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四人兄弟

 ひろしに茶を出すかおる。

「ありがとう。久々だなかおる。病気は。大丈夫なのか。」

「寛解、治ったとまではいかないけれど。今は落ち着いているよ。普通にはいかないけれどね。」

 ひろしは苦笑した。

「普通なんて言わなくて良い。かおるらしくいるなら。」

 ソファでひろしはくつろいだ。

 月緒が来た。

「兄さん。」

「月緒。いや悪かったなこんな時間に。お前たちにいつも両親のことをまかせきりで気になったんだ。」

 月緒は首をひねって笑った。

 ひろしは澄江との結婚を、反対されていたのに押し切った。それからこの実家には寄り付いていない。

 さよいも現れた。

「ひろ君。」

「さよいー。」

 ひろしは酔っているのかさよいに抱きついた。二人はもともと仲が良い。

「大丈夫かよ、ひろ君。」

 ひろしはずるずると床に膝を着いた。月緒がひろしの身体を起こしてソファに投げつける。

「ほらっ」

 かおるが言う。

「淋しくなったんだろ。抄子もこっちにいるから。でもひろし兄さんがこんなんじゃ抄子だって可愛そうだ。抄子はずっとここにいたって良いだろ。月緒兄さん。」

 月緒は答えない。

「抄子ちゃんのことが可愛くなってるんだね、かおるは。」

 さよいがのほほんと言った。

「兄ちゃんたち茶は。」

 さよいが手を挙げる。月緒が頼むと言った。

 抄子は部屋で小説を書いていた。この時間は自分の世界に浸りきっている。

 原稿用紙にシャープペンで書き進む。

 ひろしがさよいの長いガウンの裾を軽く引っ張った。

「なぬ?」

 柔らかにさよいは聞いた。

 ひろしは口の前に手を持ってきてはしきりにグーパーと動かす。

「げ!」

 月緒が動いた。ぼうっと立っているさよい。

 かおるが二人に茶を入れてくると、居間は酸っぱい臭いがした。さよいがひろしの背をさすっている。月緒が洗面器を持って現れたが遅かった。

 月緒とさよいが吐瀉物の始末をした。ソファは丹念に水拭きして乾拭きした。

「バカ長男っ」

 月緒が怒った。

 さよいの脱色されたふわふわの髪をぐしゃと触る月緒。

「月緒兄さん痛い。」

「何か、何か忘れさせて欲しい。」

 月緒はかおるに抱きついた。

「もうデブじゃねーよっ」

 かおるは怒って月緒を突き放す。

 すぐ側のソファでひろしはぐうぐうと寝息を立てていた。月緒はそのソファの足を蹴った。




 抄子が朝起きてかおるを手伝おうとすると新聞を読んでいる見慣れた姿が目に入った。

「お父さん。」

「おはよう。抄子。」

 抄子はコーヒーをセットする。ひろしはあのままソファで寝たらしい。さよいが着ていたガウンをひろしにかけてやっていた。

「ねえ何でいるの。」

 抄子はひろしに言う。

「うん。」

「お父さんは、お母さんのこともわたしも、どうだって良くて仕事だけなんだよね。なのに何で、落ち着いてきたわたしのとこに来ちゃうの。」

「抄子のところに来たんじゃないよ。ここはお父さんの実家だもの。」

 かおるがひろしを睨んだ。抄子は菓子パンを一つ掴むと自室にかけていった。

「あんたそれでも親。」

 かおるはひろしに言う。

「言っとくけどみんな抄子の味方だよ。あんたは大人のくせに抄子を傷つけてきた。いるのは勝手だけど。ほんとは出てけって言いたいね。」

 ひろしはコーヒーを自分のカップに注いで飲んだ。

 月緒とさよいがやってきて、ひろしと話しながら朝食を取った。

「兄さんウチから仕事に行くなら」

「少しの間そうさせてもらうか」

 さよいがカフェオレをお代わりする。

「抄子ちゃんと仲直りしてよ。」

 さよいがひろしの隣に掛けながら言った。かおるもアイスコーヒーを手に食卓に着く。

「抄子に声をかけるんなら手を貸すよ。」

 いくらをご飯にかける。厚焼き卵におろし、大葉。玉ねぎのみそしる。キュウリとわかめの酢の物。

「頼む。それと、抄子のこと、みんなありがとうな。」

 ひろしが言うと月緒はひろしの背を労るように軽く叩いた。

「ひろし兄ちゃん買って欲しい本があるんだけど。」

 こらかおる、とさよいがたしなめる。うるせえと返しているかおる。

 月緒とさよいは急いで朝餉を食べると歯を磨いてから出て行った。

 かおるはひろしを連れて抄子の部屋の前まで来た。客間として使っていた部屋である。一階の居間の近くにある。

「抄子。朝飯用意してあるから。それとお父さんが話だって。このまま聞いてくれてりゃ良いって。」「抄子。お父さんだ。悪かったよ。何がって、いろいろ、仕事も大事だったけど、お前たちだって大事なのに。分かってくれてるって勘違いしてた。淋しくなったからやっと気付いた。お父さん、バカでごめん。」

 襖が開いた。

「お父さん、お母さんのお見舞い行って。」

「行くよ。休みになったら。」

「うん。それでいいよ。」

 ひろしは急いで家を飛び出して仕事に向かった。足取りも軽く元気であった。

「あ、抄子いくらはスプーン一杯までだって言ったじゃねえか!」

「ごめーん。」

 抄子もいつもより食欲が出ていた。



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