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第6話

「まずは、君の実力を知りたい。申し訳無いんだが、このノートパソコンを使って短編小説を書いてくれないか」

「短編小説を書く?! いきなりっスか?!」

 晶の突然の無茶ぶりに焦る大都。

「なーに、気にする必要はないさ。あくまでも実力テストと思ってくれればいいんだ。教える立場としても君がどれだけ書けるか分からないと教えようがないからね」

「は、はぁ……」

 小説を書けとか、一度も書いたことない人間に、何を言ってるんだこの人は。

 渋々パソコンの前に座る大都。だが、全く何を書けばいいか分からず、手がピクリとも動かない。

 気乗りしない様子の大都に、イラついた天音が口を出す。

「ったく、何をウジウジしているのよ情けないわね。アナタ男でしょ? それとも国語で作文を書いたことが無いとか? あ、分かったわ。アナタ、国語の通信簿『1』なんでしょ」

「うっせぇな! 国語の成績は『2』だよ。何か文句あるのか!」

「まぁまぁ二人共落ち着いて。そんな興奮すると、木村的に良くないと思うな。カロリーの消費は抑えないと、余計な食欲が出てきてしまうよ。ダイエット中の木村としては、とても困る事態が予想されるんだ」

 言い争う二人の間に、木村が割り込む。

「そこで、はいコレ。木村的提案。『三題噺さんだいばなし』で書くってのはどうかな。これなら脳のカロリー消費もある程度抑えられて低燃費。とてもエコだね」

「それいいっスね。ある程度テーマを絞ってもらえれば、大都さんも書きやすいと思うっス」

「三題噺?」

 首をかしげる大都に、ふんぞり返った天音が説明する。

「しょうがないわねぇ。無知なあなたにも分かるように、この天音さんが教えてあげるわ」

「くっ」

 屈辱に打ち震える大都。

 だが、今は我慢だ。我慢するんだ大都。小説大賞さえ取れば、こんなところオサラバだ。そうすれば、こんなムカつく女の顔も拝まなくてすむようになる。我慢だぞ、大都。

「いい? 三題噺とは、落語の形態の一つなの。例えば、寄の前で演じる際に観客に適当な言葉・題目を3つ出してもらって、出された題目3つを折り込んで即興で演じたりとかね。近年では小説でも使われるようになって、短編小説を書く時なんかに、他の人に3つのお題を出してもらって即興で書いたりするのよ」

「そうそう、うちらも時々やるんスよ」

「なるほど……。じゃあ先輩方が出したお題に沿って、短編小説を書けばいいんですね」

 大都の言葉に、晶が頷く。

「そう言うこと。じゃあお題は、木村、衣純、天音に出してもらうとするか」

 てなわけで、3つのテーマが出揃った。

 木村は『メガネ』。衣純は『プリン』。天音は『妹』。である。

「中々面白そうなテーマが出揃ったわね」

「このテーマなら、いい小説が書けそうっス」

 出されたお題に、天音と衣純は満足そうに話をしている。だが、大都はさっぱりだった。

 何が面白いのかさっぱり分からん……。この共通項が全くないこのお題でどうやって小説を書けばいいんだ?

「じゃあ、制限時間は30分」

「30分?!」

「よーいスタート!」

 あまりの短さに驚く大都だが、晶は無情にタイマーをスタートさせた。

 メガネ、プリン、妹、メガネ、プリン、妹……。

 何かの呪文のように大都はお題を繰り返し呟きながら、キーボードを叩き始める。

 そして……。

「よし、そこまで!」

「ああ、もうちょっと!」

「駄目ッス大都さん。時間ッスよ」

 時間になり、書き途中の大都からノートパソコンを取り上げる衣純。そのままプリンターに繋ぎ、大都の小説を印刷する。

「どれどれ、どんな小説が書けたのかしら」

「楽しみだよ。木村は今、楽園の扉を開けようとしているよ」

 そう言って、大都の小説に群がる4人。そして、皆一斉に呟く。

「これは酷い……」

 以下、大都が書いた処女作、三題噺である。


■テーマ 【メガネ】【プリン】【妹】


 昨日は、妹とメガネを買いに行きました。

 妹はプリンが大好きなので、帰りにプリンを買って帰りま


 文章はここで終わっている。

 暫くの沈黙の後、みなは慌ててフォローを始めた。

「ま、まぁ、最初だから仕方ないよな」

「そ、そうだよ。禁断の扉を開けてしまった木村が悪かったんだ。人間は誰しも甘い果実には弱いんだ。そう、アダムとイブのように、人間は罪を犯してしまう生き物なのだよ」

「そうっス。先輩は今、一番最下層にいるっスよ。ようするに、これからは上がる一方ってことッス。何も気にすることないッス」

 皆口々に、慰めているのか貶しているのか分からないフォローをしている。だが、

「あのね、アンタ。日記を書いているわけじゃないのよ。なんなの、この『お題をとりあえず積み込みました』みたいな作文は。私たちは小説を書けって言ったの。わかる?」

 一人、天音だけが厳しい意見を言ってきた。

「そ、そんなこと言ったって、俺は小説なんて書いたことないんだからよ。仕方ねぇだろ」

 ムッとした表情で反論する大都に、天音は呆れた顔を見せる。

「男のくせに言い訳するの? 本当、情けないわね。だいたい小説を書いたこと無くても、読んだことくらいあるでしょ? そもそも、アンタ小説の意味わかってんの? 小説ってのはね、話の展開に内容から必然性が導かれるものなの。わかる? 絵本のような物語じゃないの。 しかも30分も時間があったのに、最後まで書ききれてないし。全く、こんな稚拙な文章の何処に時間をかけたの? 全く呆れるわ。これだけはハッキリと言えるわね。まさにこれこそが時間の無駄。書いた方も読んだ方も双方が損する、LOWSーLOWSの関係ね。本当、待たされた時間を返して欲しいわ」

 ここまでハッキリと言われると逆に清々しい。何も反論できない大都はあんぐりと口を開けている。

「お、おま、初心者に対してよくそこまで言えるな……」

「ふん、本当のことを言ったまでよ」

「まぁまぁ二人共落ち着いて」

 そう言いながら、晶は天音を引き寄せた。

「……おいおい、ちょっと言い過ぎじゃないか。相手は初心者じゃないか。もっと言葉をオブラートに包んでだな……」 

「わかってるわよ。でも、あいつを見ているとどうもムカついてしょうがないのよね。なんか、小説を馬鹿にしているって言うか、まるでやる気を感じないところとか」

「ううむ……」

 天音の言うことは晶も感じていた。口では小説を書きたいと言っているが、大都からは本気で小説を書こうという信念や想いが感じられなかった。それもそのはず、彼にとって小説を書く事は100万円を手に入れる為の手段であり、目的では無いからだ。それを天音は感じ取っていたのだ。

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