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第百四十八話 王女達の旋律

 アルドベルの仲間は全員で五人いて、その内の三人は既に死んでいる。


 死んでいるのは私の女中を勤めていたフィオ。セレシオン王国に潜入していたサーシャという女と、フィオ達との連絡役を受けていたベルボイドという男だ。


 そして今生きている彼の仲間はメウラとフォレス。

 フォレスの特徴はボサボサ頭に怠そうな目つき。私達の目の前にいる男の特徴とそっくりだった。


「お前、フォレスだろう? 屍人達を操っているのはお前の仕業か、それとももう一人のメウラという女か?」


 私は右手に持った剣を男の青眼に向けた。


「さすがはストルク王国の人間。俺の名前を知っているとは優秀な人間が多いな」


 フォレスは両手を広げて首を振る。

 それは私達の向ける剣などまるで見えていないかのような、余裕の振る舞いだった。


「さっきの口ぶりからして私達のこと知ってるようだけど、二人を相手に勝てる見込みでもあるの?」



 横で構えていたレイの声が聞こえた。

 横目で見ると少し緊張したようにフォレスの全身を上から下へと視線を泳がせている。


「俺もアルほどじゃないが実力はそれなりにあるつもりだ。まぁ、アセットには一泡食わされてしまったがな」


 少し体が鈍っていたよ。


 そう言ったフォレスは血が滲んでいる腕と足を見せつけた。そこには深くはないが、長い創傷が腕と足に一筋走っていた。


 この男がこの場にいてアセットがいない。それがどういう意味なのかは考えなくても分かる。



 死んだアセットのことを思うと胸が苦しくなったが、今はそれに構う余裕はない。

 あのアセットが命がけで戦っても傷一つしかつけられない相手。二人掛かりでも勝てない可能性だってあるのだ。


 しかしそれでもまだ勝機はあった。


「レイ、奴の剣の間合いに気をつけろ。ストニア先生を相手に戦った時と同じ手段で連携するぞ」


 横にいるレイに耳打ちする。


 私達はストニア先生と言う格上相手に、何度も死闘を挑み生き抜いてきた経験があった。

 それを思い出せば今のこの状況はそれと変わらない。



 アセットの死に少し焦りを見せていたレイだったが、私の一言でハッとしたように振り向いた。


「そうね、仲間の死を嘆くのは後でもできるわ。今は目の前の敵に集中ね?」 


 私の作戦に気が付いたのか、優美に笑ったレイは髪を風に流すように走り始めた。



 最初の攻撃は彼女が囮になって私が後方から見えない攻撃をする。

 長年連れ添った私達は互いが次にどの戦法をとるのか、手に取るように分かった。


「二人同時に来ないのか。一人ずつ殺してくれと言ってるもんだぞ?」



 私達の初手にため息を吐いたフォレスはレイの振り下ろした剣を軽く受け止めた。


 レイは打ち下ろした勢いを殺さず刃を滑らせ、フォレスの顔を切りつけ胴に回し蹴りを繰り出す。

 フォレスは風圧に身を任せるようにレイの攻撃を躱し、隙ができたレイに向かって黒剣を斜めに切り込んだ。


 レイの攻撃は防御を完全に捨てた捨て身の攻撃。そのため避けられれば切り返しの攻撃を受けることになる。


 しかし、その攻撃は後ろに控えていた私が受け止め、意表を突いたフォレスにレイが再度攻撃を繰り出す。


 息の合った私達の連携はフォレスを翻弄するところまで行ったが、全てギリギリのところで回避されてしまった。


「ほう、驚いたな。ここまでの連携攻撃は初めてお目にかかる。洗練された動き、壊しがいがありそうだ!」


 少し距離を開けたところに飛び退いたフォレスは興奮したように言った。気怠げな目も今は命が宿ったように光を反射している。


「エイン、手数が足りないわ。あの男をやるなら……あと三倍は増やさないと!」


 荒い息遣いで言ったレイは魔法弾を周囲に展開させた。


 ここまで連戦続きだった私達の残りの魔力は少ない。私もレイも体力ともに限界は近いのだ。


 魔法は慎重に使いたかったが今は贅沢を言ってられる状況ではない。それなら一瞬の攻撃で決着をつける方が勝機は高いだろう。



「分かった。ただし、私の魔力も底が近い。次で絶対に倒すぞ」


 レイの案に乗った私も魔法弾を作れるだけ展開させ、それをレイの背面を守るように配置していく。

 後ろに魔法弾の気配を感じたのか、息を整えていたレイは短く笑って言った。


「当たり前じゃない。それじゃ、行くわよ!」



 気合の声を発したレイは迷わずフォレスに直進した。私も彼女に連なって突撃する。

 前方からはフォレスの呆れたような声が聞こえてきた。


「魔法弾が増えただけでさっきと同じ連携。芸がないぞ、お前らーー」


 額に手を当てていたフォレスだったが、突然後ろから飛んできた魔法弾を躱して言葉が途切れた。

 レイがこっそり周囲に展開していた魔法弾だ。


 身を捩ったことで隙ができたフォレスにレイが横薙ぎの中断攻めを放ち、私はその隙間を埋めるように魔法弾を撃ち込む。


「ちっ、味な真似を!」


 私達の多段攻撃を防御魔法と剣で受け止めたフォレスは苛立ちを隠さずに舌打ちした。


 しかしそれで私達の攻撃は終わらない。

 フォレスの黒剣を魔法弾で覆ったレイは、呼び寄せ魔法をかけてフォレスの手から黒剣を取り上げる。


 そこを逃さず私は彼に狙いを定めて魔法弾を向ける。

 全てを注いだ渾身の一撃だ。

 


 私の魔法弾を警戒したフォレスは、距離をとって避けようとするが、それは背後から飛んできたレイの魔法弾で阻止される。

 背後からの衝撃でフォレスは一瞬固まった。


「そこだ!」


 その一瞬の隙を逃さずに私はありったけの魔力を込めた魔法弾を撃ち込んだ。



 極小化し速度と貫通力をあげた私の魔法弾はフォレスの右肩を撃ち抜いた。


 心臓を狙った一撃だったが、フォレスはギリギリのところで魔法弾を構築し、私の攻撃の起動をずらしたようだ。


「浅いか! レイ! もう一発行くぞ!」


 そう言って立ち止まっているレイを追い越したが、レイからの返事はない。

 代わりにレイの咳き込む音と液体がぼたぼたと地面に落ちる音が聞こえてきた。


 振り返って見るとそこには腹を黒剣で貫かれて鮮血を流しているレイの姿があった。


「レイ、しっかりしろっ! がっ!」


 レイの元に戻ろうとしたところで、私は背中から襲われた痛みで息が詰まった。

 衝撃で首が下に向いた時、私の腹部を貫通している黒い刀身が目に入った。


「味方がピンチでも敵に背を向けるなよ。こんな風に刺されるぞ?」


 私の背後では少し離れたところにいたはずのフォレスの声が私の首筋にかかった。

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