては余り早くかけすぎると次回以降の魔法が効きにくくなることだ。


 つまり酔い覚ましの魔法は回復前にかけてあげるのが一番効果がある。


 それで大分回復したようで静かに深呼吸したシェリーは勢いよく立ち上がった。


「リジーの魔法は本当に良く効きますのね。助かりましたわ」


 シェリーはゆったりしたブラウスのシワを伸ばして言った。


「いいえ、私はこれぐらいしかできませんから。それより、そろそろ移動しましょう。人の目が集まり始めてます」


 服のシワに気を遣えるようになったら大丈夫だろう。そう思った私は、周囲で私達を珍しそうに眺める人々に目を向けて言った。



 私達はこの国の国民でもないので珍しいのだろう。十数人程度が遠目で私たちを見つめていた。特に私は普通に立っていても目立つので、災難が降ってくる前に移動した方がいい。


「そうですね。それでしたら、私の別荘へ行きましょう。案内しますの」


 私の心配を察知してくれたシェリーは、周囲の目を軽く受け流して悠々と歩き始めた。そこにリズも何事もなかったように付いていく。


 この二人は上院貴族と王族なので人の目に触れることは大方慣れてしまっているのだろう。


 いつも以上に堂々とした歩みに私は少し反応に遅れてしまった。



「リジーも行かんのか? 置いてかれるぞ?」


 シーズとジークも周囲を気にしていないようで私の両脇に立って待ってくれていた。不思議そうに話しかけるシーズの声が聞こえてくる。


 私だけ心配性だったのだろうか、と一瞬考えたが、虚しくなりそうだったので諦めてシェリーの後を追うことにした。




「ところで、別荘と言ってましたが、シェリーの家はセレシオン王国にも接点があったんですね」


 シェリーの横に並んだ私は、久しぶりに見るセレシオンの街並みを楽しみつつ訊ねた。


「ええ、お爺様のお父様、つまり私の曽祖父様の代から続いてますの。なんでも当時のセレシオン王国の経済を立て直した時、その報酬として屋敷を一つ受け取ったそうです」


 シェリーが言っているのは数十年前に起きたセレシオンの経済危機だろう。魔法学院の歴史で学んだ覚えがあるので大体のことは分かった。


「見えてきました。あれがルードベル家の別荘です」


 数年前の記憶を掘り起こしていると、シェリーが前方を指さして言った。



 彼女が指差す先には、シェリーの住む本邸と外観がそっくりな屋敷が建っているのが見えた。ストルク王国から丸ごと本邸を飛ばしてきたように見えるほどそっくりだ。


「大きいですね。本邸と同じくらいでしょうか」

「全く同じ外装と内装で作っていただいたそうですの。そこまで拘る必要もないと思いますが、昔の方は不思議ですのね」


 シェリーは呆れたように屋敷を見て言った。どうやらシェリーの曽祖父様は一流の商売人であると同時に相当の奇人だったようだ。


 実は本邸も別荘が建てられると同時に建て直ししたらしく、その拘りようには驚かされる。



 そして屋敷の情報に驚く内に私達は別荘へと到着した。

 別宅なので人はそういないだろうと思っていたが、意外なことに中は人で溢れかえっていた。


 セレシオン王国の女中や文官達がさながら王城の中にいるように歩き回っている。


 どうやらここではシェリーの兄妹達が仕事を受け持ち切り盛りしているらしい。

 シェリーの説明に女中たちの数の多さに納得した。



「さあ、着きましたわ。先ずは荷物を置きに行きましょうか。お部屋に案内しますの」


 シェリーはそう言うと、屋敷の奥へ進んでいった。

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