第十二話 灰は憂う
新章開幕です
ストルク王国の王都リールはアトシア大陸の中でも最も栄えている都市の一つだ。
日々多くの人達が出入りする。そのため、王都で一儲けしようとあらゆる商人たちが街中をうろついている。
だが、王都の中で表立って悪事を働くことはできない。王国軍が街中を巡回しているためすぐに捕まってしまうのだ。
なのでバレないように皆隠れてやらなければならない。
しかし、それでも年に何十、何百人もの人々が捕まっているのは軍が優秀な証拠だ。
それに今年になってからは悪徳商人たちが捕まる人数が格段に増えている。当然、我々の売買する魔法具を扱う商人達も次々と根絶されてしまった。
例の少女が軍に入った時期と重なるのは考え過ぎかもしれない。が、今はそれを深く考える余裕はなかった。
男は目の前の人物を前に唸っていた。あまりにも突然の報告でどう反応したものか考えてしまった。
確かに王都の計画は順調だった。
あの少女が来ても特に遅れもなく進められたし、もう一つの計画も問題なく進んで実行段階に移ったところだ。
「解せない。今の時期に遺跡に行くなど季節外れもいいところだ」
「私も細かい思考まで支配してないわ。怪しまれるもの。ま、こうなったら誰も継承されないことを祈るしかないわね」
目の前の女は特に気にしていないような態度でいる。操った人間が良くなかったのでは?
一瞬考えたが、別の人間では計画通りに進められないだろう。それにボスも可能性の一つとして考えていたから何かしらの対処も練っているかもしれない。
「だいたい遺跡に行くって言っても儀式は形骸化されているのよ。彼らだって願掛け程度しか考えていないわ。それに、建国されてから千年間誰にも継承されたことないんだからただの伝説よ」
確かに伝説に信憑性はないが、この件に関してボスが事前に危惧していたのが気にかかる。
ストルク王国の初代国王リーグには伝説がある。彼が英雄と呼ばれるようになった話だ。
千年前、このアトシア大陸全土にまたがった戦争が起きていた。日々どこかの土地、国で激しい戦いが起こり、多くの人々が戦乱に巻き込まれていた。
その戦争が激しさを増す中、リーグはこの世界に三柱いる神から力を授かった。
彼に力を授けた神の名はアイル。夜を司る神と言われ、ストルク王国では星教として信仰されている。
この力は『星の雫』と呼ばれ、一人で一軍に匹敵する力を発揮したと言われる。
かの力を受けたリーグは各地の戦闘で勝利を納め、平和に導いたと。そのため、リーグは、世を平和に導いた偉大なる英雄として語られているのだ。
そしてこの伝説には続きがある。
それはリーグが授かった力は、彼の死後、神が作った神殿に封印され、次の継承者が現れるのを待っているのだ。
王国では、新年に神殿に祈りを捧げる儀式を行っている。王族から新たに力を授かる者が現れるよう祈願しているのだ。
ただ、この千年の間で王族で継承したものはいない。
最近では、そもそも初代国王は力を誇示するために神から力を授かったのではないかと考察する歴史家もいるくらいだ。
しかし、千年経った今でも戦争の爪痕や各地に残る伝記が、彼の力が人知を超えていたことを物語っていた。
仮に、今のこのタイミングで新しい継承者が出れば間違いなく計画変更だ。ボスが珍しく強く言っていたのを思い出した。
男は頭を掻き、先のことを考えようと思考を切り替えることにした。
「今悩んでも仕方ない、か。なら、もしも継承者が現れた時に備えておくしかない。ところで、儀式には誰が参列するんだ?」
「王族達と有力貴族連中が参列するわ。今の所は貴族出身の人間だけしか候補者に上がってないわね。ただ、王族からも実力者を推薦する動きはあるわ」
「分かった。ならそのあたりの情報と儀式の日程を調べてくれ。俺はボスに対策を相談する」
そう言うと男は返事を待たずに表通りへと歩いて行った。
路地裏にはフードを被った女しかいなくなった。
「私の予想が合ってるなら、あの子は選ばれてるかもしれないわね」とポツリと呟いた。




