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志望業種は――魔法少女で!  作者: 竹内緋色
第一唱 終わりの始まり 
10/90

第九羽 愛を取り戻せ!

第九羽 愛を取り戻せ!


 香しい草の香りを温かな風が運んだ。

 その季節をボクははっきりと覚えている。決して忘れない。

「あら。邪魔した?」

 初めて会うその人はボクに笑顔を向ける。切って張ったような笑顔ではないものがこの世に存在するということを初めて知った瞬間だった。

 ドクン。

 何故だかボクの心臓は高鳴る。

「いえ。ただ、あまり見られるのに慣れていないというか」

 震える唇を必死に抑えてボクはその少女に言った。震えを抑えたせいで少し不愛想に見えたかもしれない。でも、その少女は少しも気にせず大きな瞳をボクに向ける。

「ふーん。君、そんなに上手なら演奏会とか出てそうなのに。ほら。単独のリサイタル?とか?」

 実際、その時、ボクは単独リサイタルに追われていた。だから、心を見透かされたようでとても不安になる。

「もしかして、図星、とか」

 申し訳ないと少女は頭を下げる。

「えっと、あなたは絵を描いているんですか?」

「うん。川辺で演奏する君を描きたかったんだけど、ダメかな」

「いえ。緊張しないための練習になりますし。でも、緊張して下手になってしまったらごめんなさい」

「いいよ。気にしなくて」

 その時、春のまだ冷たい風がボクたちを揺らす。

「なんというか、あれだね。上手く言葉にできないけど、さっきまでの君はすごく楽しそうにフルートを演奏してた。自然に音色を聞かせて、それを周りの草花が一緒に歌っている、みたいな。分からないこと言ってごめんね。絵と音楽が違うっていうのは分かるけど、きっと根っこの部分は一緒。まずは自分が楽しまないと。実は、わたしも絵を描くのは好きだけどコンクールに出すってなると、評価される作品はなんだろう、それを描かないといけないのかなって思ったりしてね。でも、それで描いてみるとわたしの描きたかったものと違っちゃって。これで評価されてもなにも面白くないって、絵を破っちゃった」

 えへへ、と少女は茶目っ気のある笑顔を見せる。

「綺麗だ……」

「え?」

「い、いえ。何でも!」

 顔が熱を持つ。きっとボクの顔は赤い。

「でも、あなたの言うことはよく分かります。自分が笑顔にならないと、誰かも笑顔になりませんし」

 緊張でここ最近強張っていたボクの笑顔は次第に柔らかくなっていった。ここまで自然な笑顔は生まれて初めてかもしれなかった。

「あなたのお名前は」

 ゴクリと息をのむ。こんなに緊張したのは生まれて初めてかもしれない。

「わたしの名前は赤井南空(アカイミソラ)

