其の二刀 全てを断ち切る
基本書き溜めとかはないです。
それから何度か試して見たが結果は得られなかった。
どの攻撃も壁を前にして吸収されてしまい。誰もその壁に損害を与えることはできなかった。
しかし、壁に触れても体に何の異変も訪れない。触れた状態でも衝撃を吸収されるかの如く壁はビクともしなかった。不思議な壁だった。
「放送で言っていた中性野郎の"結界"という言葉もあながち嘘じゃないのか?」
つい独り言が口から溢れる。一人暮らしが長くなると身につく癖らしい、別に一人暮らしというわけでもないが……
「これってどうなるんだよ?」
「そんなの指示通り待機に決まってるでしょ」
俺がこうやって考えている間にクラスの面々にも少なからずな動揺が広がっている。
この流れはまずい。どうにかして立て直さなくてはいけないが、スキルを持たない俺の発言力など皆無。ただでさえクラスの腫れ物扱いなのに、ここぞとばかりに無能を晒しては今後の俺の生命に関わる。
動揺しているのは俺たちのクラスだけじゃない。全学年の生徒がそうだ。もちろん俺も。ザワザワとした雰囲気が広がって生き、全体として雲行きが怪しくなっていく。
「皆さん静粛に! 予想外の結果となってしまいましたが、幸いに学園には非常用の食料が沢山用意されています。約一週間分の食力です。それをもってすれば救助まで多少の不自由はあれど、生命に関わる問題は起きないと断言いたしましょう」
揺らぐ生徒の心に教頭先生が喝を入れる。先ほどのふざけた様子が一切ない真面目な教頭先生だ。一週間分の食料か……余裕ではあるな。田舎とはいえこの人数が行方不明となればすぐさま世間に知れ渡る。そうすれば警察も動いてくれる。
だがしかし、なんだろうか? なにか忘れていないか? 今回の騒動に深く関わる––––––
「この事件の首謀者………」
そう、その存在である。奴の目的は一体なんだ? 奴の言葉を信じるのであれば、俺たちに最後の1人になるまで殺し合いをさせるのが目的か? しかし、そんなことをしたところで何の意味が? 蠱毒などという儀式を行いたいわけでもないだろう。そうであれば俺たちを逆らうことができない状態にしてからやったほうがいい。
あの壁を作り出したり、放送機を乗っ取ったりすることのできる存在だ。無理ではなかっただろう。
「とりあえずは各自教室に戻って待機しておいてくれ、先生たちはこれから会議に移るのでくれぐれも教室から出たりしないように。トイレに行く際は1人ではなく最低1人の連れを伴うようにすること!」
俺が思考を巡らせていると現場での話し合いは終わったのか、先生たちは見回りと会議で分担するようだ。
「それでは解散!」
校長先生が出張で不在のため副校長が代わりに代表を務めているらしい。副校長の掛け声と共に生徒もぞろぞろと教室へ入る準備をしていく。順当にいけばこのまま一週間もしないうちに救助が来て助か–––––
「そういうのは良くないなあ。良くない、良くないよお。何と言ってもつまらない。私は膠着を嫌う」
突如頭上から声をかけられる感覚に慣れてる人間がどれほどいようか?
聞き覚えのある中性的な声と共にまたあの言いしれぬ不安が襲って来た。"何かが起こる"と直感的に感じたのは俺だけではないだろう。
そして、誰かが首謀者と思われる存在に声をかける前にそれは起こった。
空から何かが落ちて来た。
その何かはちょうど生徒と校舎の間に降り立ち、着地の衝撃で辺りを砂埃に染めた。落下物周辺を砂が舞っているため何が落ちたのかわからないが、首謀者らしき者のあの台詞の後に起きた異変だ。この異変は奴が起こしたものと思って間違いないだろう。
「グゴォ」
悲鳴も出ないとはこのことを言うのかと初めて知った。残念ながらこんなことではなくもっと平和的に知りたかったことだが。
ソレは落ちて来た衝撃で尻をぶつけたのか痒そうに枯れた幹のような左手で尻を掻いていた。体調は3メートルほどあり、頭部は禿げ上がり、理性のない濁った瞳がこちらを見据え、丸太のように太い右腕の手にはこれまた丸太のようにでかい棍棒を手にしていた。
半分開いた口からは涎がダラダラと滴り落ちて、地面に触れると共にジュッという音を立てて辺りに酸っぱい匂いを充満させた。
「オーガ……」
誰かがそう言った。
まさにそんな見た目だった。授業で見たオーガのイラストが動き出して目の前にいるかのような錯覚に陥った。利き腕だけが異様に発達したシオマネキみたいな体格。どれをとってもオーガにふさわしかった。
討伐難易度な中堅レベル、学生が相手にするには荷が重すぎてバックがちぎれてしまうレベルである。相手できるの各学年の代表か副代表ぐらいでそのほかにとって対面はすなわち死を表す。
何かが着地する音はそれ一つでなかったのは当たり前といえば当たり前なのだろう。
オーガは空から無数に降って来た。一体どうやってこんなにと上空を見上げると、複雑な魔法陣のようなものが上空に浮かんでいた。そして、その円から生えてくるようにオーガが生まれ、地上に落とされていた。
いち早く動くことができたのはクラス代表と先生たちだった。
