09話 ギルドでの大失敗
俺はナナント町に帰ってきた。
あのドラゴンから無事に帰ってこれるなんて奇跡だと思った。もう魔物なんて会いたくないと思うほど怖かった。ほんと、ちびるかと思った。
ドラゴン以外の魔物も怖かったし、かなり強かった。あんな魔物がそこらじゅうにいるなんて、いつ死んでもおかしくないと思った。
もっと強くならなくちゃ………!!
今日、実際に魔物を見て、本気でそう思った。
俺は早速、冒険者ギルドに向かった。もちろん、今日討伐した魔物と採取した薬草を売るためだ。
「あの、魔物と薬草の買取をお願いします」
「はい、かしこまりーーー魔物ですか!?」
「はい」
買取受付のお姉さんは、疑うような目で俺を見た。こんな子供が魔物を倒せるはずがない、そう思っている顔だった。
事実、こんな子供が魔物を倒せるわけがない。ギンガが倒したのだ。俺は石を投げて、隠れていただけだ。
「それでは、その魔物を見せていただけますか?」
「わかりました」
俺は、空間魔法を発動させ、魔物を取り出した。とりあえず、1番小さいアングリーラビットを取り出した。
「これです」
「…………!!!!!!!!!!!」
受付のお姉さんは目が飛び出そうなほど驚いていた。せっかくの美人が台無しだ。周りの冒険者達も騒然としていた。
「ギ、ギルドマスターッ!!」
受付のお姉さんは、叫びながら部屋の奥に走っていってしまった。
え……? なに……?
俺、なんかしちゃった………!?
取り残された俺に冒険者達の視線が突き刺さる。
胃がキリキリしてきた。俺はちょー内向的なのだ。人に注目されるのが一番苦手だ。
この空気に耐えられず、魔物をしまって帰ろうと思ったその時、部屋の奥から老人が出てきた。老人の後ろには、先ほどの受付のお姉さんがいた。
「あの、僕帰ります……」
もう耐えられない! この年にして胃潰瘍になりそうだ……
しかし、俺の望みは叶わず、帰らせてもらえなかった。
俺を中心に半径1mほどの円の壁が野次馬の冒険者によって作られていたのだ。
「こ、これは………!! 本当にお主が倒したのか!?」
老人ギルドマスターの目はカッと開いていた。
「いいえ。友達と一緒に倒しました」
「なるほど。その友達はどこにおる?」
「この子です」
そう言って、ギンガを指差した。
ギンガは偉そうにふんぞり返って、調子に乗っていた。
ギルドマスターはギンガと俺を交互に見て考え込んでしまった。
「おいおい、ウソだろ」
「あれは犬? いや……魔物なのか!?」
「それってテイマーってこと?」
「本当だったら、すげーガキだぜ!」
冒険者達が好き勝手に騒ぎ出した。
あぁ……… 最悪だ………
まさかこんな事になるなんて………
「………うむ。お主が討伐したので間違いないじゃろう。この年でBランクの魔物を討伐するとは…………」
暫く考え、ギルドマスターが言った。
しかし、それを聞いた受付嬢は納得いかないようだった。
「失礼ですが、こんな子供に討伐できるとは思えません。Bランクの大人10人で討伐する魔物ですよ?」
「この倒されたアングリーラビットのキズを見ろ。爪のひっかき傷じゃ。それに、この子が空間魔法を使うのを見たのじゃろう? 空間魔法が使えるなら、他の魔法も使えるはずじゃて」
受付嬢はハッとした顔をして、深く頷いた。
しかし、実際は全く違う。倒したのはギンガだ。俺は、魔法は身体強化と空間魔法しか使えない。
アングリーラビットの背中にある小さな傷。俺が付けた傷はこれだけだ。もちろん、石を当てて付けた傷だ。
「冒険者として登録できる年齢でないのが残念じゃ……… さて、もちろん買い取らせてもらうぞ」
こうして、無事に買い取ってもらえたが、心底疲れてしまった。
この雰囲気、ドラゴンなんて出したら大変な事になりそうだ。暫くドラゴンは売れないな………
この日の売上はかなり良かった。
アングリーラビット 1体 10万ガルン
バーレリ草 50本 25000ガルン
モーリュ草 5本 1万ガルン
シルフィウム 50本 25000ガルン
日月草 2本 4万ガルン
この後、反省会をした。同じ間違いないをしないためだ。
あんな沢山の人に注目されて、まるで見世物のようだった。
ちょーインドアで内向的な俺にとっては、地獄でしかなかった。
あれから、空間魔法について調べてわかった事があった。
空間魔法はかなり高度な魔法で、使える人も国に10人いるかいないか、というレベルの魔法なのだそうだ。
唯でさえ魔法を使える人が少ない。そんな中、空間魔法を使ってしまったのだ。驚いて注目するもの無理はない。
なので、今後は、人前で空間魔法は使わないことに決めた。
魔物の収納については、マジックバッグを参考にした。
バッグの中で魔法を発動させ、傍からはマジックバッグを使っているように見える、という仕組みだ。
魔物についても、売る前にちゃんと自分で調べてから売ることに決めた。
先日売ったアングリーラビットはBランクの魔物で、かなり強い。子供には絶対に倒せない。
1番弱い魔物でFランクの魔物というのがいる。これを中心に売ることにした。
そして、段々強い魔物を売っていき、感覚を麻痺させていく作戦だ。
ギンガの修行が始まって2週間経った。
死ぬような経験を沢山したが、どうにか生きていた。
毒針が当たりそうになったり、目の前を氷の矢が横切ったり、魔物の尻尾がかすめた事もあった。
しかし、基本的には、俺は石を投げ、当たったら隠れる、という事しかしていなかった。
だが、レベルは各自に上がっているのを日々実感していた。
また、他の魔法も少しずつだが練習していた。まだ初級程度の魔法しか使えないし、具体的にイメージするのがとても難しいが、かなり楽しい。
その上、魔物狩りのおかげでお金も効率よく稼げていた。これなら学院の学費もすぐに貯まるだろう。
しかし、そんな都合よくはいかなかった。冒険者ギルドでの噂が親の耳に入ったのだ。
8歳の息子が魔物を討伐したと知った両親は我が耳を疑った。そして、どうゆうことなのか説明させられた。
すごく心配する両親。納得させないと、魔物狩り禁止令が出そうだった。それだけは絶対に阻止しなければならない。
魔物狩りができなくなると、お金を稼げないし、レベルも上がらない。魔法の練習もできないし、これから剣の練習もする予定なのだ。
俺は、「ギンガがものすごく強いから大丈夫!」とゴリ押しして、どうにか魔物狩り禁止令を免れることに成功した。
「大人しかったユーリが、やんちゃになった」
そう、ボソッと兄が呟いた。
俺は家の手伝いも兼ねて、食べられる魔物も討伐することにした。
マイルドラビット。この魔物は、肉の感じが牛に近く、俺の大好物でもある。このマイルドラビットを父親に持って行ったら、とても喜んでくれた。
そして、父親から魔物の解体の仕方を教えてもらえることになった。
こうして、あっという間に月日は過ぎていった。