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第10話

「まず起承転結の『起』ね。簡単に言えば『主人公の置かれている状態や、物語の説明を述べる』場所ね。例えば、あなたを例にすると、こうなるわ」

 そう言って、天音は黒板にスラスラと何かを書き始めた。


―起―


 主人公である山崎大都は、高校生である。

 彼は100万円が欲しくて欲しくて仕方無かった。

 彼は100万円を手に入れるため、小説大賞に応募することを決めた。


「おい、なんで俺が例になるんだよ。もっといいのがあるだろ」

「この方が、あんたも理解しやすいでしょ。私の優しさと気遣いに感謝なさい」

 憮然とした顔で納得いかない様子の大都だが、とりあえず話を最後まで聞くことにした。

「次に起承転結の『承』。 ここは、『主人公にある事件が起こったり問題が発生したりし、物語が展開していくことを述べる』場所ね。例えば、あなたを例にすると、こうなるわ」

「また俺なのか」

「黙って聞きなさい」


―承―


 だが、大都には小説の才能が無かった。

 国語の成績は『2』だった。

 そもそも彼は頭が悪かったのである。

 小説なんて書けるわけがなかった。


「おい」

「事実を述べたまでよ」

 ジト目で見る大都を無視し、天音は続ける。

「そして、起承転結の『転』。ここは、『小説におけるヤマ場であり、結果に赴く為の転化を見せる』場所なの。例えば、あなたを例にすると」

「もうやめろ」


―転―


 そんな途方に暮れる大都の前に、一人の美少女が現れた。

 その名を大神天音と言う。

 彼女と、その仲間であるライトノベル部員たちは、 彼に大賞を取らせるべく立ち上がった!


「自分で美少女とか……」

「うるさいわね。物語には華が必要でしょ。 私だって、こんなくだらない話のヒロインになんてなりたくないわよ」

「……」

「そして、最後に『結』。簡単に言えば結果の『結』ね。『承』や『転』によって導き出された結果を述べる場所なの。そして、この話の結末はこうなるわ」

「心底どうでもいいな」


―結―


 だが、残念ながら彼の書いた小説は落選した。

 応募総数5000通を超える中で言えば、4998位。大健闘である。

 大都は決心する。こんなことで挫けてられない! そう、俺たちの戦いはこれからだ!


 その後、彼の姿を見た者は誰もいなかった……。


 完


「おおおい! なんで落選してるんだよ!」

「これが現実よ」

 きっぱりと言い放つ天音に、大都は断固抗議する。

「なんかどこぞの打ち切り漫画みたいになってるし、消息不明になってるし! 夢も希望もありゃしねぇ! 小説なんだからよ、もっと夢を見させてくれよ!」

「現実は残酷なのよ。諦めて直視しなさい」

「お、おまっ、俺を勧誘した時、小説を書くしか無いって言ってたくせに! 俺に小説の書き方を教えるって言ってたくせに!」

「あれは単に頭数を揃えたかっただけのでまかせ……コホン。そうね、 そんなことを言っていた時代が私にもあったわね」

「時代とか、昨日の話やん! 過去形にするなや! おまえは記憶欠乏症外なのか?! アルツハイマーなのか?! 昨日です! 昨日の話です!」

 必死に抗議する大都に対し、天音はふうとため息をつくと冷ややかな目で見た。

「ったく、男のくせにギャーギャーうるさいわね。こんなの、即興で作ったただの作り話じゃない。何をそんなに熱くなっているのかしら。そんなことで騒ぐぐらいなら、こうならないように1ページでもたくさん書けばいいんじゃないかしら?」

「うぐっ……それはそうですけどお」

 もっともらしいことを言われ、大都は口ごもる。

 お前にとってはどうでもいいことかも知れないけど、俺にとっては死活問題なんだよ。そう簡単に落選してたまるかよ……。

 拳を握り締め、大都はギリっと歯ぎしりをした。

「まぁ、ここまで説明しておいてなんだけど、この文章やストーリーの構成としての起承転結は昔ながらの手法でね、最近の小説や映画は、主張、根拠、主張で成り立つ『パラグラフ・ライティング』や、設定、対立、解決から構成される三幕構成が主流なの。でも、あなたは小説初心者だし、まずは起承転結を勉強して……って聞いているの?」

 すでに大都はパソコンに向かってガムシャラにキーボードを叩き始めていた。

「聞いてるよ! とにかくまずは書く事だろ! 書いて書いて書きまくって自分のスキルをあげればいいんだろ! 今に見ていろよ天音! 俺は絶対にお前がギャフンと言うような小説を書いてやるからな。そして、必ず100万円をゲットしてやる!」

 そんなやる気を出す大都に、天音は呆れた顔を見せる。

 本当、こいつってば馬鹿で単純。でも、やる気だけはあるみたいね。そのやる気が何処まで続くのか、本物かどうかは、あなたの小説を読んで確かめさせてもらうわ。覚悟なさい、もしあなたが途中で投げ出すような偽物だったら、私は承知しないんだから。

 バシバシと激しくキーボードを叩く大都を見つめながら、天音はフッと優しく笑った。

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