第2話
「ゆりか、ご飯一緒に食べよっ」
昼休みになり、弁当箱片手にゆりかの親友である新垣舞がやってきた。
「うん、一緒に食べよっ」
ガタガタと机を動かし、二人は食事スペースを作る。
「あれ、あんたの旦那様はどこ行った?」
「だ、旦那様って……」
ボッと瞬間湯沸かし機のように、ゆりかは顔を真っ赤にさせる。
分かりやすいゆりかの態度に、舞はニヤリと笑った。
「だ、大都ちゃん、なんか調べ物があるからってどっかに出かけちゃったんだ」
「およよ? 私は一言も大都の名前を出していませんが? なるほど、自ら旦那様って認めちゃうわけですね」
再びボッと顔を真っ赤にさせるゆりか。舞はケタケタと楽しそうに笑う。
「もう、舞ちゃんったら、からかわないでよ。と、とにかく、ご飯食べよっ」
そう言ってゆりかは、慌ててカバンから弁当箱を出す。
ケタケタと笑い続ける舞。だが、ゆりかが出した弁当箱を見ると、とたんにしゅんと寂しそうな顔を見せた。
ゆりかが出した弁当箱、それは鉄製で出来た可愛らしさの欠片も無いドカベンであった。パカっと開けると、そこには一面に敷き詰められた真っ白なご飯に、中央には一個の梅干が見える。戦後絶滅したと言われた日の丸弁当がここにあった。
「ゆりかの弁当は、いつ見ても泣けてくるわね……」
涙ぐみながら、舞はタコさんウィンナーを箸で掴むとゆりかに差し出す。
「これ、食べて」
「ええ?! いいの?!」
まるでひまわりのように目を輝かせながら、ゆりかは舞の差し出す箸にパクっと食いついた。
もしゃもしゃと、まるで子犬のように美味しそうに食べるゆりか。その姿を見て、舞は愛おしい気持ちでいっぱいになり、思わず彼女を抱きしめた。
「ああ、ゆりかっ! あんたってばなんて可愛いの! ほら、これも食べて、これもこれも!」
「でも、そんなにもらっちゃったら、舞ちゃんの分が無くなっちゃうよ~」
「いいのいいの、私ってば、ホラ、あれだ、その~、ダイエット! ダイエット中だから!」
「ええ~、舞ちゃんってそんなにプロポーションいいのにダイエットしてるの?! 私も少し痩せた方がいいかなぁ」
舞の豊満なバストに顔をうずめながら、ゆりかはぐりぐりと首を動かす。
「いいのいいの! あんたは育ち盛りなんだから! たくさん食べて、栄養を蓄えないとね!」
さて、ゆりかと舞がそんな風にちちくりあっている頃。
大都は、視聴覚室のパソコンを使って何かを調べていた。
「100万円、100万円、100万円……」
まるで何かに取り憑かれたかのように、大都は『100万円』を連呼している。
画面には、 『どうしても100万円借りたい人、ネットでローン』『副業初心者がFXで月収100万円』など、怪しげなサイトへのリンクが表示されている。
なんとしても、俺は100万円を手に入れなくちゃいけないんだ。
震える手で、大都は怪しげなサイトのリンクをクリックしようとした。と、その時だった、何者かがマウスを握る大都の手を掴んだ。
「どうした少年。そんな思いつめた表情で」
驚いた大都がその手の持ち主を見上げる。
そこには、凛々しい顔立ちをした一人の少女がいた。