「ボクの名前は――」

 それは彼女がまだ魔法少女になる前のことだった。


「えらいことしてくれたドリル」

 ボクの肩に乗っている妖精、イスカは呆れたように言った。

「これでボクも晴れて魔女かな」

「そのくらいで魔女にはならないドリル」

 ボクは先ほど魔法少女を攻撃した。魔法少女であるボクが魔法少女を傷付けようとしたのだ。

「アオの考える通りにやればいいと思うドリル」

「魔法少女が減るということは妖精にとって不利益になるんじゃないのかい」

「本気で倒そうとしてなかったドリル」

 ボクは腹立たしくなってイスカの体を触る。全身がわたモコで、綿が本体なのではないかと思うほどだが、実際は羊のぬいぐるみだとか。

「自分たちの不利益にならないのなら、それでもいいと言うんだな」

 愚かだ、と言う風にボクは鼻を鳴らす。

 全ての元凶はこの妖精なのだ。なのに、なぜ――

「何故お姉さまはまだ魔法少女を続けているんだ」


 初めて会ったあの日から、ボクとお姉さま、赤井さんと一緒に過ごすことが多くなった。互いの家は知らない。いつも川辺で会う。お姉さまはボクよりも二つ年上だった。

「お姉さま。コンクールの方はどうでしたか」

「そのお姉さまっていうの、やめない?」

「いえ。ボクはお姉さまを心から敬愛しております」

 そんな時お姉さまは呆れたような顔をするけれど、ボクはそれでも構わなかった。

 この世界に必要なのはお姉さまだけだ。

「明日、発表なんだ。アオも見に来てよ」

「行きますとも!絶対に!」

 その後、お姉さまは中学校の、ボクは小学校の話を互いにして、その頃にはいい時間だったので、その日は帰った。

 次の日、町の小さな美術館はごったがえしていた。そんな中、お姉さまが来ているはずだと思い辺りを見回すけれども、お姉さまの姿はどこにもない。

 ボクはお姉さまの絵の前に来た。

 川辺に佇む人影。その人物はフルートを演奏していた。

 その絵を見た瞬間、ボクの心は歓喜に満たされた。

 ああ、お姉さま。ボクのことをこんなにも愛してくださっていたなんて。

 その日は会えずじまいだったけれど、明日お姉さまに会ってボクの胸の内を告白しようと心に決めた。

 けれど、その日以降、お姉さまはボクの前には姿を現さなかった。

 お姉さまは魔法少女になったのだ。


「全てを奪った魔法少女をボクは許さない。魔法少女をお姉さまから奪って見せる」

 ボクは遠くの建物からお姉さまとその仲間らしき少女を見ていた。

「もう一人の子はフキだね。新人の魔法少女さ」

「そう……か」

 ボクは歯を食いしばる。

 あの場所に立っていいのはボクだけだ。ボク以外の人間がお姉さまの隣に立っていていいはずがない。

「でも、もう少しの辛抱だ」

 きっとお姉さまは真実の愛に目覚めて、ボクのもとに戻ってくるはずなのだ。だから、今は我慢だ。


 ボクはお姉さまが今暮らしているという家を覗いていた。

「なんだ!あの死んだ魚の目のような男は!」

「なんだか日本語がおかしくないかい?」

 ボクはイスカの体を握りつぶす。ただ、潰れないので揉むという行為に近い。

「あぁ……ダメ……そこ……おかしくなりそう……」

 ボクはイスカを思いっきり投げる。きっと三日は帰ってこまい。

「だと思った?残念!イスカちゃんでした!」

「お前、妖精のくせにノリがいいよな」

「妖精だって個性はあるドリル。個性が強過ぎると問題ドリルから、控えめドリルけど」

「で、だ。あの死臭のする男は一体なんだ」

「死臭のするって、ひどいこと言うドリル。あれはキワムドリル。魔法少女のお世話役をさせられているドリル」

「くっ。お世話役という立場を使ってあんなことやこんなことを!」

「まあ、落ち着くドリル」

 これが落ち着いていられるだろうか。いや、いられまい。

 魔法の力で耳にも家の中の声が聞こえる。

『フキ、一緒にお風呂はいろっか』

『はい!』

「ぬおぉおぉおぉお!お姉さまの初めてを、あの冴えない女が!」

「お風呂、覗くドリル?」

 イスカはボクを誘惑する。いけないことだ、ボクは真正面からお姉さまのご裸体を拝ませていただかなければならないというのに、それは非常に抗いがたい誘惑だった。

「あ、あ、あの女が、イケないことをす、するかもしれないからな。衣服を着けていない風呂は一番危険だし――」

 ボクは家が見えるようになる望遠鏡を風呂場に向ける。

「あーあ、なんて野郎ドリル」

「大丈夫だ。自主規制はしている」

 ボクの見ている景色はお姉さまの大切な部分に不自然な靄ができている。一応あのフキとかいう女にもつけておいた。

「変化系ってとっても楽ドリル」

 お姉さまとフキはとても楽しそうにお話していた。ボクもあの場所に立てたらどれだけいいか……

「別に友達になろうって言えばきっとなってくれるドリル」

「……」

 そうなのかもしれない。だが、この世界に必要なのはお姉さまとボクだけだ。

 そんな時である。突如としてお姉さまとフキがお風呂場の戸を開けた。脱衣所にはスーツ姿のキワムと下着姿の黒髪の少女がいた。

「あのクソ男殺してやる!」

 キワムという男はボクのお姉さまの裸体をしっかりと見ていた。だから、殺す!

