07話 ユニークスキル
「むっ…… なにかいい方法があるのか?」
『あぁ! 簡単なことだ! なにかを売ればお金が手に入る!』
「そんな事はわかってる。そのなにかが問題なんだろ? 俺は売れるものなんて何も持ってないんだから」
『持ってないなら、作るか取るかすればいいだけの話だ! 一番簡単なのは、山へいって薬草など価値のある植物を採取し、売る。可能なら畑で栽培し大量生産する。一番価値があるのは原材料よりも完成品のはずだ。なので、技術があるのなら、薬草そのままを売るよりも、薬にして売る』
な、なるほど……!! ちょっと見直した。
『次に簡単なのは、魔物を狩ってその素材や肉を売る事だッ!』
「は!? 無理無理無理!! 俺、まだ8歳だぞ!? 魔物なんて狩れないって!!」
『オレ様が一緒にいれば心配ない! オレ様に勝てる魔物なんていないからなッ!! それに、学院とやらの実技試験の練習にもなる。オレ様は薬草採取も狩りも両方やった方がいいと思うがな』
「…………」
おバカ属性のギンガのくせに、たまにはまともなことを言う。
それに、この世界には魔物が存在する。ある程度の魔物は倒せる程度に強くなければ簡単に死ぬことになるだろう。
「…………そうだな。仕方ないが両方やることにする。ところで、素材はどこで買い取ってくれるか知ってるか?」
『冒険者ギルドで買い取ってくれると聞いたことがあるが、詳しいことはわからん。両親に聞いてみることだな』
「ふむ……」
早速、夕食の後、冒険者ギルドでの素材の買い取りについて両親に聞いてみた。2人とも驚いていたが、色々教えてくれた。
冒険者への登録は15歳以上。ただし、素材の買い取りだけなら登録がなくてもできるとのことだった。
他に素材を買い取ってくれるところはないのか聞いてみたが、他にはないらしい。
素材は基本的に冒険者ギルドを通して取引をする。直接取引できないこともないが、それがばれるとギルドからの風当たりが厳しくなるらしい。
前世の日本の商社のような役割なのだろう。
「急にどうしたんだ? まさか何か売るつもりなのか?」
父親が真剣な表情で聞いてきた。父親の言葉を聞き、兄弟たちも驚いた表情で俺を見た。
まぁ、そうなるよな。
俺はその質問を予想していたので、予め考えていたことを言った。
「うん。そのまさかだよ。僕、本を沢山読みたいんだ。それにはお金が必要でしょ? それで、裏山に生えてる薬草とかを売ろうと思って………… ちゃんと家のお手伝いもするし、危険な場所には絶対に行かないから……… いいでしょ?」
学院に行きたいというのは、あえて言わなかった。そんなにお金を稼げるかわからないからだ。
それに、魔物狩りをするというのも言わなかった。言ったら絶対に反対されるからだ。「たまたま倒しちゃった!てへっ」と子供らしく言って事後報告する計画だ。
両親は渋々了承してくれた。8歳の子供と考えると、心配な両親の気持ちはわからなくはない。兄弟には危ないと止められた。
俺だって心配だ。というか、俺の方がむちゃくちゃ心配している。なんたって俺はちょーインドアなのだ。
次の日。
早速、裏山に行ってみることにした。
ギンガは昨日に引き続き、はち切れんばかりに尻尾を振っていた。
きっと、山にこれて喜んでいるのだろう、と思いきや違った。
『沢山狩って、沢山稼いで、沢山本を借りて、オレ様の知識欲を満たすのだッ!!』
と意気込んだ。
どうやら俺が思っていたより勤勉なのかもしれない。おバカだけど。
「でも今日は調査だけだからな。って言うか、俺、薬草とか詳しくないけど、ギンガは薬草わかるのか?」
『このオレ様に任せろッ! 多少はわかるぞッ!!』
「頼りにしてるぞ、ギンガ」
裏山の散策を始めてから1時間経った。ギンガがいい仕事をしてくれたお陰で数種類の薬草を見つけることができた。
とりあえず1株ずつ採取した。これをギルドに持っていき、値段と決められた採取方法があるのか確認する予定だ。
かなり奥まできた。
そろそろ帰ろうかと思ったその時、ちょっと先に小さな白い花が咲いているのが目に入った。
この花、どこかで見たことがあるぞ……
「ギンガ、この花知ってるか?」
『いや、知らない。オレ様が知ってる薬草でもないぞ』
ふむ。ギンガも知らないか……… だけど、確かに見たことがある。一体どこで見たのか…………
《 バーレリ草 花と葉は色々な薬に使用される。蕾は惚れ薬の原料。根は眠り薬の原料。 》
「わぁぁーッ!!」
急に頭の中に情報が流れてきた。驚きのあまら尻もちを付いてしまった。
『どうしたユーリッ!!』
俺の声に驚いたギンガが、何事かと慌てて飛んできた。
いつもクールな俺が大きな声を出したのだ。そりゃギンガも慌てる。
「き、急に、頭の中に声というか、文字というか……… よくわからないけど、この花の情報が流れてきた……… ………そうだ……… 昨日、貸本屋で立ち読みした本でこの花を見たんだ………!」
少し冷静になってきた。
よく思い出してみると、昨日チラッと立ち読みした『植物図鑑』という本と同じ内容だ……
一体これはどういうことなんだ……!?
