01話 ユーリ・フォルセント
サンメイル王国の西にあるナナント町。
ナナント町も例に漏れず、よくみかける普通の田舎の町だ。
食事処『肉肉亭』は今日もそこそこ混んでいた。
食事ができる店が少ないというのもあるが、家族経営のアットホームな感じが常連客にウケていた。
食事処『肉肉亭』の三男坊『ユーリ・フォルセント』は今日も2歳年下の妹の面倒を見ていた。
ユーリは5人兄弟で、ユーリより年上の兄弟達は店の手伝いをしていた。今年8歳になったばかりのユーリは、一番下の妹の面倒をよく見ていた。
ユーリは淡い水色と銀色の混ざった髪に紫色の瞳をしていた。
紫色の瞳は父親譲りで、水色の髪は母親譲りでだった。銀色の髪は両親のどちらとも違う色で、両親曰く曾祖母譲りとのことだった。
ユーリはとても内気で大人しかった。悪戯や両親を困らせるような悪いことは一切しなかった。
妹のソフィーは遊び疲れたのか、眠たそうにしていた。
ユーリは妹にそっとブランケットをかけた。
ドーン!!
突然大きな音がした。まるで空が割れたような音。
急に大きな音がしたので体がビクッとした。何が起こったのかと、周りを見ると、気持ちよさそうに寝ている妹の顔が目に入った。
こんな大きな音でも起きないなんて…… そう思っていると、再び大きな音がした。
ドーン!!!
ギャァァッ!!!
どうやら、音は外から聞こえるようだ。
ユーリは音の正体を確認しようと、部屋にある唯一の窓へ向かった。
しかし、8歳のユーリの背では、背伸びをしても空の一部分しか見えなかった。
その時、空に稲妻が走った。
―――空に何かがいる―――
そう思った。
ユーリは隣にある小さな棚に上った。そして、外を見た。
目に映ったのは衝撃的な光景だった。赤と白の何かが空を飛んでいた。赤と白の何かがぶつかる度に大きな音と衝撃が走った。
赤と白の何かは、何度もぶつかり合いながら、白い稲妻や赤い稲妻を放っていた。
そして、再び大きな稲妻が走った次の瞬間、大地が大きく揺れた。
ドドドドーーーン!!!
急な揺れにユーリはバランスを崩し、棚の上から落ちた。
赤と白の何かがどうなったかわからないまま、ユーリは頭を打ち意識を失った。
災害級SSクラスの魔物。大国の全勢力をもって、やっと対応できるレベルの魔物。小国なら一晩で滅ぶとされている。しかし、その力故に個体数は少ない。
そのSSクラスの魔物が2体、大空で激しくぶつかった。その度に、空が大きく割れ、雲も吹き飛ばした。人間はもちろん、他の魔物さえも空を見上げた。その力は、まさに災害級。周辺にいた全員が、世界の終わりを覚悟した。
災害級の魔物が1体で大国の戦闘レベルとほぼ同じ。それが2体ともなれば、世界が滅んでもおかしくない。
幸いだったのは、上空で戦っていたことだろう。もしも地上で戦っていたら、被害は十倍以上になっていただろう。
SSクラスの魔物2体が突如現れ、暴れた。
被害は、3つの町が大きな被害をうけ、9つの村が甚大な被害をうけた。死者は約2万人。小さな山が2つ消し飛ばされた。
約2時間にわたる激しい戦いの末、2体は消えた。2体の消失は確認されていないが、体力はかなり消耗していると専門家は考えており、すぐにまた戦闘が始まる可能性はない、と、国王が受け取った報告書には書かれていた。
サンメイル王国、国王バルド・サン・マールメイル。彼は頭を抱え、ため息をついた。
この日、SSクラスの魔物による大災害は歴史に刻まれた。