表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

花乱れ抄子

 かおるさん一緒にいて、わたしを一人にしないで。怖いの。

 お母さんは慢性になるって言うし、お父さんはまた仕事仕事になった。わたしなんかいてもいなくても同じになっちゃって。

 小説、書いてるよ。何もしないよりましだから。書いてます。もう夢中、だけどむなしい。むなしいよかおる。ここにきて抱き締めて。

「さよい兄さん。抄子、精神的にやばくなってる。うちにいさせてやれないかな。淋しいんだと思う。」

 さよいは読んでいた雑誌から顔を上げて、かおるを見た。

「どんなメールが来たの。」

「誤解しないで欲しいんだけど。」

 おそるおそるさよいに携帯電話をわたすかおる。さよいは眉を潜めたがすぐに悲しげな表情になった。

「抄子ちゃん。またひとりぼっちにされてるんだね。でもこれを月緒兄さんには見せない方が良い。俺の方から抄子ちゃんの状態、月緒兄さんに話す。」

「うん。」

 抄子は来た。前とは違ってミニスカートを着けて、手足の爪はラメでギラギラ。それでいて目の下にはくまが出ていて元気じゃない。

「あれ、良くない? 若者らしくて。だめ?」

 かおるは言う。

「だめっつーか。若者らしさよりお前らしいのが良いし。」

「うん、これ。」

 抄子は紙袋に入ったカットソーを大事に持っている。かおると駅前で遊んだときに買った服だ。

「ほんとはこういうのが良いんだけど。似合わないかなって。」

「似合うよ。」

 かおるは言った。

「お前が良いなら良いんだって。」

 本当は寝ていた方が良いんだけどな。かおるは思案する。

「昼作ってやるから。食べたら買い物に行こう。」

「やったー、うん。」

 抄子は無邪気に喜ぶ。淋しいんだな、と思いかおるは心のどこかが壊れそうだった。

 一人でも大丈夫にならないといけないよ抄子。お前は治るんだから。また普通の人生を一から送るんだよ、いつか。

 手足のラメは落とさせる。ミニスカートも本人が嫌がってストレートのデニムに替えた。

 昨夜の鍋の残りで雑炊を作り食べる。抄子は茶碗に三杯も食べた。二人はそろって薬を飲む。

 バスに乗って駅付近のスーパーに入る。かおるは一緒に抄子の服を見てやった。

「これじゃ、生意気じゃないかな」

「デニムの裾を折って合わせれば。大人しいと言うより地味なのは避けた方が良い。」

「これ決めた! しまむらで合わせてみる。」

「サンダルはこれで。シンプルに。あとはしまむらで好きにしたら。」

 しまむらへは抄子が一人で行った。かおるはファストフード店で本を読みながら待っていた。

「買っちゃった。お父さん、何かって言うとお金置いていくんだけど。使わないで取っておいたのわたし。まだ残ってるよ。」

「大事に、抄子。」

「うん。」

 大荷物で帰ると二人はそれぞれソファに沈み込んで寝た。

 ご飯を炊くのを忘れたかおるは急いでうどんを茹でた。すき焼き用の牛肉を甘辛く煮つけてすき焼き風のうどんにしたてた。ネギに豆腐にシラタキ。しいたけ、えのき。ナスを茗荷と細かく刻んで塩と七味で揉んで漬け物にした。

 さよいが先に帰ってきて、抄子に家の様子など聞く。

「お父さん、変わらなかった?」

「うん。むしろ前より、分かってくれてんダロって勘違いしてる。」

 さよいは思う。ひろしは、何か向き合いたくない状況から逃げている。それは考えるまでもない、澄江さんのことだ。

 帰ってきた月緒にさよいは話す。ひろしと澄江のこと。

「夫婦のことは夫婦のことだしな。だけどこの夫婦は抄子を傷つける。抄子ちゃんはウチで守ろう。だけど夫婦のことに口出しはできないぜ。」

 四人はすき焼き風うどんを食べた。さよいがうどんをもう一玉食べた。

 風呂に入った後で抄子は言った。

「眠くなるまでみんなと一緒にいて良い?」

 月緒が抄子の頭を抱いた。

「眠るまで一緒にいてあげる。部屋に行こう。」

 抄子はうなずいた。どこか甘い空気が出ている月緒に少し照れるが。ただの優しい叔父さんなんだと思い直す。

 ベッドで目を閉じていると月緒が抄子の頭を撫でてくれる。少しすると、月緒は泣いているようだった。

「月緒さん。」

「ごめんな抄子ちゃん。叔父さん泣いちゃって、オカシいよな。ごめん。お父さん、悪い人じゃないんだよ。分からなくていいよ。抄子ちゃんは辛いんだもの。でもお父さんは叔父さんのお兄ちゃんだからさ。お兄ちゃんの気持ちも叔父さん分かるから。ごめんなこれは忘れて。」

 抄子はゆっくりと手を伸ばして、月緒の黒い髪を撫でた。

「みんな辛いよね。わたしには叔父さんたちがいて良かった。ありがとう月緒さん。お父さんのことも心配してくれてありがとう。」

 月緒は微笑んだ。消灯台の上の花瓶に触れる。

「またここに、花を飾ってあげるよ。うちの主夫はしっかりしてるから大丈夫。」

 抄子は笑顔になった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