第12話
2014年12月3日。
大都が小説を書き始めてから3日が過ぎた。
「大都ちゃん、大丈夫? なんだか凄くやつれてるよ」
「ああ、気にすんなって。俺はだいじょうふああああっ」
登校途中、大きなあくびをする大都に、ゆりかは心配そうに見つめる。
「昨日も遅くまで小説書いていたの?」
「ああ、まぁな。でもよ、凄い小説ができたんだぜ! 読んでみるか?」
「うん!」
大都は、鞄をごそごそとまさぐると、40ページの紙の束をゆりかに渡した。
「わっ凄い! 超大作だね! これを昨日一晩で書き上げたの?」
「おうよ」
ゆりかは「おおっ!」と目を輝かせ、尊敬の眼差しを大都に向ける。
「さすが大都ちゃん。やる時はやる男だね! よっ色男! 日本一!」
ゆりかに褒められ、鼻を高くする大都。
「あたぼうよ、これで小説大賞は俺のも……」
そこまで言いかけて大都は慌てて自らの口を塞ぐ。
そんな不審な態度の大都にゆりかは『?』を浮かべた。
「えっと、タイトルは『ツーピース』。ふむふむ、どこかで聞いたような……」
そう言いながら、ゆりかは小説を読み始める。
「くらえ! ガムガムのピストル! どかーん! ぐわー! 見たか! 俺の野望は誰にも止められねえ! 俺は裏山の山賊王になる!」
本人はいたって本気なのだが、大根役者丸出しの棒読みでゆりかは小説を読み上げる。大都は、ニコニコと上機嫌な様子。どうやら、自分の作品を読んでもらうのが嬉しいようだ。
「大都ちゃん、これって……」
途中まで読んだところで、ゆりかは大都を見つめる。そして、
「めちゃくちゃ面白いね! これが大都ちゃんが初めて書いた小説なの?! もしかしてアナタは天才じゃなかろうか!」
どっからどうみても、某ピースの丸パクリ作品なのだが、ゆりかは全く気がついていなかった。褒められた大都は、まるでピノキオのように鼻を伸ばしている。全くもって残念な二人だった。
「大都ちゃん、小説書くの楽しい?」
ゆりかにそう言われて大都はハッとする。
小説を書くのが楽しい? 俺は楽しいのか?
「最近の大都ちゃん、なんだか楽しそうだね。私も小説書いてみようかなぁ。ジャンルは私の好きなホラーとか!」
ゆりかはチラリと大都を見つめる。自分もライトノベル部に誘って欲しいと言う彼女なりの精一杯のアピールのようだ。
いや、違う。
俺にとって小説を書く事は、あくまでも100万円を手に入れるための手段だ。何が楽しくて小説なんて面倒なことするか。俺は仕方なく書いているだけだ。
考えことをしていた大都は、ゆりかの話を全く聞いていない。
ゆりかは、ちぇっと残念そうに唇を尖らせた。