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第百十八話 少女の枝

 ダンストール宰相を連れて小国を回った四日後、私はリズの訓練に付き合うことになった。

 ベネスに帰る前に見たのが最後なので実に十数日ぶりの訓練である。


 軍の訓練場に来た私達は、他の隊員達の邪魔にならないよう隅の方で行うことにした。


 最初に魔力強化の練度を確認したが、前回見た時より練度が上がり、かなりの時間持続するようになっていた。

 普通この練度に到達するには、軽く一年はかかるはずだが、彼女は十日ちょっとで辿り着いたと言うことになる。


 これは努力一つでどうにかできるものではない。

 圧倒的な才能の塊、リズはそれを持って生まれた人間のようだった。


 魔法剣士として戦うには魔力強化と魔力操作が十分でないと、すぐに押し負けてしまうしとっさに遠距離での攻撃もできなくなる。

 本職の魔法剣士でも訓練を怠るとすぐに弱くなってしまうのだ。


 しかしリズはその土台をすでに身につけており、あとは技術を身につけるだけとなっていた。

 リズの魔力を回復させた私は、基本の構えと武器の魔力強化を教えることにした。


 と言っても懇切丁寧に教えることはしない。

 まずは私の動きの真似をしてもらい、体で覚えてもらう。


 なぜその動きをするのか、その理屈を話すのは訓練が終わってからでもできるのだ。訓練の時間が無駄にならないで済む。


 それに、同じ動きを繰り返す内にリズ本人も理屈を考えるようになる。


 上達するには何が足りないのか、私との違いは何なのか。そして、その違いに辿り着いた時、初めて自分の技術として定着するのだ。


 私の役目は彼女が正しい動きができるよう指導し、自分で答えにたどり着けるよう導くことである。



「あの、リジー姉さん。少しいいですか?」


 腕と同じくらいの長さの枝を持ったリズがそろりと私に訊ねた。


「どうかしましたか?」


 彼女と同じように枝を振っていた私はリズの方を見た。リズはどこか困惑したように枝と私、訓練場内にいる他の隊の順に視線を走らせていた。


「えと、構えとか動きに関しては考えは分かります。ですが、訓練に枝を使うのはどうしてですか?」



 彼女の質問に私はなるほど、と一人納得した。


 彼女が言いたいのは木剣を使って訓練しないのかという意味。

 さっき隊員達を見ていたのはそう言うことだろう。


「確かに木剣を使った方が実際の剣に近くて実践向きですね。でもそれだと基礎は身につきません」


 私は枝を振る動きを止めずに言った。


 ここで言っている基礎、それは技術ではない。

 戦うものがなくても戦える、どんな状況でも生き残ろうとする気持ちを育てることだ。



 それは孤児院時代、ストニアとの訓練中にたどり着いた私なりの答えだ。


 木剣を弾き飛ばされ、ストニアに一撃を入れられそうになった時、とっさに手に取ったのが木の枝だった。

 それを急いで魔力強化した私は彼女の攻撃を辛うじて防ぐことができた。


 彼女の攻撃を防げたことに私は驚いたが、ストニアもそのことに驚いたように目を見開いていた。


 結局その枝も最終的にはストニアに折られて一撃を入れられてしまったのだが、私はその痛みも忘れるほど感動したのを覚えている。


 絶望的な状況でも、泥まみれになっても希望を捨てない。真っ二つに折れた枝が教えてくれたのは戦う姿勢だった。

 その時の気持ちを忘れないよう、私は基礎の訓練をする時は枝を使うようにしているのだ。


 その名残りで貴族達相手に枝で戦ったこともあるがそれもいい思い出だ。


 過去の経験を私はリズに語って聞かせた。


「それに枝とは言え魔力強化すれば人だって殺せます。使い方次第でこれも立派な武器ですよ」


 私はそう言って枝が光るくらいに魔力強化し、近くに立てた木人形に向かって振り下ろした。

 木人形は紙が破れるように簡単に真っ二つになった。これが人間だったら一気に肉片になる威力だろう。


「これはやりすぎですが、リズの魔力ならいずれは枝を折らずに真剣とも戦えるようになります」


 私は飛んできた木片を払い除けて言った。

 リズはそれを見て驚いたように口を開けていたが、次第に目を輝かせて私の動きを真似始めた。


「さすが姉さんです! 私も頑張って基礎身につけますね!」


 リズは嬉しそうに言って汗を流していった。

 最初は半信半疑で振っていたリズだったが、今はその迷いが消えて真剣に打ち込めている。


 私の話がリズを動かしてくれたのだろう。教え子の成長はどんな些細なことでも嬉しく感じた。



 しかしどれだけ足掻いても足りないのは一緒に訓練できないことだ。

 私が次に彼女と訓練できるのは討伐の遠征が終わってからになる。なのでリズが一人で訓練できるよう基本の動きは全て教えることにした。


 全部を一度に教えるべきか迷ったが、リズは驚きの速さでその全てを吸収していった。


 才能の片鱗が見え始めているようで、リズの動きは回数を重ねる度に良くなり、一人前の魔法剣士と遜色ない動きになっていった。


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