03話 小動物の保護
前世の記憶を取り戻し、記憶の整理をした。
そして、この世界について色々なことがわかった。
この世界には、魔法が存在するらしい。魔法にすごく興味を持った。
何もないところから炎が出るなんてすごくないか!? といい年して興奮してしまったが、魔法はあまり発展していないようだ。
魔法は、呪文みたいなのを詠唱して発動させるらしいが、うちの家族は誰も使えないようだった。
普通に暮らす分には魔法がなくても全く困らない。そのため、わざわざ勉強しようという人が少ないらしい。
魔法を習うには、お金も時間もかかる。魔力が高いかも大事だが、それよりも普通の庶民にはお金も時間も余裕がない。ということのようだ。
また、ドラゴンやスライムなどのモンスターが存在することがわかった。一般的に魔物と呼ばれ、強さに応じてランク分けされている。とは言え、人間が勝手に決めたランクなので、あくまでも目安程度のものだと思う。
そう、つまり、ここはまるでアニメやゲームに出てくるような世界だったのだ。
しかし、残念ながら前世の俺はオタクではなかった。
そういえば、仲の良い友達にゲームの好きな奴がいたな… こんなことになるなら、あいつにオススメのゲームでも借りれば良かった…
しかし、今更後悔しても遅いので、これから勉強していこうと思った。この世界で生きるために。
また、人間社会も複雑なようだ。いくつか国があり、ほとんどの国が貴族制度を取っているようだ。
庶民の俺には直接関係はなさそうだが、庶民が貴族に生意気な口をきくと死刑。という、貴族サマサマな感じで庶民の命はとても軽い世界だった。
そして、俺はというと、平民の中ではごく普通の一般的な家庭だ。すごく貧乏というわけでもなく、生活にすごく余裕があるというわけでもない。
◇
家は2階建てで、1階が飲食店になっていた。2階に子供部屋や寝室があった。
俺は、2階の子供部屋から店の前を通る人達を見ていた。
先日起こった、SSランクの魔物の戦闘。その被害地への支援のため、ここ数日は人の出入りが激しくなっていた。普段は見かけない王国の騎士団もここ数日は頻繁に見た。
そのため、うちの店も嬉しい悲鳴を上げていた。
ザックザック・・・
今日は森に来ていた。森と言っても、家の裏にある裏山で、危険な魔物は出ない。
俺は森で薪を拾っていた。薪が少なくなってきたので、今日は薪拾いの手伝いをしていた。
前世の日本にもありそうな木や草も多かったが、初めて見る植物も多かった。変な形の葉や独特の香りを発する花など、森を歩くだけでかなり面白い。
ゴツッ
「痛っ!!」
急に何かにぶつかって鈍い音がした。当たったおでこがジンジンする。
何にぶつかったのか確認するが、何も見当たらない。
俺は一体何にぶつかったんだ……?
もう一度、周りを良く見てみたが、やはり原因はわからなかった。考えても原因はわからなそうだったので、気を取り直して薪拾いを再開した。
ザックザック
結構奥まできた。いくら魔物が出ないとはいえ、少し不安になってきた。いつだってイレギュラーはあるのだ。
「ん??」
そろそろ引き返そうと思ったら、目の前に小さなドームが見えた。透明のドームで高さは50cmぐらいだった。
好奇心が勝った俺は、その小さなドームにゆっくり音を立てないように近づいた。
「あれは・・・!!」
透明なドームの真ん中に小さな生き物が寝ていた。
小さな生き物は、白っぽい銀色っぽい色の毛並をしていた。大きさは20cm程度だ。
小さな生き物は、ドームの中に入っており、寝ている。俺は、そこまで危険ではないと判断し、さらに近づいてみることにした。
そして、ドームの傍まできた。ドームは直径1mぐらいだった。
「んん!!??」
小さな生き物をよく見ると、怪我をしていた。かなり出血もしており、白い綺麗な毛並が赤く染まっていた。素人の目から見ても重傷のようだ。
小さな生き物は、寝ているというよりも、重傷で息絶え絶えといった感じだ。
このまま見殺しにはできない。助けよう!
