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第百三十三話 白騎と白王

 気が付けば私は地面で大の字になって倒れていた。

 腹に貰った一撃が痛みの波となって全身をかけめぐだているようだ。


 だが私のこの体は屍体。核となる魔法具が壊れていなければ、多少の傷ならすぐに修復される。


 どうせ屍人なら痛覚を再現してくれなくてもよかったな。ハイドは本当に余計な魔法を作る神だ……


 修復される痛みに内心で愚痴を溢しながら、私は今起きたことを振り返った。



 魔力に余裕を持たせてデンベスを倒した私は、屍人の軍勢に囲まれている王女達の救援に向かった。

 しかし、上空から突然現れた魔法弾に吹き飛ばされてしまったのだ。


 傷の修復が終わった私は立ち上がって周囲を観察した。


 森の中の比較的開けた場所だ。人為的に刈り取ったと思われる切り株がいくつも見える。


 切り株の切り口はまだ湿っぽく、木の命を感じる。切り倒されてからまだ時間が経っていない。

 まるで初めからこの場を用意していたような印象だった。


 木の湿った香りを感じていると、西の方から金属のぶつかる音や怒号が風に乗ってやってきた。

 間違いなくエイン達の部隊が敵戦力と交戦している。


 軽く飛ばした魅力探知では、戦況は五分五分と言った所だった。

 エイン達は上手く立ち回り敵兵を潰しているようだが、援軍が現れると逆に攻め込まれる。



「随分と離されてしまったが、早く戻らねばーー」


 有利に戦いを進められない。


 そう独り言を言おうとしたが、それは空から降ってきた者に止められてしまった。


 重低音を響かせて着地したのは私と同じ白い肌に白髪の青年だった。

 目が青い以外は全てが白の男は、昔神殿で会ったことがある人物だ。


「まさか、使役されてる屍人がお前だったとは。王が操られるとは滑稽だな、リーグ」


 私は魔力を高め警戒しながら言った。

 サーシャ達を襲ったのはこの男で間違いない。私と同じく、屍人となっても地の魔核の高い魔力を感じとれた。


「悪いが容赦はしない。例え相手が神の使いでも、今は敵だ」


 白い男リーグはそう言って、顔色一つ変えずに剣を構えた。それと同時に流れるように魔法弾が展開されていく。


 相変わらず気が早い男だ。

 だが今のこの状況では私も大歓迎だ。早くしなければ仲間が全滅してしまうかもしれない。



「お前は何故あのアルドベルに従っている? 屍人でも行動の意志は自由だろう」


 私はセディオを構え、一つだけリーグに訊ねた。屍人は復活しても自分の意思で動ける、普通の人間と変わらないのだ。


「この体は命縛法の制約付きだ。戦闘時のみはあの男の命令に従わなければならない。魔法具に最初から仕組まれているからな」


 思い通りにならないのが腹立たしいのか、リーグは忌々しそうに吐き捨てた。


 同じ屍人でもこうも境遇が違うとは、リーグの無表情を見ていると何故か急に哀れに思えた。


 死して尚も使役される苦しみ。いつ果てるとも分からない長い時で、支えとなるものが無ければ心が死んでいく。


 死者の尊厳を冒涜されるのは私一人で十分なのだ。



「力を持つ存在はいつも抗えずに利用される。お前も哀れだな……すぐ楽にしてしてやるから安心して逝け」


 この男はすぐに解放してやろう、と決心した私は最後に彼の身を案じて言った。



 だが私の気遣いを知ってか知らずか、リーグは心底嬉しそうに笑った。



「お互いにな。まあ、俺は死んだ身だからどっちが勝とうが興味はない。だが、お前との戦いは存外に楽しみだよ」


 そう言ったリーグは魔法弾を撃ち始めた。


 容赦のない攻撃だったが、私はそれを槍で弾いていく。この程度の手数、リジー様の攻撃に比べれば少なかった。


 まずは小手調べのつもりなのだろうが、私はそれを悠長に待つつもりはない。

 全ての魔法弾を弾いた私は、そのまま直進してリーグを攻撃した。


 だか小細工なしの単調攻撃はリーグに簡単に弾かれ、がら空きになった私の腹にリーグの剣が突き刺さった。


「くっ」



 久しぶりに感じる焼けるような痛みに私は思わず声が漏れた。

 そんな私を呆れたように見ているリーグはため息混じりに言った。


「雷獣にはお前は槍の名手と聞いていたが、思い過ごしか? 今の攻撃は素人そのものだ。剣を使える人間を舐めたような攻撃だ」



 とどめだ。

 リーグは無表情のまま言って、魔法弾を私に撃った。


 しかしそれを想定していた私は、腹に剣を残しながら槍を張り、全ての魔法弾を弾いた。

 それを目の前で見ていたリーグは驚いて目を見開いた。


「何故足掻く。お前は腹を刺された時点で負けている。潔く散れ」


 リーグの意外そうな声を聞いて、私は不覚にも笑ってしまった。やはりこいつは生前の戦い方を意識し過ぎている。


 確かに対人戦なら、重傷を負わせた時点で勝てるのだろう。だが、ここにいるのは屍人だけ。


 屍人同士の戦いだと、最後まで核となる魔法具を死守した方が勝つのだ。



「リーグ、お前に屍人同士の戦い方を教えてやる。参考にはならないだろうが、機会があれば試してみるといい」


 その言葉と同時に、私は腹に刺さった剣を転移魔法で遠くへ飛ばした。そして目の前で呆気に取られているリーグに向かって魔法弾を撃ち込んだ。

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