「今攻撃を加えると、ソラにばれるドリル」

「だから、手を打った」

 殺すというのもあまりボクは好きじゃない。それをした瞬間、自分の中の何かが壊れてしまいそうな、そんな恐怖が常にボクと隣り合わせだった。だから、今は、殺しはしない。

 キワムはばたり、と気を失ったように倒れる。近くまで来ていたフキはキワムに覆いかぶさられる。

 フキは物凄い大声を上げてキワムをはたいていたが、今、キワムは意識がない。

「体内の酸素濃度を変化させた。つまりは、貧血を起こさせた」

「アオだけは敵に回したくないドリル」

 しばらくすればキワムも目を覚ますだろう。お姉さまにもボクが攻撃したということがバレてはいまい。ただの貧血だということで処理される。

「お姉さまはボクだけのものだ」


 次の日も朝早くからお姉さまを観察する。

 お姉さまは朝から食事を作っているようだった。

「くぅ。お姉さまに雑用などさせて……!」

「朝早いドリル」

 すると、今度はキワムというロリコンが起きてきた。昨夜、フキに殴られた頬がまだ腫れている。ざまあないぜ。

「またお姉さまに手を出そうものなら、今度はあのくらいじゃ足りないからな」

「はわぁ」

 イスカは大きく欠伸をする。

「でも、アオの根性には呆れるドリル。なにせ、寝袋で寝るドリル。外は寒いっていうのに」

「ボクのお姉さまへの愛はこんなものじゃない」

 ボクはお姉さまを観察する。

 次に起きてきたのはフキだった。ボクの分析ではこの家の中で一番お姉さまに近いのがフキだ。つまり、ボクのライバルである。

 フキはお姉さまが料理をするのを手伝っているようだった。

「あの場所には本来ボクが立つはずなのに!」

 ぎりり、と歯を食いしばる。

『どうかした?フキ』

『いえ。なんだか寒気が』

 ボクはまだ何もしていない。恐ろしく勘の良い子であるようだった。

 その後、もう一人の少女が起きてくる。

「彼女の名前は?」

「ミワドリル。鷺宮家の魔法少女ドリル」

「その鷺宮家とはなんだ?」

「うーん、妖精なしに魔法少女になれる一族としか知らないドリル。どうも10年前よりも前から妖精と関わりがあったようドリル。魔法少女に関する知識は豊富ドリル」

「なるほど――」

 確かに、雰囲気は良家の令嬢を思わせる。

 しばらくすると、キワムが帰ってきた。ミワはキワムに抱きつく。

「あれは犯罪じゃないか?」

「一応兄妹ドリル」

「そうか」

 キワムは迷惑そうな感じであった。どうも妹のミワが一方的にキワムに抱きついている。それをキワムは剥がす。

「お姉さまの手料理を――」

 何の感謝もなくバクバクと食べている。それはひどく許すまじきことではなかろうか。

「ああ、お姉さま。必ずあなたを――」

 取り戻してみせる。


 四人仲良く登校するようだった。

「うーむ。ちょっと待てよ」

 遠くから観察するだけでは情報は限られる。だから、ボクはなるべく近くで四人を観察することにした。

「バレないドリル」

「バレたら魔法で何とかするさ」

 ボクは後ろからそろそろと四人の後をつける。四人は警戒することなく歩いていた。

「雪で滑らないように足元に気を付けてください、お姉さま」

「あの……」

「ああ、あんなロリコンに愛想を振りまいてはいけません。お姉さま」

「すいません」

「くっ。お姉さまに頭をなでなでしてもらうなど」

「ちょっと」

 ボクは肩を叩かれて、後ろを振り向く。そこにはごくありふれた、平凡な女の子が立っていた。

「あの、何か用ですか?」

 それはボクのセリフだった。

「どなたで?」

「私が聞きたいのですけれど」

 ただ、不審がられているということだけは分かる。

 ただ、ボクには、少女を納得させられるほどの答えを用意はできない。

