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第十話 晴天の誓い

 久しぶりの晴れだというのに私の気分は沈み、ずっしり重りがのしかかっていた。


 ちょうどメリルとカインを埋葬しているところだ。二人はもうすぐ大地に眠ることになる。葬儀には多くの人が訪れている。孤児院の子たちや魔法学院の同期達は突然の別れに悲しみ、涙を流していた。



 私は不思議と涙が流れなかった。現場に居合わせ、目の前で殺されたのに泣けなかった。


 あの日既に泣いたからなのか、それよりも前に涙を枯らしたのか分からない。

 ただ憂鬱な気分で一人になりたかった。



 しかし、ストニアや魔法学院の先生達は私を近くに置きたがり、なかなか一人にしてくれなかった。


 近くで慰めることも理由にあるが、私が早まった行動を取らないように監視も兼ねているのだろう。



 クライオに魔法具を渡した商人はあの後すぐに捕らえた。クライオの剣を探知した方法で探せばあっという間だった。


 予想していたが、あの魔法具はこの街で作られてなかった。王国内、あるいは国外の何処か別の場所ということになる。そうなると探知して探すのは困難になってくる。


「浮かない顔ね。無理もないだろうけど、せっかくの晴れなんだし、二人を見送ってあげましょう?」


 考え事をしてるのに気付いたのか横にいたストニアさんが話しかけてくる。


 この数日は忙しかったのだろう、その顔には疲れが溜まっているように見えた。王都に着いた途端に二人の訃報を受け、そのままベネスに戻って葬儀の準備をしていたからだ。


 その間、私は戦いで心身ともに疲弊していたからか、病院に入院させられた。軍の取り調べや、先生達の訪問があって気を休める間はあまりなかったけど。


 ただ、軍の人達には申し訳ないことをしたかなと思っている。


 クライオを吹き飛ばした魔法弾は射線上にあった街の建物を破壊してしまったらしい。幸い怪我人はいなかったが、おかげで街の修理やクレームなどの対応を増やすことになってしまった。



 考え事をしている間にメリルとカインの墓石ができ、花が添えられていく。その光景を目にして、認めたくない現実を突きつけられる。二人はもうこの世にいない、死んでしまったのだと。


 死者を復活させる魔法は当然のように研究されている。その結果、誕生したのが屍人魔法だ。亡骸の一部を媒介に死者の生前の意識を呼び戻し、大地に結びつけるものだ。


 しかし、この魔法は構築自体が困難なため、大抵は成功しない。例え成功したとしても記録には残っていない。死者を冒涜する魔法として屍人魔法自体が禁忌とされているからだ。


 私はこの魔法の理論も構築される魔法陣も理解している。やろうと思えばできるだろう。それでも、私は思いとどまった。これ以上、二人を苦しめることがあってはならないからだ。



 私も手に持った花をメリルとカインの墓石にそっと置いた。ストニアもそれに倣った。二つの墓石に触れ、目を閉じて別れの挨拶をする。


 二人の未来を奪った敵は私が必ず殺します。何年かかっても、必ず果たしてみせます。だから、どうか安らかに……。



 クライオのことではない。

 あの忌まわしい魔法具を作り出し、世界に厄災をばらまく存在がいる。その者達を止めないとまた新たな犠牲者が出ることになる。



 この魔法具に関わり続ける限り、これから先も血を見ることになるし、辛い思いをすることになる。


 それでも私は先に進むことにした。一度関わった以上後戻りはできない。それにまた大切な人達が狙われるかもしれない。それは許してはいけないことだ。


「また、会いに来ます。待っててください」


 そう言って私は二人から離れた。


 ストニアは一足先に移動し、学院の先生達と挨拶をしていた。私は誰とも話す気が起きなかったので、孤児院に戻ることを伝えた。最初は不安げに見られたが許可が下りた。



 しかし、足早に帰ろうとした私は立ち止まった。門の方に人集りができていたのだ。近づくと集まっている人達はある一点を見つめていた。


 その先には二頭の馬に引かれた馬車がこちらに向かって来るのが見える。


 馬車には蒼色の剣を模ったエンブレムが施されている。ストルク王族の馬車だ。

 それを証明するように、馬車の周囲には同じ蒼色の服を着た人達が馬に乗っていた。おそらく王族を護衛する近衛隊の人達だろう。


 墓地の入り口手前で止まったが中は曇っていてよく見えない。しばらくすると、近衛隊の人が馬車の前で隊列を作り扉を開けた。


 集まった人達は出てきた人を見て歓声をあげた。誰が出てきたかは一目で分かった。


 現れたのは第一王女のエイン王女だ。肩まで伸びた栗色の髪を後ろでシンプルにまとめ、首から下は黒を基調とした礼服を着ている。


 現国王には三人の兄妹がいる。キンレーン王子にエイン王女、それからリズ王女だ。


 リズ王女はまだ十歳にもなっていないため公務をされていないが、上の二人は既に成人している。そのため、国王に代わり地方で公務をすることもあるそうだ。


 長男のキンレーン王子は王の執政を手伝うことが多いが、エイン王女は武闘派だ。


 単身で国軍に加わり、魔法剣士部隊を自ら動かしている立場にある。その部隊は各地に駐在する軍の取りまとめをしており、犯罪などの取り締まりを行なっている。


 そして、彼女は今回の件の組織「灰」を追っている実質的な責任者だ。

 確かストニアとエイン王女は面識があったはずだから、挨拶も兼ねての参列に来られたのだろうか。


「君がリジーか? 報告通り珍しい髪色をしているな」


 不意に名前が聞こえたので現実に引き戻された。顔を上げるとエイン王女がいつの間にか目の前に立っていた。近衛隊の隊長らしき人物も後ろにいる。



「はい、そうですが……」と言いかけ、王族の方への挨拶をしていないことに気づき、慌てて膝をつく仕草をしようとすると止められた。


「挨拶は省いてもらっていい。こう見えても堅苦しいのは苦手なんだ」


 後ろにいた隊長は頭を振って王女を窘めた。


「もう少し王女らしい仕草と言葉遣いをしてください。公式の場面だけしっかりすればいいと言うものではないのですよ?」

「そうは言っても私は昔からこうなのだから、兄のようには振る舞えないぞ。それに、公私を分ける姿勢も王女としては一つの在り方ではないか?」


 自信満々な王女を前に隊長はため息をついた。同じやり取りを繰り返しているのだろうか。



「挨拶が遅れたな。知っていると思うが私はこの国の王女のエインだ。今日は君の学友二人に花を添えに来た。すまないが、案内を頼めるか?」


 メリルとカインの所までは少し距離はあるが、場所がわからない訳ではない。たぶん、私に接触するのが目的なのだろう。案内する道すがらエイン王女は私のことを聞いてきた。

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