第8話
「ねぇねぇ、ちょっとちょっと聞いてよゆりか! ニュースニュース大ニュース!」
騒がしい声と共に、舞が教室へと入って来た。
「どうしたの舞ちゃん、そんなに慌てて」
息も絶え絶えにゆりかのもとへ駆け寄った舞は、その肩をガシッと掴んだ。
「い、いい? 落ち着いて聞くのよ」
「う、うん」
「さっきさ、生徒会の用事で講堂に行ってきたんだけど、その途中にある部室から聞き覚えのある声が聞こえてね。ちょっと気になったからその部室を覗いたんだけど、見てみてびっくり! 誰が居たと思う?」
「うーん、ゴリラとか?」
「そうそう、ゴリラが棒使って天井から吊るされているバナナを……って、ちゃうわ!」
鋭いツッコミをゆりかに入れた舞は、改めてゆりかに向き直る。
「なんと、そこに居たのは大都と4人の美女!」
「えっ?!」
舞の言葉にゆりかは驚く。
「大都のやつ、いつの間にあんな美女たちと知り合ったのかしら。残念ながら部の看板が無かったから何部かは分からなかったけど、全く、あいつも隅におけないわねぇ。ねぇ、ゆりか。あんたも急がないと、大都を他の誰かに取られちゃうわよ。あいつ、あー見えて、結構女の子に人気あるのよ。ぶっきらぼうだけど面倒見がいいとか、目付きは悪いけど、意外と優しいとか。何かそう言うギャップが……」
そこまで言いかけた舞はギョッとする。目の前のゆりかが、目に大粒の涙をたくさん溜め、今にも泣き出しそうだったからだ。そして、
「ふぇえええ。そんなのいやだぁ。大都ちゃあああああん」
堤防は決壊した。
まるで子供のように、大声で泣き出すゆりか。
突然泣き出したゆりかに、舞は大いに焦る。
し、しまったぁ! あまり進展しないゆりかに、発破をかけるつもりで言ったのに、まさか、泣き出すほど深刻に取られるなんて。ああ、どうしようどうしよう!
大好きなゆりかを悲しませてしまった舞は、罪悪感でいっぱいだった。舞はゆりかを抱き寄せぎゅっとする。
「ごめんねごめんね、ゆりかを泣かせるつもりなんてこれっぽっちも無かったんだ。ごめんね……」
舞に抱きしめられながら、ゆりかは泣き続ける。そして思う。
どうして私は泣いているの? 大都ちゃんが、他の女の子と一緒にいることが許せないの? この感情はやきもちなの?
子供の頃からいつも傍に居てくれた大都。何かあると「めんどくせぇなぁ」と言いながらも、結局なんだかんだでゆりかを助けてくれる大都。そんな大都が、自分から離れてどこかへ行ってしまう。そう考えただけで、彼女は言いようのない悲しみに襲われる。それがただ寂しいだけなのか、それとも恋愛感情なのか、それはゆりか自身も分かっていなかった。
これからも続くと思っていた当たり前の日常。
その終わりが近いことを、彼女は無意識に感じていたのかもしれない。