第4話
「大都ちゃーん。一緒にかえろ~」
放課後、ゆりかは帰り支度をしている大都の元へやってきた。
「わりぃ、ゆりか。今日はちょっと用事があるんだ。悪いけど、一人で帰ってくれ」
そう言って鞄を持った大都は教室を飛び出す。
「あらら、振られちゃいましたねぇ」
意地悪い笑みを浮かべ、舞がさささっとやってくる。
ゆりかは首を横に振った。
「ううん、いいの。大都ちゃんも用事くらいあるよ。それに、いつも私のお守りばっかりしてもらっても悪いしね」
健気なゆりかの言葉に、舞は目を潤ませる。
「ああっ、ゆりかってば、なんていい子なのっ!」
舞はぎゅっとゆりかを抱きしめた。
口と鼻を押さえられ、ゆりかは苦しそうにバタバタした。
「さてと、行きますか」
天音の教室の前で待ち合わせしていた大都は、その小さい背中についていく。
「ええっと……ちなみに何処に向かってるんスか」
「ライトノベル部」
振り向きもせず、天音は言う。
ライトノベル部。いったいなんの意味だろう。
小説とは全くの無縁の生活をしていた大都にとって『ライトノベル』と言う単語は聞きなれない言葉であった。
やがて二人は目的の場所につく。2年生の教室から講堂に向かって行く途中に、その部室はあった。
ガラッと扉を開けると、パンパンパーンと激しいクラッカーの音と共に紙吹雪が大都たちを出迎える。
「ようこそ! ライトノベル部へ!」
そこには、見知らぬ3人の女生徒たちがいた。
予想だにしてなかった歓迎ぶりに、大都は驚いていた。
「やったな、天音! 見事部員ゲッツだな」
「ああ、これでライトノベル部も安泰よ」
前かがみになる大柄な女生徒と天音は嬉しそうに手を叩く。
部員ゲッツ? 誰のことだ?
「よく来たね、新入部員! 木村は歓迎するよ」
木村と名乗るポニーテールの女の子が、呆気に取られている大都の手を取り固い握手をする。
新入部員? 何のことだ?
「よく来たっス我が同胞!! 私の名前は神原衣純っス! 仲良くするっス!」
前かがみに敬礼のポーズをしながら、神原と名乗る女生徒はパチリとウィンクをする。
同胞? 何を言ってるの?
事態が飲み込めていない大都をよそに、部室内ではお祭り騒ぎ。みな、『これでライトノベル部は廃部を免れる』『ちょうど男手が欲しかったところだ』『新しい風が吹きそうだ』と口々に言っている。
「あの~」
大都は、おどおどと手を挙げる。
皆は一斉に大都を見た。
「えっと、皆さん何か勘違いしているみたいっスけど、俺、電球とか鈴なんかに興味はないっスよ?」
「?!」
大都の言葉に、皆が驚愕の表情を浮かべた。
「電球に鈴の研究? 一体何のことだ?」
大柄な女生徒が首をかしげる。
「だからホラ、さっきから自分たちで言ってるじゃないですか。ライトのベル部って。ここって、電球に鈴なんかつけたりする研究をする部なんでしょう」
ライト=電球。
ベル=鈴。
ライトのベル部。
このことを皆が理解するのに、少しだけ時間がかかった。
そして理解した瞬間、皆の視線が一斉に天音に向けられる。
天音の額からポタリと汗が流れ落ちる。
自分はとんでもない逸材を連れてきてしまったかもしれない。
一抹の不安と共に、ライトノベル部に暗雲が立ち込めるのを天音は感じていた。