「ドン!ドン!!」
ドームを叩いたが、ビクともしない。が、何度か叩いたらドームが消えた。
なぜ消えたのかはわからないが、魔法がある世界。不思議なことが起こっても不思議ではないのだ。きっと。
そう納得し、小さな生き物を見た。
そうだ!
俺は、閃いた!
魔法だ!! と。
俺は、徐に小さな生き物の上に手を翳した。
漫画とかアニメで、こうやって回復魔法を使っていたのを思い出したのだ。オタクではないが、それぐらいの知識はあった。せっかく『魔法』のある世界にきたのだ。物は試し。
それに好奇心は抑えられなかった。
「え~と何か呪文を言わないとなんだけど……
『傷よ癒えよ』!!
…………やっぱり駄目か……」
オタクではないので、回復魔法の呪文が全くわからない。物は試しと思い、適当に言ってみたが、効果はなかった。世の中そう甘くはないのだ。
予想はしていたが、ちょっとショックだ。
のんびりもしていられないので、小動物を抱えて家まで走った。家に行けば傷薬がある。
小動物は……猫…犬…いや、狼のような顔をしていた。口で息をして、かなり苦しそうだ。毛並は野生の動物とは思えないほどサラサラで触り心地は良かった。
家に帰ると、自分の子供部屋に直行した。ブランケットの形を整え、その上に小さな生き物をそっと置いた。そして、別の部屋に置いてある傷薬を取ってきた。
小さな生き物の傷口に直接傷薬を塗り、包帯を巻いた。包帯と言っても、ガーゼのようなものではなく、細長いリボン状の布だ。
とりあえず、これで様子を見ることにした。
動物を飼ってもいいかわからないので、とりあえず、兄弟や親に見つからないように部屋の端の死角になっている場所に置いた。
まぁバレたらその時はその時だ。そう思い、再び薪を拾いに森へ向かった。
「ふぁ~っ」
眠たい目を擦りながら起きる。食事処『肉肉亭』。料理の下準備などがあるため、起床ははやいのだ。
とはいえ、8歳。まだまだ子供だ。いつもならまだ寝ている時間なのだが、今日は両親や上の兄弟たちと同じ時間に起きた。
なぜなら、昨日拾ってきた『小動物』の存在がバレないために、だ。
俺がはやく起きていたことに驚いていたが、『小動物』は見つからずにすんだ。
小動物の様子を見ると、スヤスヤ気持ちよさそうに眠っていた。昨日は辛そうに息をしていたが、どうやら薬の効果があったみたいだ。
頭をなでてやると、ペロっと舌を出した。
前世でも動物は飼ったことはなかったが、こうして見ると、ペットを飼う人の気持ちがよくわかった。癒されるし、可愛い。
そう思ったのも束の間―――
小さい動物は、カッ!と目を開けると、飛び起きた。
そして、威嚇するように「ウウゥゥゥッッ」と唸った。
『誰だッ!!??』
「えっ!?」
コイツ……今、喋った!?
『お前は一体何者だッ!!! 答えろッ!!』
やっぱりそうだ。目の前の小動物が話しかけているみたいだ。
しかも、頭の中に直接声が響いている感じだ。これがテレパシーってヤツか!!
俺は、テレパシーを体験し、ちょっと感動した。
「ガルルルルゥ!!!」
『オレ様を無視するんじゃなーーいッッ!!!』
「あ! バカ!! 吠えるんじゃないっ!!」
家族の誰かに見つかったら面倒だ。
俺は、人差し指を立てて、小動物に向かって「しーっしーっ」と言った。
「俺はユーリ。誰かに見つかったら面倒だから、静かにしろ。それより、もう傷は大丈夫なのか?」
『貴様……人間の分際でオレ様に命令するなど――――』
「くぅ~~ん……」
偉そうな小動物は、目を回しながらその場に倒れた。目を回して、バカっぽく舌まで出ている。
完全に傷は癒えていなかったようだ。
意識を失った小動物の包帯を取り、傷薬を付け直した。昨日に比べ、大分傷は良くなっていた。
野生の治癒能力ってすごいな… と感心しながら新しい包帯を巻いた。
この小動物、元気だけが取り柄のような気がする。
それにしても、テレパシーとは…… 本当にファンタジーだな。