「ボクは、その、この近くの小学校に近々転校してきて……」

「あら。小学生だったの?なら、同じ六年生かしら」

「いや、今は五年生ですけど……」

 先輩であることが分かってボクは緊張する。これはもしかして、カツアゲ案件なのではないだろうか。

「何をバカなことを考えているドリル」

「うわっ」

 少女が驚く。

「妖精が見えているの?」

 それだけでボクは警戒する。妖精が見えるのは魔法少女の素質のあるものだけだからだ。

「ええ。見えているけど、可愛い妖精さんね」

「よく言われるドリル」

「あなたは、魔法少女?」

「え?いや、私は違くって、その、ともだちが魔法少女なんです。あなたがそのともだちを見つめていたから……」

 恐らく、あの二人の小学生の友人なのだろう。それで、なんとなく少女の正体が分かったような気がして安心する。

「ちょっと道に迷っていて、小学生らしき人がいるのでついていこうとしてただけで」

 うまくごまかせた。

「あなたも魔法少女?なの?」

「……」

 どう答えるべきか迷う。どちらでもいいような、よくないような。

「いいえ。違います。この妖精は友人のものです」

「イスカは誰のものでもないドリル」

「そうなの。もし迷ってらっしゃるのなら、道案内をしましょうか?」

「いいえ、結構」

 ボクは急いでその場を後にした。


「さっきのは一体」

「フキの親友のコトちゃんドリル」

「なるほど」

 妖精が見えるということは、魔法少女やワームも見えるということでもある。その点では注意に値すべきであるが、未だに妖精から魔法少女になるというアプローチがないということは、何らかの理由で魔法少女になれないか、適性がないということになる。もしくは隠しているのかもしれないが、あれほどさりげなく真実を隠せるのなら、勝てる気がしない。

「だが、どうやったらお姉さまを取り戻せるものか」

「アオ。イスカは急用ができたドリル。後はごゆっくりドリル」

「こら。逃げるな」

 退屈でもしたのか、イスカはどこかへと去っていく。うっすらと雪が降り積もる町の中、ボクだけが取り残された。

「お姉さまとあのガキどもを結んでいるのは魔法少女であるということだけ。ならば、あいつらを魔法少女でなくせばいいんだ!」

 名案だった。

「つまり、魔法少女になるということはとても危険であると思い込ませればいい。フフフ。完璧だ!」

 後は機を待つのみだった。


 その時は意外と早く来た。

「最近、ワームの出現が多いな」

 ワームは子どものいる場所にしか出現しない。ワームの目的は一つ。魔法少女への可能性を潰すことだけだ。

 だから、出現する場所は――

「学校!」

 ボクは急いで小学校に向かう。目的はワームを倒すことじゃない。お姉さまを救うことだ。

「また懲りずに出てきたわね!ワーム!」

 お姉さまの張りのある声が響く。ああ、なんて美しい旋律。

「一々しゃべってないでさっさと倒すわよ」

 ミワと呼ばれていた少女がそう言う。

「そうですよね」

「でもさ、なんだかわたしたちに足りないものがある気がするんだよね」

「つべこべ言ってないで――!」

 ボクはフキとミワに攻撃を加える。具現化系の魔法によって刃を創り出し、二人に差し向ける。それをミワは簡単に防いだ。

「な、なんなの?」

 フキは驚いている。

 ボクの得意とする魔法は変化系。特にモノの流れを変化させることに特化している。

「だから――」

 ボクは地面に刺さった刃を変化させるが、少しも刃は動きはしない。

「そこに隠れているコソ泥。あんたの考えなんてお見通しよ」

 ミワという少女はなかなかのやり手であるようだった。ボクの放った攻撃が変化系を含んだ具現化系の技だと分かっていたのだ。だから、変化系を使って、刃を動かさないようにしたのだ。

