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第百六十二話 天の試練

 僕がストニアを倒し、少女から魔力を集めるにはもっと力が必要だった。

 そこで思い至ったのは僕が幼少の頃何度も聞いたストルク戦記だ。


 リーグ・ストルクの伝説。

 それは千年前に起きた大陸中を巻き込む大戦を鎮め、世界を平和に導いた話だ。


 戦争が激しくなる中、彼は神アイルより「星の雫」を授かる。

 それは腕の一振りで一軍を吹き飛ばす威力があったと言われており、彼はその圧倒的な力で戦争を勝利に導いたと言う。



 小さい時はそれを心を躍らせながら聞いていたものだ。しかし、今の僕には新たな可能性としか見えなかった。


 なぜなら彼が受け取った神の力はその死後、星教の神殿に安置されており、誰でも継承できるチャンスがあったからだ。


 一軍に匹敵する力を手に入れさえすればストニアの相手も恐れる必要はない。絶対に手に入れて世界を壊してやる!


 だがそう意気込んでもすぐに神殿に向かうことは止めた。

 それは神殿自体がストルク王国に管理され、中に入れるのは王族だけだったからだ。年中見張りがある中忍び込むのも面倒ということもある。


 それに神殿内部の情報も不思議なほど出ておらず、メウラがどの情報網を探っても手にれられなかったのだ。


 得体の知れない場所へ冒険するの時期尚早と言えた。



 だがいつかは踏み込まなければならない時が来る。例の少女も三年経つ内に王国一の実力者にまで成長してしまった。


 恐らく一対一で戦っても勝てるかどうか分からない。それがベルボイド達の報告で感じた正直な感想だった。



 ここで逃げていては世界を変えることは一生かかってもできない。

 神の作った未知の領域だが、ここは危険を承知で挑もう。



 少女が王都に渡ってから数節経った頃、僕はようやく神殿に挑もうと決意した。


 ベネスに続いて王都でも魔法具を扱う商人達が捕まり、魔力の回収が滞り始めていたこともある。

 不本意ではあるが、彼女の存在、その行動一つ一つが僕の行動を決定づけていくようだった。



 だが僕星教の神殿ではなく天教の神殿を選んだ。


 理由は簡単。ストルク王国の神殿の守りはセレシオン王国よりも強力だったからだ。

 無理に押入ればそのことが王都に届き、最悪の場合、神殿内で王国と最終決戦をすることになりかねない。


 幸いセレシオン王国の方はサーシャが王族まで支配下においていたため容易に侵入できる状態だった。

 同じ神の力なら入りやすい方から取るのが当然だろう。


 操られ、明後日の方向を見ている神殿の守番を見ながら神殿へと足を踏み入れた。



 神殿の中は何とも不思議な空間が広がっていた。


 明かりが無い神殿内部は光で満ち溢れており、外の光が壁を透過して降り注いでいるかのように明るい。

 まるでこれから奥に進む者を歓迎しているかのようだった。



 神殿奥に進んだ僕に待っていたのは、巨大な空間とその中にポツンと置かれる台座と赤い剣だった。


 台座に立てられている赤い剣は見事な光沢だ。今まで誰も手にしたことがないと思えるくらいに汚れ一つ見当たらなかった。


 美しい剣だ。これが神器と呼ばれるやつか?



 一目見た瞬間、余りの美しさに僕は剣に見入ってしまった。

 ここに何をしに来たのかすら忘れ、僕は赤い剣を眺めていた。



 その直後、驚いたことに赤い剣は僕の気持ちに呼応するように浮かび、台座から離れて僕の手に自然と収まった。

 それは初めから僕が来るのを待っていたかのようだった。


 突然のことで驚いていると、剣は徐々に形を変えて振り慣れた形状の剣へ変わっていった。

 そしてーー


『継承者の器よ……力を示せ。さすれば真の力は与えられよう……』



 どこからともなく声が頭に響いた。低めのよく通る声が頭の中を駆け巡る。


 力を示す?

 どういう意味だ? この剣が継承される力では無いのか?


 頭に響いた声に問いかけるが答えは返ってこない。代わりに奥の壁に青い扉が出現し大きく開け放たれるところが見えた。



 奥へ進め。そう言っているように見えた僕は躊躇わずに進んだ。その先に待ち構えているものも知らずに。


 ただ、その時は新たな力を得られるかもしれない、という思いだけが僕の足を前へと踏み出してくれた。



 そして、薄暗い通路を通り抜けるとそこには赤い獣がいた。

 四足歩行の獣で内に内蔵される魔力の多さに圧倒された。


 まさか、こいつと戦わないといけないのか?


 そう冷や汗混じりに一瞬考えたが、赤い獣は「力を示せ」とだけ言って襲ってはこなかった。



 どう言う意味だ?

 再び意味深な言葉を投げられ、僕は盛大に首を捻った。

 だがそれを深く考えようとした時、僕の思考を遮るように頭上から化け物が降ってきた。



 巨大な躰、背中から生えた大きな翼、全てを切り裂きそうな巨大な爪に丸太より太い長い尾。

 口は僕一人なら簡単に丸呑みしそうな大きさ。


 神がいた時代に生きたとされる神獣デンベス。それが僕が戦う相手だった。



 デンベスは僕を飲み込もうと突進してくるが僕はそれを大きく飛んで回避した。

 思ったより俊敏な動きをするそれに僕の心臓が警笛を鳴らすように早くなる。


 普通に全力で戦ってもこのデンベスには勝てない。僕の本能がそう告げていた。



 だが戦略を考えるほど敵は待ってはくれない。体勢を直したデンベスは魔法弾を展開して突っ込んできた。



 再びデンベスの攻撃を躱した僕は、背中に背負った袋から魔法具を取り出し、デンベスが撃ってきた魔法弾を全て吸収した。



 それは僕らが数年かけて集めてきた魔力の一部。それを詰め込んで魔法爆弾とも呼べるものに作り直した代物だ。


 まだ試作だったが今の戦いでも十分効果はあった。立て続けに飛んでくる魔法弾は全て赤い魔法具に収まっていく。


 そしてデンベスが大きく口を開けた瞬間、僕は魔法具を投げ入れた。

 大きな口は魔法具を簡単に飲み込み、勢いを殺すことなく僕の元へ迫る。



 だが奴が魔法具を飲んだ瞬間に勝負は決まっていた。デンベスの直進を真上に飛んで回避し、魔法具を遠隔で起動させる。



 魔法爆弾の原理は簡単だ。大量の魔力を一度に暴走させ周囲を破壊させる。その破壊力は溜め込んだ魔力が多ければ増大する。


 今回投げ込んだのは千人分の魔力だ。

 見た目が硬そうな表皮をしていても中身は他の生物と変わらない。体内から破壊されたデンベスは赤い血を口から吹き出して床に崩れ落ちた。


 だがまだ息があるようで、立ち上がりこそしないが四肢を小さく痙攣させていた。



 僕はその頭に容赦なく止めの一撃を叩きつけた。力を示す必要もあったし、起き上がって攻撃されても面倒だったからだ。


 その判断は正しく、頭を完全に破壊されたデンベスは、尾が痙攣したように跳ね上がり完全に生き絶えた。



 その瞬間デンベスは光の粒となって消えていった。ゆらゆらと昇っては消えていく光は幻想的で、僕が神に祝福されているようにも見えた。

 まるで

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