暗雲
抄子は母とカラオケで会っていた。母はグループホームに住み、作業所に通っている。
「まだちょっとね。無理をすると頓服薬を飲むのよ。それでも無理を避けてばかりいると人間が小さくなるでしょう。」
「わたしは、まだ薬を続けることになったよ。このまま普通でいられたらいいなって。」
抄子は秋のスカートを履いていた。澄江が手作りしてくれたものだ。澄江は気が付いているのかいないのか。
さよいも月緒も、夫婦で忙しく働きながらも甘い蜜月を過ごしているらしい。かおるがよくラインに呼び出されては「けっ」と、言っている。
「かおるさんは、なにか趣味でやってないの。」
抄子の問いに答える。
「昔やってた。小説を書くの。今は薬の関係か分からんが書けない。」
かおるに連れられて畑道にはいる。壁のようになっている斜面に生えている細いネギのようなのを球根ごとかおるは取る。袋に入れている。
「それ、なに。」
「ノビル」
ノビルは湯がいて酢味噌和えにした。
ポテトサラダにマカロニを入れて、柴漬けもいれた。豚バラを甘辛く炒めて、ご飯に乗せて豚丼にした。
抄子とかおるの二人で夕飯になることが多い。ひろしの分はとってある。
「ポテトサラダ、マカロニか柴漬けどちらかで良かったんじゃない。」
「だよな。」
かおるはにやりと笑って柴漬けをぼりっと食べた。柴漬けとマカロニ、両方入れてみたかっただけなのだろうか。
かおるに変わったところは見られなかった。
翌日、ひろしは救急車を呼んだ。かおるが薬を大量に飲んだのだ。仕事終わりに月緒とさよいも病院に来た。
かおるは頑として、自殺未遂の理由を言わなかった。
抄子には分かった。かおるの自殺未遂の理由を。
梅雨時には露草。秋には桜の赤くなった落ち葉を共有した。お互いに、互いの気持ちに気付かないふりをし合った。
その内かおるは、用意してあった答えのような自殺の理由を語った。
病気を抱えたまま、老いていくのが怖くなった。病気の両親のことが重荷になった。
ひろしは真に受けて、かおるに同情した。




