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第百八十一話 継承の意義

 二人旅は普段の相手からは見られない一面を見ることができる貴重な機会だ。

 移動に寝食など、殆どの時間を共に過ごすのだから、当然相手の本来の姿が見えやすくなる。



 そして、こう言う時は必ずと言っていいほど違いの信念や思想を交える現象が起きる。互いの生き方を見つめる時とでも言ったらいいのかもしれない。



 リーグもその風に早速当てられたのか、難しい話題を振ってきた。



 天の炎を僕が継承できた意味。そんな重い話題をいきなり話すあたり、彼は根は真面目な人間なのかもしれない。




 だがリーグが疑問に思うのも最もな話だ。


 天の炎や星の雫は本来は世界を救う人間が継承すると言われている。

 実際、僕の目の前にいるリーグも継承した力で世界を平和に導いた英雄になっている。


 普通に考えれば僕が継承できることなどあり得ないのだ。



 しかし、僕が力を継承した意味は他にあると考えている。


 旅はまだ始まったばかりだが、リーグと深い言葉を交わすいい機会だ。深い青色で覗くリーグを一瞥した僕は少し考えるふりをして言った。


「僕はね、神が継承者を選ぶには二つの要素があると思っているんだ」


 僕は指を二本立てて強調して言った。リーグはそれに誘導されるように僕の手を見て無言で頷いた。

 リーグが聞く姿勢を取ったので僕も背筋を伸ばして説明することにした。



「一つ目は欲のない人間だ。私利私欲に溺れず、自らの地位を上げようとしない人間が選ばれる」



 天の炎を継承した時にエンカから聞いた話だ。


 それは最初の神器に触れる段階で振り分けられる。邪な考えで剣に触れようとすると神器の力で弾き飛ばされるらしい。


 僕が継承の儀の詳しい内容を振り返るとリーグも同意するように頷いて言った。


「ああ、それは俺も聞いている。だが、それだけではお前のような破壊者も弾かれてしまうことになるが?」


「まあそう考えるよね。でも、もう一つの理由がそれを否定してくれるんだよ」


 僕は彼の疑問に答えるように指を再び二本立てた。


「もう一つは世界を変えたいと願う人間だ。これは自分のための欲とは違う。全くの別ものだと僕は考えている」


 リーグの言う通り僕は欲を持って神殿に入った。


 世界を壊したいと言う欲だ。

 それは一番邪な考えにも思えるので、全ての欲を弾くのであれば、僕も弾かれることになるだろう。


 だが僕はそれに当てはまることなく神に認められた。



 そこには別の理由があるのではないかと思うのが普通だ。考えられることはいくつかある。その中でも有力だったのは世界を変えようとする意志だった。



 決して自分のためではなく世界を平和にするために願う。


 そこには善も悪も関係ない。世界を壊すことで新たな世界を作り出すこと。これも一つの革命だ。

 そのために力を求めることは、神の定義では欲望にはならないのだろう。


 そしてそれは僕とリジーの二人の復讐者が力を継承したことで証明されたのだ。



「待て、あの娘がお前と同じだと? どう言う意味だ?」


 僕がそこまで説明するとリーグは片眉を上げて驚いたように言った。



「リジーは一見優しそうに見えるが本当は違う。彼女の根底にあるのは僕への復讐だよ。両親と学友を殺された恨み、死者の無念を晴らすために彼女は力を欲した。無意識にね」



 訝しげな表情でこちらを見るリーグに僕はリジーの本質を説明した。



 彼女も僕と同じ復讐者だ。おそらく彼女が星の雫を継承できたのは復讐の規模が大きかったからだろう。


 僕は世界を滅ぼそうと活動し、彼女は図らずしもそれを排除しようとしている。僕とは正反対の力なので、世界を変える動きと考えても間違いではない。



「確かに筋は通っている……いや、しかしそれでは神は何のためにお前を選んだ? これではお前たちを戦わせるように選んだとしか……」



 僕の説明にリーグは唸るように言って口をつぐんだ。もちろん彼が疑問に感じたことは僕も思った内容だ。


 わざわざ力を与えて争わせるなど、とても世界を救わせるためにとは思えない。



 仮に僕の想像が正しく、この争いも神の手の平での茶番なのだとすると不愉快なことこの上ない。



 頭を捻っているリーグに僕は言葉を重ねた。


「僕はね、神が人を選んで力を与えるこの仕組み自体が間違っていると思うんだ。それは神の意志で世界の未来を決めているに等しい。神が僕たち人間の行く末を決めていいはずがないんだよ」



 人々が信仰を重ねる神ハイドとアイル。エンカが言うにはこの二柱は決別して殺しあったらしい。

 史実とまるで違う内容に驚きはしたが、今の僕とリジーの構図を見れば納得がいく。


 その二柱は本当に神と呼ばれる存在なのだろうか。天の炎を継承してから僕はそのことをずっと考えている。


 今でも答えが出ている訳ではない。しかしそれでも争いの中心にあるこの力は本来は存在してはいけない力なのは確かだ。



 リーグは驚いて声も出ないのか僕の熱弁に耳を傾けているだけだった。



 いや、実は彼も何かしらの思いはあったのかもしれない。何も反論がなかったのは、僕の導いた考えに共感したからなのだろう。




「と言ってもこれは仮説の域を出ないし、深く考えてもあまり僕達には関係しないだろうよ。結果的には僕の望む世界になればそれでいいんだからね」



 脱線した話を強引に戻した僕はその流れで今の話を切ることにした。

 これ以上長く話せば旅の目的を話しそうになる。それだと彼を黙って同行させている意味がないのだ。



「さて、長話もいいけどそろそろ本格的に移動しないと日が暮れてしまうよ。食べ物の調達もあるし、行こうか」


 いつの間にか歩みを止めていたことを思い出した僕は、リーグの背中を軽く叩いて歩き始めた。



 旅はいいものだが、話しすぎは旅には向かないのかもしれない。ゆったりと波打つ海岸を横目に、僕はそんなことをぼんやりと考えていた。

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