 ボクは皆の前に姿を現す。昨日着ていたローブは脱ぎ捨てた。

「まさか、男の子?」

 フキが口をあんぐりと開けている。そのまま顎が外れそうだ。

「うーん、違うんだよねえ。そういうキャラはいいんだけど、やっぱり決定的に何かが足りない」

「お姉さま!ボクはあなたを!」

 ボクはバトンを取り出し、フキとミワに振るう。

「ミワ。そっちは任せた」

「勝手に任せるんじゃないわよ」

 ボクの相手はミワがするようだった。的確な判断といえる。

「ふん。自分を偽ってまで何がしたいのかしら。あなたは」

「ちっ」

 どうもミワという少女は相当なやり手であるようだ。今、ボクが使っている魔法の正体にも気がついている。だが――

「必ず最後に愛は勝つ!」

「それよ!」

 お姉さまは大声を上げる。

 ボクとミワのバトンは互いを退けあい、火花を散らす。

「わたしたち、決め台詞がないわ。それ、すっごく重要じゃない?」

「ソラさん。今、そんな時じゃ」

 そう。ワームもいるのだ。お姉さまとフキはワームを相手するようだが。

「さ、フキも何か決め台詞を」

 きっとお姉さまはワームを睨む。

「輝く未来を描いてみせる!魔法少女ソラ、見参!」

「ソラさん、恥ずかしいです」

「中学生にもなって、みたいな顔しない。ほら、フキも今のうちに。今しかこんな恥ずかしい事できないんだから。おばさんになってやってみなさいよ、ホント」

「でも……」

「さっさとやる!」

「はい!」

 やるのかよ、とボクは心の中で突っ込む。

「よそ見なんてしていていいの?」

 ミワはボクに攻撃を加えるが――

「どうも君の魔法はカウンターに徹している気がするんだけどね」

 それは変化系のボクもそうではあるが、ミワはとても戦い辛そうに見える。

「これは、どうだ!」

 ボクは無数の光の剣を出現させる。それをすべてミワに叩き込む。

 だが、ミワも似たような光の剣を出現させて、ボクの剣にぶつけて攻撃を無効化した。

 ボクは具現化があまり得意ではない。お姉さまのものに比べると格段に耐久力が落ちる。

「ええい!」

 放出系の光の帯を放ち、それを様々な角度に反射させる。だが、ミワもまたボクと同じように光の帯を反射させ、ビームを避けた。

「みんなの笑顔は宝物!魔法少女フキ、上陸!」

「うーん、なんだか映画っぽくなってるけどいいか。次までにいいの考えといて」

「またやるんですか?」

 お姉さまとフキは互いの背中を合わせ、バトンを前に突き出す。

「じゃあ、この前の行くよ!」

「はい」

 光が二人のバトンの先に集まる。

「聖なる光よ!今、邪悪なる魔を照らせ!」

「なんだか中二臭くないですか?」

「じゃあ、何だったらいいの?」

「さあ立ち上がれ!髪の毛たちよ!」

「フキ、時々ボケるわよね」

「つ、つい」

「とりあえず、デュアルポートレイト!」

 二人のバトンから魔法が飛び出す。その魔法は互いに交わりあい、一つの極大ビームと化す。

「なんな馬鹿な」

 今、ボクとミワがぶつけ合っているように砲出系の能力は互いに干渉し合う。つまりは反発して消え去るはずだ。一体何が起こっているのか。

 ワームは光に取り込まれ消失した。残されたのはボクひとりだ。

「あなたは一体何が目的なんですか」

 フキがボクに尋ねる。

「ボクの願いはお姉さまを救うことだ!」

「あんた、もしかしてアオ?」

「そうですとも。お姉さま」

