第11話
その日の夜、大都はまた自宅のパソコンの前で一人悩んでいた。
今回出されたお題は、「起承転結のある短編小説」。テーマは自由だそうだ。
いきなり書けって言われてもなぁ……。相変わらずあの連中は無茶ぶりばかりしやがるぜ。
ライトノベルの部員たちは、基本根性論を唱える。スキルと言うのは、書けば書くほど備わると言うのが彼女たちの持論である。小説家になるのに早道は無いらしい。だが、大都の場合、1月の末までに小説を書き上げ応募しなくてはならないのだ。そんな悠長なことは言ってられない。
てっとり早く上手くなる方法を教えてもらうつもりだった大都は、少々当てが外れがっかりしていた。とは言え、彼女たちの言い分もわからんでもない。その証拠に、模写をした後の文章力はその前と比べて雲泥の差があった。やはり、書き続けるしか自分のスキルを向上させる方法は無いのかも知れない。
その後、パソコンの前で30分程悩んだ大都だが、結局何もストーリーは浮かんでこなかった。そもそも小説を書くのは、あくまで金を手に入れる為の手段であり目的では無い。書きたいことや伝えたいことがまるで無い大都が書ける訳が無かったのだ。
「はぁ……参ったな。指が動かねぇぞ」
いきなり行き詰った大都。
大都は大きく伸びをすると、気分転換に近くに山済みになっている週刊少年雑誌を手に取った。
その週刊誌には、日本に住む人間で知らない者はいないと言われる程の大人気漫画が掲載されていた。その人気は漫画だけにとどまらず、アニメ、ゲーム、おもちゃ、映画、同人誌など幅広くメディアミックスされており、海外に輸出された単行本の発行部数は一億冊を超えると言う化け物漫画である。かく言う大都もこの漫画が大好きだった。
その時、大都の頭に電撃が走った。大都は自分は天才かも知れないと思った。何故なら、この思考のラビリンスとも呼べる今の行き詰った状況を打破する方法が突如浮かんだからだ。
週刊誌には、世界規模で大ヒットした漫画が載っている。だったら、それを真似すれば自分も大ヒット小説家になれるはずだ。そう、パクッてしまえばいいのだ。
天音が言っていた。模写することで、その作家の文体やスキルを勉強することができると。だが、そんな面倒なことしなくても、確実に面白い作品を書ける方法がここにあるじゃないか。
大都はニヤリと悪そうな笑みを浮かべると、早速キーボードを叩き始めた。小説のタイトルは「ツーピース」。大傑作の予感がした。
物語を書く為には、まず主人公を決めなくてはならない。
主人公の名は「ウヒィ」。悪魔の団子を食べてガム人間となってしまった少年だ。彼は、どこぞの山賊が埋めたと言う幻のお宝「ツーピース」を求め裏山に冒険の旅へと出る。途中で出会った女山賊の「ナム」、ゴロツキの「ゴロ」、詐欺師の「ウソッピィ」を仲間にし、彼の冒険は続いて行く。
原作の単行本を片手に小説を書きながら、大都は興奮していた。
やばい、やばすぎる。面白いぞ、原作が。だから俺の小説も面白いはずだ、原作が面白いんだから間違いない。
だが、書いても書いても小説は終わらなかった。何故なら、原作が終わっていないからだ。そもそも小説を書いた事が無い大都は、物語を終わらせる方法が分からない。短編小説で良いと言われているのに、物語は3人目を仲間にすることろまで来ていた。このままでは、いきなり長編小説になってしまう。
大都はちらりとディスプレイの時計を見る。時刻は午前3時をまわっている。昨日に引き続いての徹夜は流石に厳しい。いつまでも続く執筆の無間地獄に、初めは勢いの良かった大都もバテて来た。
そんな時、大都は昼間の天音とのやりとりを突如思い出した。大都の頭上に再び稲妻が走る。
「そして、ウヒィは山に向かって叫んだ。『俺たちの戦いはこれからだ!』。大都先生の次回作にご期待下さい……っと。やった、やっと終わったぞ!」
ついに、大都の処女作「ツーピース」は完成した。総ページ数四十ページの大傑作。物語を最後まで書き上げた大都は感無量だった。
これを読んだら、あいつら絶対に驚くぞ。
ライトノベル部員の驚く顔を思い浮かべ、大都は一人ほくそ笑む。
恐らく別の意味で驚かれると思うのだが、この時の大都はそれに気がついていない。大都は少々残念な奴であった。