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第十三話 少女の日常

 王都に来て半年以上が経った。

 最初は王都の広さと街並みの違いに驚いたものだ。


 しかし、今ではベネスの街並みが懐かしく感じるくらいにはここの生活にも慣れた。


 出立の日、ストニアは心配するのかと思ったが、予想に反して気持ちよく送り出してくれた。


「あなたは見た目が可愛いから、王都で変な男に捕まらないようにね」と冗談めかして注意するくらいだった。


 私だって少しは成長している。他の人と比べたら低いが、身長だって少しは伸びた。それでも街に降りれば未だに子ども扱いされるところは解せないでいる。



 王都についた私はすぐにエイン王女と再会した。

 前もって王都に出立する日を伝えていたから、クラン隊長と一緒に出迎えてくれ、そのまま彼女が統括する魔法剣士隊に所属することになった。


 エイン王女が率いる魔法剣士隊は全部で八つあり、二隊ずつ編成を組んだ四部隊が王都の四つの地域に別れて治安維持を行なっている。


 現在、私は八番隊に所属し、副隊長の役職に就いている。


 もちろん入隊した時は普通の隊員として入ったが、すぐに実力が評価され、前節には空席だった副隊長に推薦された。


 反対者はおらず、満場一致で採択されることになった。


 たぶん年齢や性別に関係なく実力を重要視する国だからなのだろう。

 軍の中にも女性で上に立つ人が多いのもその理由だ。魔法剣士隊の隊長は半分が女性なのだ。


 魔法剣士は遠距離では魔法を撃ち、近距離では剣などで格闘する者のことをいう。


 剣を扱う時は魔力強化で身体能力を向上させているので、男女関係なく戦うことができる。

 そして、実力が同じくらいだと魔力強化の練度で勝敗が別れることがほとんどだ。



 今日は街の見回りの担当日のため、隊の執務室で部下からの報告を待っているところだ。


 私は机に置かれた箱型魔法具の調節を行っていた。


 この前新しく開発した通信用の魔法具で、使用テストをしているところだ。今日の報告はこの魔法具を通して行ってもらうことにしている。


 今までは街の見回りは二人一組で周り、応援が必要な場合は空に魔法弾を撃ち、待機メンバーが駆けつける方式を取っていた。


 それでも対応できていたが、どうしても状況の把握ができないまま対応せざるを得ないところが難点だった。


 そこで、以前開発した情報伝達魔法を活用した通信具を導入することにした。


 開発の方は軍の魔法具研究班に依頼したらすぐに終わった。

 唯一欠点であった空に打ち上げる必要がある魔法具は、街中の見張り塔などに設置して代用できた。



 今回の試験が上手くいけば他の隊にも導入され、王都内の伝達は飛躍的に進化することになる。


 エイン王女もこの計画は二つ返事で了承した。治安維持の強化ができる案は積極的に取り入れたいらしい。


「順番に現在位置の報告をお願いします」


 もう一つの魔法具の確認も兼ねて見回り中の隊員に指示していく。



「すごーい! ちゃんと隊員の位置が光って見えるのね! リジーちゃんってばやっぱりすごいわ!」


 横でレイ隊長がはしゃぎながら机に置かれたもう盤型の魔法具を観察している。


 肩まで伸びた栗色の髪とほんわかした顔は軍に所属しているとはとても想像できない。


 黙っていれば見た目はすごく綺麗なお姉さんだが、中身は本当に子どもみたいな人だ。


 彼女はエイン王女と同じ年で訓練も一緒に受けた間柄らしい。


 あと、やたらと私のことを可愛がってくる。「お人形さんみたいに可愛い!」は初対面で言われたし、今も隙あらば花を飾ろうとしてくる人だ。



「あっ! 隊長、魔法具に触れるのはダメですよ! 今は大事な試験中なんですからね!」


 そーっと手を伸ばしていたレイ隊長に気づき、書類に目を通していた隊員が注意した。


 隊員に注意されていじけている隊長を無視し、報告された場所と盤上の位置確認を進める。触って壊れる代物でもないが、これで大人しくなるならいいかな。


「全班の位置確認終わりです。誤差もほぼ修正されてますし、通信具との併用も問題ないようです。しばらく試験運用したら編成に組み込みましょう」


 試験が順調に終わったことに隊員たちも安堵の表情を浮かべていた。来節には本運用開始する段階に進むことになるだろうから今のうちに報告書をまとめておこう。



「レイさん、試験は終わりましたから一度、部屋に戻ります……あの、明日からは通信具も使えますから、元気出してください」


 レイ隊長は壁際の机に突っ伏していたが、微かに返事が返ってきた。

 拗ねてる訳ではなさそうだ。私は魔法具を調整している隊員達に後を任せて執務室を出ることにした。


「戻る前にお昼、食べに行こうかな」


 ちょうど昼前なので街に行って食べよう。

 執務室は城の隣の軍施設に配備されている。もちろん軍の食堂もあるが、今日は天気もいいので散歩も兼ねて行くことにした。



「あっ、リジー様!」


 施設棟を出たところで前から歩いてきた人物に声をかけられた。軍にはそぐわない白と黒の女中の格好をした女性だ。


 彼女の名前はフィオ。エイン王女に仕える女中の一人だ。エイン王女と会う時は必ずいるため既に顔馴染みになっている。


 普段は城から出ることはないが、たまに伝令役などを受けることもあり、こうして軍施設内を歩いていることもある。


「レイ隊長なら八番執務室にいますよ」


 そう言って通り過ぎようとすると、「今日はリジー様に伝達なんですよ」と呼び止められてしまった。


 このタイミングだと例の魔法具の成果を確認したいのかな。


 そう考えていると、フィオに書簡を手渡された。厚紙で封された書簡には王族を示す刻印があった。


「必ず、人目のつかないところで確認してくださいね」


 フィオは人差し指を口に当てる仕草をして城に戻って行った。


 私は初めて受け取った書簡に目を移した。

 よくよく見れば厳重に封されている。それに、触れているものしか見ることができない認識阻害魔法もかけられているようだ。


 王女とは頻繁に会っている。なのにわざわざ凝った方法で文書で送ってくるのは何か重大なことでも起きたのだろうか。



「街に行くのはまた明日か」そう呟いて急いで部屋に戻ることになった。



挿絵(By みてみん)

挿絵紹介

亡き友に復讐を誓う主人公「リジー」

@architrave123様より

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