 久々に名を呼んでもらいボクの心は感動の渦でもみくちゃになっている。

「なにやってんの?魔女にでもなったの?」

「あれは魔女じゃないわよ、ソラ」

 やはり、ミワはボクの正体を見抜いているようだった。

 魔法少女三人を相手にしては勝ち目はない。

 だが――

「だが、お前だけは何としても倒す!この害虫が!」

 ボクは傍で隠れていたキワムに向かってビームを放つ。

「……ハハハ。ハハハハハハハ!」

 砂煙が晴れた時、まだキワムはその場に立っていた。

「どうして、だ」

 キワムは右腕を前に差し出していた。右手のひらは火傷のようにただれている。まるで素手で魔法少女の攻撃を受け止めたような……

「おにいさまに傷を負わせるなんて、許さない」

 瞬間、とんでもない気配が辺りに満ちる。

 その場の誰もが戦慄していた。膨れ上がる、人間の出すものとは思えない殺気に。

「やめろ、ミワ」

 その言葉で、殺気は収まる。

「でも、おにいちゃん」

「大丈夫だ。このくらい唾をつけておけば治る」

「もっとおにいちゃんは自分を大切にして!もう、ミワ、とっても心配なんだから」

 ボクはこの隙に逃げ出そうと背を向ける。

 ミワの出した瞬間的な殺気。それを浴びただけでこれはボクがなんとかできる話ではないと直感した。

「待って、アオ」

 お姉さまがボクの背中に語りかける。

「一緒に戦いましょう?ね?」

 ボクはくるりと振り向く。

 お姉さまはそうじゃない、という顔をしていた。

 なので、ボクは大人しく帰ることにする。

「なんだか仲間になりたそうにこっちを見てたような」

「展開的にもうちょっと延ばしたいところね」


 ボクはまたもキワムの家を覗いていた。正確にはキワムの家ではなくフキの家の様だった。だが、今いる大人はキワムだけなので、キワムの家と言っても過言ではなかった。

「一体あいつらはどんなスペックをしているんだ」

 フキとお姉さまの砲撃とキワムの防御、そしてなにより、ミワの慟哭。

 イスカはあれ以降帰ってきていない。もとより妖精が一つどころにいることは少ないので新たな魔法少女のところへと向かったのであろう。

「ああ、お姉さま」

 今日はお姉さまとミワが風呂に入るようだった。

「ならば、フキとキワムが一緒に?」


「ミワ。一緒に風呂に入るわよ」

「嫌よ。ミワはおにいちゃんと入る」

「いいから」

 ソラはミワを引きづっていく。

「ねえ、あなたたち、何を隠しているの?」

 湯気に塗れながらソラはミワに尋ねる。

「隠しているって?」

「今日のあれ。あれは尋常じゃなかった。それにあんた、まだ本当の能力を見せてない」

「そんなフラグ立てておいて後程大したことじゃなかったっていうやつでしょう?」

「誤魔化さないで」

 ミワは驚いたように言葉を詰まらせる。だが、呆れたようなしぐさをする。

「いつもの能天気さはどうしたのよ。あんたらしくないわよ。それともそれが本当のあんたか。もしくは、あんたの前のお友達と関係あるように考えているのかしら」

「一体どこまで――」

「あなたが知っている以上には知らないわ。それにあまり鷺宮には近づかないことね。物理的にも心理的にも。じゃないと鷺宮が夢に出てくるわよ」

「鷺宮って一体何なの?」

「そんなのミワにも分かっていない。鷺宮にさえも分かっていない」



挿絵(By みてみん)

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