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不味くて美味しいアップルパイ。

作者: KEN


二十歳を少し過ぎたくらいの頃、初めての海外旅行でサンフランシスコ在住の遠縁の叔母の元を訊ねた際の話になります。


叔母がサンフランシスコで生活を始めたのは終戦後間もない頃に、アメリカの軍人さんと結婚をしたからになります。


遠い異国の地で1人目の旦那さんと離婚しながらも3人の子供を育てた叔母、きっと色々な苦労を経験したせいかもでしょうが、裏表のない本当に優しい叔母さんでした。


僕にとっては初めてになる外国の空港ロビー、右も左も分からずにオロオロしていると、日本で2回しか会った事のない僕を見付けた叔母さんは満面の笑顔で抱き付いて来て、溢れんばかりの歓迎の心で僕をアメリカに迎えてくれ、空港から叔母の娘さんが運転する車で自宅へ送ってもらう最中、日本語が解らない娘さんを無視する形で絶え間なく僕に向かって 日本に住む身内の事情を訊ねまくってきたのには、初の長時間の飛行機を経験して疲れ切っていた僕には少し鬱陶しくも感じました。


すでに3人の子供さんも独立をし、再婚をした旦那さんも仕事の都合でほとんど自宅には帰って来ないらしく、叔母の自宅には僕専用の部屋を用意していてくれて、日本から来る僕の為に真新しく塗った鮮やかなピンク色のペンキの部屋に少し戸惑ってしまったのが印象に残っています。


それから1週間の滞在期間中、時差ボケで頭がぼんやりとしている僕に対して叔母は自分が知っている限りの観光地・・・


と言っても、モントレー水族館以外は地元の公園やスーパー等の、アメリカのありふれた日常の場所だけだったのには正直な気持ちとして、少し物足りない感が否めず、日本よりもアメリカの生活がながいせいだと思うけど、どんな物事に対しても感情をハッキリと言葉に出す叔母には少し馴染めない部分が多々あったと思います。


ちょっと期待外れの海外旅行になった叔母の家での生活に飽きが来た頃、叔母は


「日本にいる身内へのお土産に」


と、山のようなお菓子や服等を渡して来たのには感謝よりも『ありがた迷惑』以外の何ものでもなく、僕が日本から持参したスーツケース1つに山のように邪魔なお土産が収まりきらずに、仕方がなく大きなリュックを購入、試しにズッシリと重たいリュックを背負うと


「俺は今から登山にでも行くんか?」


って心境にもなりました。



叔母の家を離れ旅の締めくくりとしてサンフランシスコへ出発する当日、空港のロビーで叔母との別れに少し感傷に浸っている僕に、いきなり抱き付いて来た叔母は


「せっかくアメリカまで来てくれたのに・・・おばちゃんが年を取ってるせいで何処にも連れて行ってあげられなくてごめん・・・だからせめてお土産だけでも沢山持って帰って・・・おばちゃんは絶対にKENを忘れないから・・・KENも日本に帰ってもおばちゃんの事を忘れんといてよ・・・ 」


って、両目から大粒の涙を流し、心から僕との別れを惜しんでくれる叔母さん・・・


純粋過ぎる優しい叔母の涙にはお礼の言葉も別れの言 葉も思い浮かばずに、僕も力いっぱいに小さな身体を抱きしめ返したのが、僕が初めて経験した本当のハグだったと思います。


涙を流しながら別れを惜しんでくれる叔母が見えなくなった搭乗ロビー、叔母から無理矢理に手渡されたアルミホイルに包んでいるアップルパイ、叔母さん手作りのアップルパイ、叔母宅滞在中に焼き立てを食べた時には


「シナモンの風味が邪魔やし甘過ぎてまずい・・・」


と思いながらも愛想で食べていたアップルパイ、

飛行機の待ち時間中に小腹がすいてきたので仕方がなくそのアップルパイを食べると、シナモンの風味もバッチリに感じ、程よい甘さはそれまでに食べたアップルパイの中でも最高に、一番に美味しく感じたアップルパイでした。


ちょっぴり鼻を突くシナモンの香りと甘味には『物事をハッキリと言葉にする厳しさ』と『周りを気遣う優し過ぎる心』


の叔母さんの笑顔を思い出し、感謝の思いでいっぱいになり涙が頬を伝ったのが、僕の初海外旅行で一番の思い出になったのが『不味くて美味しいrアップルパイの味』です。


今でもアップルパイを食べると、数年前に他界した叔母の心からの、優しさいっぱいの「おもてなしの心」を思い出します 。

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