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第百四十五話 少女の光

 ぼやける私の視界に映ったのは金色の光だった。


 いくつもの金色は私の体から飛び出し、私の体を覆っていく感覚が伝わって来くる。

 そして、金色に包まれた私はそれに操られるように剣を振って炎を切り裂いた。



 その一振りは巨大な魔力を生み出し、アルドベルの放った神器の力ごと空へと吹き飛ばしていく。



「何⁉︎ その光は……一体何なんだ!」


 周囲の炎が消えると、それまで笑っていたアルドベルは目を見開いて驚いたように言った。


 アルドベルに言われて私は自分の手を見る。金色の光は依然として私の体を薄く覆っていた。

 そして驚くことに火傷の傷もすでに全回復しているようだった。



 暖かい。誰かに優しく抱き締められてるみたいな感覚だ。


 この光は以前も見たことがあった。

 重症のアレク将軍が立ち上がった時だ。あの時も同じよな光がアレクを包み、彼の限界を超えた戦いを実現した。


 他にもジークから聞いた話では、昏睡した陛下を治療した時にも同じ光が出ていたらしい。


 これは私の中にある力?

 ジークが以前独り言のように言っていた神ハイドの力、なのだろうか……



 しかしそこまで考えた私は思考を手放した。


 力のことは後でも考えられる。

 今はこの光のことは深く考えず、目の前の敵を葬ることだけに専念しようーー



 頭を切り替えた私は光に導かれるように剣をアルドベルに向けた。

 剣にも金色の光が宿り、強力な魔力が溜まっていく。


 不思議な感覚だった。

 さっきまでギリギリの戦いをしていたはずなのに、今は彼と戦うのは苦でもない気がしたのだ。


「アルドベルさん。この戦いも終わりにしましょう」



 それだけ告げて私は彼の元へと跳躍し、今度は私が剣を振り下ろした。

 一瞬強張った表情をしたアルドベルだったが、臆さずに私の剣を受け止めようとする。


 しかし、私の攻撃は彼の防御を許さず、赤炎ごと彼を後方へと弾き飛ばした。

 アルドベルはそれでも空中で体勢を立て直し、私の迎撃に備えるように着地した。



「今の一撃は効いたな。腕まで痺れたよ。君の細腕のどこにそんな力があるんだ」


 思い通りに行かなかったのが気に食わなかったアルドベルは忌々しそうに私を見て言った。

 私はそれには答えずに追撃のため再びアルドベルへと跳躍する。



 光に包まれた私の体は以前とは違った。

 浮遊魔法を意識しないで使っているかのように体が軽く、それでいて重い一撃を繰り出すことができる。


 この重い攻撃はまさしくストニアやアルドベルの戦い方に近い。私がどう足掻いても使えなかった手段だった。


 だがそのおかげで今は私がアルドベルを押していく立場となった。


 私の攻撃を受けようとするアルドベルを何度も剣ごと押し退ける。

 そして、アルドベルは私の剣に振り回されるように地面を何度も転がりその身を泥で汚していった。



 アルドベルはすでに私の攻撃を受けきるだけで精一杯になっているようだ。


 私の目の前で余裕がなさそうに歯を食いしばり、私の剣を受ける度、歯の隙間からは苦しそうな息が漏れ出ていた。



「ばかな、こんなことがあるはずが……君にそんな力があるなんて、君は一体何者なんだ!」


 私の横薙ぎの攻撃に弾き飛ばされ、背中から落ちたアルドベルは咳き込みながら叫んだ。


「私はストルク王国のリジーです。他の何者でもありません」


 彼に一歩ずつゆっくり近づきながら答える。

 勿論この光が何かは私も分からない。だが今は私に力を与えてくれるのだ。それが分かれば今は十分だった。


 金色の光を目の前で振り回し、私の剣は徐々にその手数を増やして行った。

 最初は一呼吸の間に二撃だったのが、三撃、四撃と増え、気が付けばは五撃になっていた。



 アルドベルはそれを懸命に対応していた。

 ただし完全に防ぐことはせず、薄皮一枚、その下の肉が少し切れる程度の避け方を繰り返していた。


 それは致命傷を避けるため、多少の傷は無視する戦い方だった。


 だがその戦いも長くは続けられない。

 何十、何百と攻撃を繰り出すうち、アルドベルの体は小さな切り傷で覆われていった。


 小さな傷の蓄積は少なからず彼の動きを制限していく。私の一撃を避けきれずに致命傷を受けるのも時間の問題だった。



 アルドベルも戦況の不利を悟ったのか、小さく舌打ちして言った。


「くっ、このままでは押し切られる……二回目は極力避けたかったが、こうなれば仕方ない」



 アルドベルは私の攻撃に弾かれると同時に後ろに大きく飛び退いた。その動きに合わせて傷口から流れる血が何本も尾を引く。

 そして、アルドベルは再び赤炎に魔力を貯め、神器の力を解放し始めた。



「逃がしません!」


 しかし神器による攻撃をさせるつもりはなかった。


 私は気合の叫びとともに彼の目の前に転移し、反応される前に青雷剣で彼の腕を切りとばす。


 赤炎を握ったままの彼の右腕は宙を舞い、少し離れた地面に突き刺さった。

 そして驚いて目を見開いたアルドベルの腹を蹴り、後ろの木に叩きつけた。



「がっ!」


 苦しそうに空気を漏らしたアルドベルは木を背中に預けて滑るように座り込んだ。右腕からは栓が抜かれたように血が流れ、地面に血溜まりを作り始めた。


 もう戦う気力が尽きたのだろうか、私が近づいても彼は動くことはなかった。

 浅い息遣いを繰り返し、光を失った瞳で私を見上げるだけだ。



「……参ったよ。本気の君がここまで強かったとは。もっと警戒するべきだったね」


 彼の胸に切っ先をつけた時、アルドベルはゆっくりと口を開いた。抵抗しない意思の表れなのか、両腕を上げて目を瞑る。



「死ぬ前に何か言い残すことはありますか? 貴方は憎いですが、最期の言葉くらい聞いてあげます」


 何か変な動きがあればすぐに殺す。

 殺気を込めた魔力を彼に向けながら言うと、アルドベルは乾いた笑いを見せた。



「ないね……強いて言うなら、今の内に僕を殺しておくべきだったね」



 彼の言葉に一瞬だけ私の手が止まる。

 昔、クライオ先生が死際に言った言葉と同じだったからだ。


 しかし、その一瞬の空白が私の油断だった。



 思考を止めた瞬間、私の横を赤い影が高速で駆け抜けて行った。

 それは体毛が赤い炎のような獣で、シーズと戦っていたはずの敵だった。



「あんた、えらいやられようだね。まあこの状況逃げるしかないかな?」


 赤い獣は私とアルドベルを交互に見て言いった。


 そして私が反応する前にアルドベルを咥え、あっという間に姿をかき消した。

 近くに気配がない。それは転移魔法による逃亡だった。



 せっかくここまで追い詰めたのに、私の生んだ油断が彼の命を繋いでしまった。


「逃さない! 絶対に逃さない!」


 私は血が出るほど唇を噛み締め叫んだ。


 そして山全域に探知魔法を発動させる。今ならまだ近くにいるかも知れないからだ。


 焦る気持ちを鎮めていると、探知魔法はすぐに返ってきた。


 予想通り彼らはまだこの戦場にいる。他にも複数の魔力が反応しているので他の戦闘に紛れて逃げるつもりのようだ。


 いつの間にか金色の光は消えていたが、私はそれを気にせずに彼らのいる場所へと転移した。

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