第7話
「ったく、あいつめ偉そうにしやがって」
学校から帰ってきた大都は、乱暴に鞄をベッドに放り投げた。
大都の言うあいつとは、天音のことである。
大都は忌々しげに椅子に座ると、デスクトップのパソコンに向き直り電源スイッチを入れた。
「なーにが、『あなたは小説を書く実力も資格も無いから、模写をしなさい』だ。小説を書くのに資格なんて必要ねーだろうが。必要なのは実力と根気じゃねーのか。まぁ、俺には実力も無いけどよ」
鞄から天音に渡された、ライトノベル小説を取り出す。
「実力は無いがな、こう見えても根気だけはあるんだぜ! 見てろよ天音め、目にもの見せてやんよ!」
そう言って、大都はガチャガチャと勢いよくキーボードを叩き始める。某掲示板のヘビーチャネラーである大都は、実はタイピングは早かった。部室で書ききれなかったのは、何を書いていいか分からなかったからなのだ。
そして、次の日。
「大都ちゃーん、学校いこー」
いつのものごとく、ゆりかの気の抜けた声が辺りに響き渡る。
「むう。大都ちゃん、今日もお寝坊さんなのかしら」
そう言って、ゆりかは大都の家に潜入すると、抜き足差し足忍び足で大都の部屋までやってきた。突然、扉を開けて脅かそうと言う魂胆である。ホラー関係が大好きなゆりかは、人を驚かすのが大好きであった。
「大都ちゃーん! 起きろー!」
そう言って勢いよく扉を開けたゆりかだったが、目に飛び込んできた悲惨な光景に絶句した。
「だ、大都ちゃん! いやああああああ!」
そこには、パソコンの前で真っ白に燃え尽きた大都の抜け殻があったのだ。
「小説を書いていた? 大都ちゃんが?」
「おう」
学校へ行く途中、大あくびをして眠そうにする大都から、真っ白に燃え尽きていた理由を聞いたゆりかは驚いていた。
大の活字嫌いな大都ちゃんが小説?! しかも、読むんじゃなくて書いているだなんて……。
以前、面白い小説を読んだから貸してあげると薦めたことがあったが、『小説なんて読む気がしねぇ』と、1ページたりとも読もうとしなかった大都。そんな大都が小説を読むのではなく、書いていると言う。にわかには信じられない話であった。
「まぁ、書いていると言っても今は模写しているだけなんだけどな。文章レベルが余りにも低いからって、部活の先輩に命令されてさ」
「部活?! 大都ちゃんが?!」
万年帰宅部の大都が部活も始めたことを聞いて、ゆりかはさらに驚く。
小説といい、部活といい、一体大都ちゃんに何があったんだろ……。
不思議そうに、じっと大都を見つめるゆりか。
そんなゆりかの視線に気づいた大都が、慌てて説明する。
「ああ……、えっと、その、なんだ。ちょっとさ、思うところがあって小説に興味が出てさ。自分で書いてみようと思ったんだよ。」
「そうなんだ……」
一瞬、寂しそうにゆりかが俯く。
頭の中では、昨日の放課後に舞ちゃんが言っていた言葉がフラッシュバックしていた。