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第百二十九話 白騎と白翼

 神器となってもこの槍は相変わらず手に馴染む素晴らしい一品だ。

 数千年の時を触れていなくても尚、私の魔力に呼応して杖は本来の形状になって私に力を与えてくれる。


 神アイルの計らいなのだろうが、この槍を持っている時は何故だかリリー様が側にいて支えてくれているような気分だ。



 リジー様からセディオを受け取った私は浮遊魔法を展開して空へと飛び上がった。主人が背中を預けてくれたのだ。私は必ずこの敵を殲滅しなければならない。


 上を見上げれば、傷を完全に修復したデンベスが太陽を背にして飛んでいるのが目に入った。

 白い体にできた影で今は灰色の塊に見える。


 それにしてもこの時代になってデンベスと戦うことになるとは予想してなかったな。


 デンベスに向けて上昇しながら私は昔のことを思い出した。



 それはちょうど神アイルから『星の雫』と部隊を託された時の話だ。


 リリー様が神ハイドに操られ西の地を蹂躙している間、他の部隊が先行して東方面に進行してきたことがあった。

 その時私は敵部隊を追い返すため戦ったのだが、その戦いを聞きつけた混沌の神獣が舞い降りたのだ。


 デンベスは私達の抗争など興味がなく両軍に等しく死を与えていった。


 そしてその戦場で唯一生き残った私は苦戦しながらも討ち取ったのを覚えている。



 あれは大切な仲間達を守れず全て失った酷い戦いだったが、今度は屍体としてリジー様の大切な方々を消そうとしている。


 次こそ守ってみせる。リジー様も彼女の大切なものも全てを守るのだ。



「行くぞ! デンベス!」


 私は気合の咆哮をあげ、先制して打ち込まれた魔法弾を手に持つセディオで弾き飛ばす。


 そして十分距離を詰めた私は、デンベスの腹めがけてセディオを渾身の力で投擲した。



 槍術も得意だが私はもともと狩猟で生活していた人間だ。投擲技術に関しては誰も右に出さないほど優れている自身があった。


 それは屍体となった今も変わらない。


 この私の自信を裏付けるように、強力な横回転を加えられたセディオは真っ直ぐにデンベスに向かった。


 槍自体にも自動で回転する魔法もかけているため、威力と貫通力を上げたセディオはそのままデンベスの腹を貫いた。


 やはり硬い表皮を持っていても一点狙いの破壊力には勝てない。

 セディオにより穿たれたデンベスは左腹に大きな穴を空けて悶えていた。


 だが本体の魔法具には当たらなかったようで、その体は穴が空いた直後から修復が始まる。


「そうはさせるか! 戻れ!」


 デンベスの腹にさらに蹴りの一撃浴びせたところで、その腹に手をかざした。


 私の展開した呼び寄せ魔法は、空高く突き抜けた槍を反転させて戻し、デンベスに再び大穴を空けさせた。



「ギャーーー!」


 二度目の貫通はデンベスに大きな悲鳴をあげさせた。耳が痛くなるほどの声量で喚いている。


 だがこれで攻撃を収めるつもりはない。

 私は腹を突き破ってきたセディオを手に納めて言った。



「お前は傷が治るまで両腕が使えない。悪いが、勝負を決めさせてもらうぞ!」



 屍体と言えど痛覚もあって弱点もある。

 私の投擲したセディオによってデンベスは両腕の筋を断たれ、爪による攻撃ができなくなっていたのだ。

 今も動かないのか空中で風に煽られるように揺れていた。


 しかしそれでも私を近付かせまいと長い尾を振り回し牽制してきた。そこに重ねるように魔法弾も打ってくるので面倒なことこの上ない。


 だがそれで攻撃の手を止めてはならない。こうして躊躇する間に傷は修復されてしまう。



「これ以上長引かせてはこの後に支障が出るか。少し魔力を使うが仕方ない。頼むからこれで倒されてくれよ」



 私は一人頷き、セディオの先端に魔法をかけた。

 周囲の魔力を自動で集めるその魔法は、静かに魔力の蓄積を開始する。


 アルドベルが王都リールを攻撃した時に使った魔法を流用しただけだが、いまこの場においては最適な戦法だろう。


 魔力が溜まるまでの間、私はデンベスの魔法弾を弾き、鞭打つように振るわれる尻尾を紙一重でかわし続ける。


 そして魔力を溜め続けた槍は強い光を纏い大地を照らし始めた。


 槍の魔力を確認した私は、浮遊魔法をセディオとデンベスの両方にかける。

 互いに引き合うように磁力を操作すれば私の攻撃が外れることはない。


 狙うはデンベスの心臓部にあるはずの魔法具。

 そこが外れたとしても爆ぜるほどの魔力を浴びれば流動型の魔法具は砕けて無くなるだろう。



 そう考えていると、デンベスの腹の傷が修復されていったが、私の方も準備が終わったので投擲の準備に入る。


 先に動いたのはデンベスだった。

 私を葬るべく大きな口を開け、長い爪を構えて急降下してきた。


 だがその速度では私に攻撃は届かない。


「終わりだ!」


 私の掛け声と共に放たれた神器セディオは、デンベスの口を突き破りその胸に深く突き刺さった。


「ーーッ!」


 口を破壊され声を出せなくなったデンベスは、空中で止まってもがき苦しむように胸を引っ掻き始める。

 しかしその甲斐も虚しく、セディオはデンベスの体内に食い込んだままだった。


 そして、セディオに集められた魔力はその全てを解き放つ。



 青い光を撒き散らした大爆発は中心にいたデンベスを跡形もなく吹き飛ばした。小さな輝きとともに赤い魔法具が壊れていくのが見えた。


 どうやら魔法具の破壊はできたようだな。


 余裕を持って勝てたことに安堵した私は少し胸を撫で下ろす。


 しかし、その余裕は敵の接近に気付くのを遅れさせた。

 気が緩んだ一瞬を突かれた私は、横腹に強い衝撃を受けそのまま地面へと落とされてしまった。

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