04話 ナイトシルバーウルフ
いつものようにソフィーの面倒を見ていた。すると、シュタッっと目の前に小動物が飛んできた。目が覚めたようだ。
それに気が付いたソフィーが「わんちゃん!」と嬉しそうに言った。
『お前……只者ではないな! このオレ様の意識を奪うとはッ!!』
んん?? 何言ってんだ、この小動物は?
「ってか、鳴くのやめろよ。親に見つかったら面倒だって言っただろ? それに、もう怪我は大丈夫なのか?」
『むむ!? 親? 怪我!?』
「キャウゥゥゥウゥゥゥーーーーンッ!!!」
「だから、鳴くなって!!!」
小動物は急に転がりながら痛そうに鳴いた。
こいつ……
まさか自分の怪我に気が付いていなかったのか……?
俺は呆れた目で小動物を見た。テレパシーが使えるなんてすごいと感心していたのに…… なんだか裏切られた気分だ。
「わんちゃんどうしたの?」
「怪我が治ってないのに無理したから、きっと傷口が開いたんだと思う。 ああいうのを自業自得って言うんだ」
『こ、この傷は………… そうか、お前が手当てをしてくれたのか…… おい人間! お前の名前は何だ!』
「ユーリ。今朝言ったと思うけど。 それと、キャンキャン鳴くな! 親に見つかるだろ!」
しばらく痛みに悶えた後、小動物は落ち着きを取り戻した。
しかし、この小動物、あまり賢くないようだ。何度も鳴くなと注意したが、親に見つかるのも時間の問題だろうな。
『ユーリか。オレ様はナイトシルバーウルフ。世界最強の魔獣とはオレ様のことだ―――ッ!!!』
やっぱりコイツ馬鹿だ。せっかくテレパシー使えるのに馬鹿だ。
『して、「親に見つかる」というのはどういうことだ?』
「ああ、親に見つかると多分……… いや、確実にお前はここを追い出される。だから、追い出されたくなかったら大人しくしてろ、って意味」
『なんと! オレ様を追い出すなど、人間の分際で生意気なッ!』
コイツ、流石に調子に乗りすぎだな。どっちらの立場が上なのかはっきりさせなければならないな。躾は小さいうちから叩き込まなければならないと言うし。
俺は小動物を持ち上げ、窓の外に付き出した。俺が手を離せば2階から真っ逆さまだ。もちろん落とすつもりはない。
「それなら今すぐ出してやろう」
『な、な!? なんてやつだ!! 悪魔だ!! 血も涙もない悪魔だーーッ!!』
「それなら大人しくすると約束するか?」
『………………………………仕方ない。オレ様の傷が癒えるまでだッ!』
まったく世話の焼ける小動物だ。『怪我さえしていなければ…』とかなんとかブツブツ言っていたが、ただの強がりだろう。気にしない。
とりあえず、これで一件落着だ。
この小動物。ナントカウルフって言っていたし、狼なのだろう。
狼と言えば凶暴なイメージだが、コイツからそんな感じは受けない。ちょっとバカ属性が入っているせいだろう。
「名前はないのか?」
『ない。魔物に個々の名前はないからなッ!』
「えっ!!!???」
『ん!? 何をそんなに驚いている? 魔物に名前がないのは当たり前だろう』
俺は驚きのあまり固まった。
小動物もといナイトシルバーウルフは呆れたような目で俺を見ていた。しかし、そんな事どうでもいい。
そんな事よりも…………
コイツ魔物だったのか!!
てっきり動物だと思ってた!!
そういえば、さっきも魔獣って言ってたな………
そもそも、動物と魔獣の違いって何だ?
てか、コイツ急に襲ってきたりしないよな!?
チラッとナイトシルバーウルフの方を見ると、ナイトシルバーウルフは退屈そうにあくびをしていた。
…………うん。大丈夫だな。コイツバカだし。
俺はそう結論付けた。【危険なことはせず、安全に生きる】と心に誓ったばかりなのに、危うく危険なことになるところだった………
よし!これからは無闇やたらに動物は拾わないことにしよう!
見た目は8歳。頭脳は34歳+8歳。俺は失敗から学べる大人なのだ。
ソフィーと狼小動物はすっかり仲良くなっていた。
「わんちゃん!わんちゃん!!」
『ユーリ! コイツに犬っころと一緒にするなと言ってくれッ!!』
「そんなの自分で言えよ」
『何度も言っている!!』
「ん? いつ言った?」
全く聞こえなかったと言うと、色々説明してくれた。
頭の中に響いて聞こえる狼小動物の声は、意思伝達という魔物の能力なのだそう。テレパシーではなかった。
基本的には魔物同士が意思疎通をするのに使うらしい。そして、本来は人間には聞こえないのだが、ナイトシルバーウルフのような上位の魔物になると人間にも意思を伝達できるのだッ!と狼小動物がドヤ顔で言っていた。
また、人間でも意思伝達というの能力がある者は魔物と意思疎通が取れるようだ。
そして、その意思伝達は個から個へも可能で、個から多数へも可能とのことだ。
つまり、狼小動物がピンポイントでソフィーだけに話しかけることも可能だし、ソフィーと俺の2人に対して話しかけることも可能というわけだ。
誰にも聞かれずに話ができるなんて、なんて便利な能力!
「ナイトシルバーウルフっていうのが長いから呼びにくいんだよ」
『そんな事言われても、オレ様に名前はないぞ!』
「じゃぁ名前を付けてやるよ! ソフィー、この子の名前なにがいい?」
「わんちゃん!」
『だから!! 犬っころと一緒にするなッ!!』
犬っころもとい、狼小動物がキャンキャン吠えたので少々躾をした。
とはいえ、流石に『わんちゃん』は可愛そうだ。俺が同じように狼だったら、そんな名前嫌だ。
「ん〜〜………
銀の牙でギンガはどうだ? ソフィーもこれなら呼びやすいと思うけど」
『おぉッ! 気に入ったぞ!!』
「じゃぁ、ソフィー。この子はギンガだ。ギンガって呼んでみな?」
「わんちゃん!ギンガ!!」
本人(本獣?)も名前を気に入ったようだし、良かった。ネーミングセンスなんて全くないが、『わんちゃん』よりはましだろう。