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第十六話 貴族な少女

 馬車に乗るのは人生で二回目だ。初めて乗ったのはベネスから王都へ渡る時で、ストニアが特別に手配してくれた。


 今日の天気も快晴でどこまでも吸い込まれそうなくらいだった。


 こんな日は馬車から降りて外で頑張ってくれている馬達を撫でていたいくらいだ。外を眺めながらそんなことを考えていた。


 私は少し後悔していた。

 勢いが必要な時はもちろんあるが、知らない人をいきなり同席させるにはもう少し慎重になるべきだったかもしれない。


 私の向かいの席にはムスッと膨れている少女が座っていた。


 ストルク王国特有の栗色の髪を肩下まで伸ばし、上品に座っている。彼女からは甘い花の香りが漂い、微かに室内を満たしていた。


 彼女の名はシェリー・ルードベル。上院貴族ルードベル家の令嬢で、今回の候補者の一人に選ばれている。


 どうして彼女と相席で馬車に乗ることになったかというと、単純に彼女が取り残されていたからだ。


 候補者の大半は上院貴族の子息達だ。儀式には何人推薦してもいいため、ここぞとばかりに参加させたらしい。


 万が一、身内の誰かがが英雄の力を継承できれば、それだけでその家系の勢力が増大するのは間違いない。


 期待を寄せる子息、令嬢には馬車は用意されていたが、期待されていない子息達は溢れて馬車に乗れなかったのだ。


 もちろん、王国が用意した馬車も何台かあったが、それだけでは足りないくらいの貴族が参加していた。


 目の前にいるシェリーもその一人だ。兄妹の中では実力はあるらしいが、長男より秀でてはいない。


 ルードベル家は後継候補が彼女を含めて10人もいて、シェリーは八番目の四女に当たる。


 ルードベル家の現当主は長男のジルだけに期待しており、他はおまけで参加させているのだ。そのため、他の兄妹たちは自分の馬に乗るなどして足を確保していた。


 シェリー自身は馬に乗れないらしく、途方にくれていたとこを私が連れてきたのだった。


 彼女は乗り込むなりいかに自分が不当な扱いを受けているかをぶちまけた。


 正直、どうでもいい話だったので話半分に聞いていた。ただ彼女はそれで気分が落ち着いたらしく、時々愚痴はこぼすだけでとても大人しくなっていた。



「ところで、貴女は王女様の推薦者みたいですけど、魔法学院は卒業していまして?」


 シェリーは唐突に私に質問をぶつけた。


「私はベネスの魔法学院を卒業してます。シェリーさんは王都の魔法学院ですか?」


 窓を眺めるのも良かったけど、終始無言も息苦しかった。なので、当たり障りない返事をした。



「そうですわ。それも一年短縮して卒業しましたわ。でもルードベル家としてはあまり評価されませんの」


 お兄様もお父様も同じように一年早く卒業してると辛いですわ、と続けて小言を漏らした。

 四女ということで余り目をかけてくれないのが彼女は不満なのかもしれない。


「貴女はどうして王都で軍に入っているんですの?」


 余り思い出したくないのか、シェリーは話を切り替えた。

 私自身、自分の境遇を話す気はなかったが、彼女に少し興味が湧いて来たので、魔法学院のことと王都に来てからのことを話すことにした。




「それで……今は魔法剣士隊に所属しているのね」


 一通り話し終えると、シェリーは何か納得したように呟いた。


 話している間も私の両親や友達が死んだことには触れず、じっと聞くことに徹してくれたので話しやすかった。案外優しい人なのかもしれない。


「聞いてていい話ではないですよ。私の内容は特に酷いですから」


 脇に置いていた籠から菓子を取り出して一口頬張った。


 この菓子は王都を出る前にエメリナから頂いたものだ。彼女には前から餌付けされているが、どれも美味しいものばかりなので問題ない。


「いいえ、私の方こそ無神経に聞いてしまいましたわ。私より貴女の方がよっぽど辛い経験をしているじゃない」


 そう言うと首だけ窓の方に向けて目を細めた。


「私なんて両親がいる環境で、親に期待されていないのが不満だって言ってるだけだもの。貴女の境遇を比べてはいけないのだろうけど、自分が恥ずかしいですわ」


 この人は多分、家に居場所がなくて苦しんでいるんだろう。


 親が健在だからって全ての子が幸せなわけがない。彼女のように理不尽な扱いを受ける人もいる。


 そう思うと年齢は私と同じはずなのに、彼女は不思議と幼く見えた。


 馬車に乗って初めの頃は貴族のプライドがあってか表情が固かったのが、今は口元も綻んでいるし目元も柔らかな雰囲気になっていた。


「エメリナさんから頂いたものですけど、お一つどうぞ」


 王都で常に気を張っていたわけではないが、同年代の人と話すことが少なくなっていたのは確かだ。


 ほんの少しシェリーと話しただけでも肩の荷が下りたような感覚だった。

 それに、貴族には高慢なイメージしかなかったので、彼女のように純粋な貴族もいるのだと知れたのも嬉しかった。


 そんなシェリーはエメリナという名を聞いて引きつりながらもお菓子を一つ受け取っていた。


 どうやらエメリナの冷酷な一面を知っているようだ。おっかなびっくりという動きで食べだした。


「エメリナさんは貴族界隈でも有名な方ですわ。王族よりも怒らせてはいけない人だと聞いていますから」と食べ終わった頃にボソリと言っていた。


 それから昼食のために馬車が止まるまで、シェリーと談話を続けることになった。優しく包んでくれるシェリーの表情は、いつしか私の凝り固まったものをほぐしてくれた。


 話に聞いていたよりかは貴族の方ともうまく付き合えるのかも知れない。その時は軽く考えていた。


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