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志望業種は――魔法少女で!  作者: 竹内緋色
the 3rd show
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16th contact でぃあ まい おにいちゃん


16th contact でぃあ まい おにいちゃん



 おにいちゃんが処刑されると聞いて、一番黙っていられないのは誰だと思う――?

「ミワに決まっているじゃない!」

 全世界に放映された映像は世間で賛否両論を巻き起こしているが、それはミワには関係ない。そもそもに今まで妖精に踊らされてきた愚民どもだ。それが今さら騒いだところで大したこともできないだろう。

「居ても立ってもいられないわ!」

 ミワの大事なおにいちゃんが殺されるなんて、黙っていられるわけじゃない。

「まあ、妖精の動向も気になるけれど――」

 これほどまでに堂々と大々的に衝撃的な行動をする。それは余裕に満ちての行動。何故、余裕に満ちているのか。その答えは――

「今はそんな時じゃないわ」

 おにいちゃんを助けなければならない。そのためにはミワが頑張らないと。

「タイプ・ソーサラーを取り戻す。今こそ、その時だから」

 病院に多くいた魔法少女は昨日のドタバタと比較すると明らかに少なくなっていた。ミワの病室の前にいつも魔法少女がいたけれど、今日は色々な病室をせわしく巡回しているようだった。

 この病院には、その――魔法少女の被害者たちが入院していた。

 ワームに心を食べられた魔法少女。

 魔法の使い過ぎで現実と夢との境界線を失ってしまった少女。

 そんな多くの少女が入院しているけれど、ミワたちが入院というか監禁されてからは看護師に任せていた患者の世話を魔法少女がすることになっていた。魔法を使えば簡単に終わるものの――数が多く、時間だけはかかる。

 周囲に魔法少女はいないようだった。少し前に巡回に来たので、再び戻ってくるには時間がある。それまでにタイプ・ソーサラーが保管されている実験室にたどり着く。

 ミワはあまり物音を立てないようにしながら車いすに体を載せる。火傷のはずのミワの両足はもう感覚がない。火傷でそんなことになるのはおかしいけれど、ミワが食らったのは変質系の余波だから、余計な何かで全く感覚がなくなったのかもしれない。ともかく、もう普通の生活に戻るのは絶望的だった。

「車いす系ヒロインとして返り咲く日も近いわ」

 ただ、おにいちゃんに気軽に抱きつくことは難しくなったけれど。

 鷺宮研磨。

 ミワのおにいちゃん。

 血は繋がっていない。親戚同士ではあるのだろうけれど、いとことかはとことかそんなに近い家系でもなかった。ミワは鷺宮の養子になって、おにいちゃんの妹になった。けれど、もうその時にはおにいちゃんは鷺宮家に近づくことさえ許されていなかった。鷺宮家もかつてのような繁栄はなく、小さな家に堅苦しい奴らがいるだけだったけれど。

 ミワは本当の母親からミワがおにいちゃんに命を救われたことを教えられていた。

 ずっとおにいちゃんはミワにとって特別な存在で――

「諦めたとでも思ったかしら!」

 いつか必ずおにいちゃんを振り向かせてみせるから。最近妙にライバルが増えてしまったけれど、決して譲りはしない。

 緩やかなテクを使い、ミワは車いすを動かし始めた。

 でも、すぐに困難にぶつかる。

 ミワのいる階は3階で、つまり、車いすではエレベータを使わないといけないのだけれど――

「ゾンビものでエレベータは死亡案件よね」

 早いけれど、監視の魔法少女と鉢合わせしてしまえば元も子もないし、扉があくまで外の状況が把握できないのも恐ろしい。

 でも、車いすのまま降りるとなると階段を使うしかないわけで。

「ふん。おにいちゃんへの愛を舐めないでくれるかしら」

 おにいちゃんへの愛は奇跡さえ起こす。

 ミワは勢いをつけて車いすのまま階段を飛び降りた。

 勢い、距離、ともに十分。階段の段に引っかかって転倒しなければいい。転倒したらもう自分ではどうにもならない状況になるから。

 宙を舞う。一瞬体が重力を失って恐怖が襲いかかってくる。けれど、ミワは恐怖を振り払うように車いすの車輪のグリップを強くつかんだ。

 階段の段には触れないようだった。ミワは力いっぱいグリップを掴む。

 ぼぼきゅん。

 車いすが勢いよく弾む。音はそこそこ響いた。不審に思った魔法少女が向かってくるかもしれない。

 勢いがつき過ぎて前に進もうとする車いすを握力だけで引き留める。掌がすれて、じんわりと痛みが広がる。掌の皮が向けて、赤い肉が見えている。でも、壁にぶつかることはなかった。まだ進める。

 ミワはまだ踊り場に到着しただけだった。

 実験室は2階。あともう少し頑張らないといけない。掌は常にじんじんしていて、こんど同じことをすれば肉が削げ落ちるかもしれない。少なくともすごく痛いだろうし、血液がどぼどぼ出るかもしれない。

「それがどうしたというのかしら!」

 痛む手で再び車いすのグリップを握る。そして、再び跳んだ。前よりも遠くへ!

 着地の寸前、空回る車輪を必死に抑える。手から流れ出る組織液のせいで少し湿ってはいたけれど、指が吹き飛んでもいいという心持でグリップを握った。

(これで失敗したら許さないんだから)

 誰を許さないと言うんだろうか。まあ、ミワ自身なのかな。

 今度はさっきよりも大きな音が響いた。上の階から違和感に気がついたのかリノリウムを踏み込む足音が響いてくる。

 監視の魔法少女が気がついて向かってきているのだ。

(流石に2回も変な音を立てたら向かってくるか)

 ミワは急いで車いすを走らせる。

「肝心の研究室とやらの場所を正確には知らないのだけれど、もう、野となれ山となれ、ね」

 どちらにせよ、ミワが行かなければあの二人のままでおにいちゃんを助けることなんてできない。

 都合よく研究室なんて札が下がっている訳もなく、でも、見つかるとまずいので適当な病室に身を隠す。

 灯もなく、カーテンが閉まっているのでとても暗い部屋だった。ミワは扉の外の足音に耳を澄ます。どうも何かを探しているみたいだけれど、変な物音がした、程度の覚束ない足取りで、明確な目的もなさそうだったから、まだミワが消えたことに気がついていないようだった。

「さて、と」

 ミワは暗室を見渡す。病室だと思っていたけれど、病室のカーテンが一切閉められているのはどう考えてもおかしい。

「まさかの、一発ビンゴとはね」

 部屋の真ん中には不思議な光が灯っていた。床から天井に向けて光を当てているのだろう。今のミワの頭くらいの高さまで美術館の展示品のようなものが立っていて、そこにはガラスケースがあった。ガラスケースには最近見なくなったガラパゴス携帯のおもちゃ。

「ホント、こんなものを持って出るのさえ嫌なんだけど」

 仲の良さを見せつけられるようでイライラする。

「今思うと、ホントおにいちゃんって罪作りよね。フラグ立てまくりなんじゃない?」

 まあ、そのフラグを全部押しのけてミワが結ばれる自信があるのだけれど。

「さ。さっさと奪ってお暇しましょうかね」

 ミワがガラスケースに触れようと車いすを前進させた瞬間――

 ガラガラ。

 ミワは驚いて振り返る。暗いだけの部屋に灯が差し込み――

「あんたは――」

 部屋に入って来た人物にミワは驚き、声を上げていた。


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