『おおおぉ!! なんと!! それはかなり珍しい特殊スキルじゃないかッ!!』
ギンガは目をキラキラ輝かせながら言った。
「ギンガ…… お前、これを知ってるのか!? それに、特殊スキルってなんだ?」
『なんだ? そんなことも知らないのか? 博識なオレ様が教えてやろうッ!!』
偉そうな態度にちょっとイラっときたが、それよりもこの謎の特殊スキルというのが気になる。
『とりあえず、帰りながら説明してやるッ!』
ギンガはピョンピョンと跳ねた。
『まず、ユーリの能力についてだが、多分それは特殊スキル【図書館】だろう。特殊スキル自体がかなり珍しいスキルだが、その中でも【図書館】は特に珍しいはずだッ!』
ギンガの説明によると、この能力は、
特殊スキル【図書館】
見たもの、聞いたものなどの情報を完全に記憶し、いつでもどこでもその情報を引き出せる
というような能力らしい。
そして、スキルとは、この世界の特別な能力のことだ。大きく分けて3種類。
種族スキル:種族特有のスキルのこと。人間族の種族スキルは【生産】
通常スキル:訓練などを通して習得できるスキル
獲得スキル:生まれ持って所有しているスキル。また、スキルを習熟したことにより取得した特殊なスキル
通常スキルは訓練や学習などをすることにより取得できる。習熟すると稀に【獲得スキル】を得られる。
獲得スキルには強さや能力の高さによってレベルがある。
基礎スキル:100人に1人が獲得していると言われている
希少スキル:1000人に1人が獲得していると言われている
特殊スキル:10000人に1人が獲得していると言われている
究極スキル:100000人に1人が獲得していると言われている
【図書館】は特殊スキルに分類される。能力もすごいし、こういうのをニート………いや、チートと言うのだろう。
そもそも、前世の記憶を持っている時点でかなりチートな気はするのだが、自分のことなので何も問題はない。
それにしても、スキルか……… この世界を生きていくにはスキルについてもっと詳しく知る必要がありそうだ。
帰宅して早々、冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドは町の中心部にある。
俺は買取カウンターへ行き、薬草の値段と採取方法、納品方法などを教えてもらった。
持って行った薬草のうち2種類は少し希少らしく、そこそこの買取価格だった。
学院の入学金100万ガルンへの道のりはかなり遠そうだ。地道にコツコツ頑張るしかないな。
◇
俺の特殊スキル【図書館】。この能力を知ってから、色々試してみた。能力を十分に理解することはとても大事だ。
【図書館】についてわかったこと。
1.自分が接した情報を完全に記憶する
2.記憶した情報は、文字、音声、静止画、動画での再生が可能
3.目視による情報は、一瞬では記憶できない。情報を認識する程度の時間は目視する必要がある。(約1秒程度)
4.情報の内容を理解していなくても記憶可能
5.前世の記憶も対象
こんな感じでかなり便利なスキルだ。用途も幅広い。
そして、俺は閃いた。
貸本屋で立ち読みをすればお金が掛からず、勉強できるのではないかと!!
だが、あまりにも立ち読みしていると怪しまれるし、良心も痛むので、1冊借りて、2冊立ち読みすることにした。