「ここは私たちが押さえておくから、生徒たちは校舎の中で走らずに避難しなさい」
躊躇せずスキルを行使して、オーガの軍団を蹴散らしていく。その戦いは力の差で勝るこちらが優勢だった。しかし、先生と代表たちも全てのオーガを御しきれるわけではなかった。
抜けたオーガが生徒たちに襲い掛かる。
それを複数人でカバーしあってどうにかする団体もあった。
「きゃっ」
視界の隅でクラスメイトが押されて倒れたのが目に映った。
「ヒッ、助けッ–––」
憐れ彼女はすぐそこまで迫るオーガに恐怖して腰が抜けてしまったのか、立ち上がれないようだ。そんな彼女の様子にオーガはニタニタと嬉しそうな様子で彼女に這い寄っていく。
「あれはもう無理だ」
「見るな」
誰かの諦観の台詞が喧騒に包まれ消えていく。
確か彼女は橘 緑だったけな。
オーガの腕が彼女へと伸びていく。オーガの手ほどの大きなの彼女では、掴まれるだけで大怪我に違いない。下手すれば複雑骨折で死に至る。
恐怖で強く目をつぶった彼女が印象的だった。一見弱々しく見えるものの、子供の強がりとも取れるそれが強者に最後まで抗う勇者に見えたのかもしれない。
オーガの腕が彼女に触れる直前、オーガの眼に目掛けて砂をお見舞いする。
かけ砂に驚いたオーガは一瞬だが、目標から視線を逸らしてしまう。その隙に彼女を抱え込んでオーガの股下へ飛び込む。この時、汚いものが頭上を過ぎ去るので彼女の視界を手で覆うのを忘れない。オーガも俺という存在に気づくが、捕まえることはできない。オーガはその異様に発達した筋肉バランスゆえに急激な重心移動を伴うと–––––
ズシンと大木の倒れるような音が背後で鳴り響く。
「らしくないが、これが弱者なりのやり方ってやつよ」
決め台詞は舌を噛まないように気をつけて言った。
なんとか抱えたまま校舎に逃げ込むことができた。
あとは教室に着けば安心だ。
「あの、もう降ろしても大丈夫ですよ」
腕にかかる控えめな重さから声が発せられる。
「ごめん、忘れてた」
「いえいえ、私こそ助けてもらってなんと言ったらいいか」
橘 緑、よく言えば控えめな、悪く言えばクラスではあまり目立たない子だった。確か植物に関するスキルだった気がする。
「とりあえず教室までいこっか」
「うん」
クラスでの印象とは真逆に、彼女の笑顔は眩しかった。
教室に着くと外はバリケードが築かれている途中だった。
「そこの2人! 早く入って」
「はい!」
バリケードを作っている人に催促されながらも教室の中に入ることができた。
これで安心……?
なんで安心と言い切れるのか?
でも確かに安心だ。クラスのみんなが纏まっていることで生まれるメリットはある。
また何か見落としている?
「どうしたの? 顔色悪いよ、どこかぶつけてた?」
俺の考えている様子がどこかおかしかったのか、橘さんが話しかけてくる。彼女とは初対面であるが、この騒動を経て少し距離が縮まったような気がする。
「大丈夫、どこもぶつけてない。少しオーガについて考えてただけだ」
「よかったあ、助けてもらった上に怪我までさせちゃったら私どうしようかと……」
彼女の心配も最もだ。俺も怪我をしてまで助けられたらその人に申し訳無い気持ちでいっぱいになる。
「そう言えば、オーガで思い出したけど、あの上空に浮かんでた魔法陣みたいなものってなんだったんだろう?」
「確かに、あれがなんだったのか気になるな。あれは本当に魔法陣なのかとか––––」
言いながら抱いていた違和感に気づいた。
魔法陣? あれは一体いつ出てきたんだ? 突然上空に? そうであればあの魔法陣は好きな場所に設置できるのか? 例えば–––––
––––この教室の中に……
そう考えると、体の全身に鳥肌がたつのを抑えきれなかった。
つまり、この事件の首謀者の掌の上に俺たちの命があるのと何ら変わらないわけだ。
首謀者の気分次第で命が軽々と消えていく、今の自分たちの状況はさながら剣山の上に吊るされた水風船のようだった。紐を切ることも、ゴムを伸ばして遊ぶこともできるわけだ。
すぐさま誰かにこのことを伝えないと––––––––––––
–––––––––––伝えてどうする?
そもそも俺の話をまともに聞いてくれる相手はいないだろう。今回の件で少しは距離が縮まったと思う橘さんなら聞いてくれるとは思うが、彼女に伝えるのは何かが違う………………。
とにかく、気をつけるのは奴の逆鱗に触れないことだ。生き延びたいならそれしかあるまい。
少しした後、我らが代表が帰ってきた。
「すぐさま安否確認をしよう」
裕樹は開口一番にそう言った。その顔は真剣そのもので、つまりはそういうことであるのはすぐに察せた。
「うっ……詩織が……ひぐっ……いません」
嗚咽交じりに放たれた言葉は教室中に深く根を張りクラスみんなの心に残った。
「そうか……、すまない、言い訳はしない。自分の実力不足だ……」
あの騒動の中で犠牲者がいないはずがない。誰しもが根底に思っていたことだ。しかし、それは口にしなかった。もしかしたら、その犠牲者が自分の友人かもしれないからだ。
休憩なしで作ったら思った以上に疲れた
今見返したらこれ三時間で書いたのか
もっと頑張れ自分