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第百七十一話 少女と黒石

 人がぬかるんだ地面を歩いて足跡を残さない方法はいくつかある。


 足をつけた地面を後ろから魔法で平らに均し痕跡を残す。魔力操作や浮遊魔法で浮かび上がり移動する。転移魔法で別の場所へ移動すると言った方法などだ。


「どんな方法を取ったのかは分かりませんが、この足跡はシェスさんの可能性が高いですね。明らかに異常です」


「だろうな。ということはここで何が起きたのか分かれば追跡可能だな」


 私が地面に触れながら状況を確認すると、シーズが相槌を打った。


 しかしそれ以上は誰も口を開かずに沈黙が流れる。シーズの言っていることは簡単だが、何かしらの痕跡を探すのは至難の技だからだ。


 ただこれが見つかった唯一の手がかりなので、引き下がるわけにはいかない。ここは一つずつ確認していこう。


「地面を平す魔法を使えばこの状況は作れると思いますが、途中から消す必要があると思いますか?」



 シェスが単独で取れる方法と言えば地面の足跡を消す方法しかないだろう。


 しかし、途中からその足跡が消されていることが不自然だ。追跡されないようにするなら初めから残さないようにするはずなのだ。


 私の考えを聞いたジークはセディオで地面を突つきながら言った。


「追跡者の心を折ることを目的としているなら有効な手段ですね。ここまで歩かせ期待させた上で突き落とす。よくある手段です」


 ジークが沈んで見えたのはそういう理由だったのかもしれない。目を細めて地面を見るジークは続けて言った。



「ただこういう場合ですと、少し距離を空けた地点で魔法の使用を止めます。常時魔法を使用していては直ぐに魔力が枯渇しますから」


 長距離の地面を平すには通常の人間では魔力が足りない。ここからセレシオン王国までの足跡を消すなら恐らくジーク並みの魔力は必要になる。


 それに足跡の消失には多少なり時間がかかる。その間に追っ手に追いつかれる可能性もあるので最低限の足跡を消すのだそうだ。



「そうか、それならわしが一走りして周囲の探索をしてこよう。何かあればすぐに戻ってくるぞ」


 ジークの説明に大きく頷いたシーズはそう言ってすぐに走り出した。


 神獣の脚ならこの一帯を走り回るのは簡単だろう。他の足跡の確認はシーズに任せることにして私は他の魔法の検証に集中することにした。



「他の方法だと浮遊魔法か魔力操作で飛ぶ、それから転移魔法の移動がありますが、シェスさんの魔力では足りませんね。他の協力者がいないと不可能でしょう」


 私は思いついた魔法を数え上げたが自ら否定した。どれも実現性が低すぎるものばかりだ。

 仮にこのどれかの方法で移動したとするなら、彼を運んだのは相当の魔力の持ち主ということになる。


「それほどの魔力持ちですと今の時代ではリジー様の他に一人くらいしか思い当たりませんね」


 ジークは私の考えに同意するように頷いた。どうやら彼も私と同じ人物を思い浮かべたようだ。



「アルドベル……でも彼だとしたらシェスさんを連れ去る理由は何なのでしょう」



 その問いは私もジークも分からない。


 もしかしたらシェスが貴重な情報を持っていて、それをアルドベルが狙ったという突拍子も無いことだって考えられる。

 今想像を膨らませても時間の無駄だろう。



 それよりも今はこの謎を解くところから始めようと地面を見ようとした時、不意に周囲に違和感を感じた。


「リジー様? いかがなさいました?」


 ジークの問いかけを無視して私は道から逸れて草が生茂る方へ進んだ。

 その中に大小様々な黒い石が不自然に転がっている。


 それは一見普通の小石に見えたが、手に取ってよく観察すると、最近割れたような綺麗な断面が見えた。他には小さな溝が断面とは別の面に模様のように走っている。


「これって、もしかして魔法陣の残骸?」


 思いつきで足元に転がる小石を二つ広い、新しい断面に重ねると偶然にもその二つはぴったりとはまった。

 これを全部繋ぐと何かわかるかもしれない。


 私は目に入る黒い石を集めてジークの元へ戻り足元にばら撒いた。私の行動が予想外だったのかジークは少し目を丸くして言った。


「リジー様、それは?」


「今からこれを組み立てます。ジークも手伝ってください」


 地面に座った私は手当たり次第に小石同士を重ねた。


 単なる組み立て作業ではあるが平面のパズルよりずっと難しい。二人掛かりなら少しは早くできるだろう。


 私の意図を理解したジークは少し遅れて膝をつき、石の組み立てに取り掛かった。

 難しい立体の組み立ても二人いれば早いもので、砕けた石はすぐに元の形に戻り始めた。



 そして、ほとんどの石が組みあがった所で私達が探していた紋様が石に浮かび上がってきた。



 最終的に私の掌二つ分の大きさの円盤になった石には、私の予想した通り魔法陣が組まれている。


「これは空間転移の魔法陣。それに黒石を使った魔法具、アルドベル達の仕業ですね」



 服についた砂を払って立ち上がった私は組み上がった魔法具を太陽にかざした。

 日の光を浴びた黒色の魔法具は薄く光を通し、中に描かれる転移の魔法陣が透けて見える。



 シェスはどうやらこの魔法具によって別の場所へと運ばれたようだ。

 どこに飛ばされたかは中の魔法陣を読み解く必要があるが、これで何をするべきかははっきりした。


「一度王都に戻りましょう。シーズを呼んできてください」


 ジークに指令を出した私はこれからの行動を即座に組み立てた。

 やるべきことはこの魔法具を辿ってシェスを探し、その先でもう一度アルドベルと対峙するのだ。


 私の背中を風が優しく撫でる。まるで私の意志を後押しするようだった。


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