第9話
その日の放課後。ライトノベル部では、ちょっとしたざわめきがあった。
「驚いたよ。まさか1日で書き上げてくるなんてね……」
大都が模写した原稿の束を見て、晶は感嘆の息をもらした。
その横では、木村と衣純が同じように目を丸くして驚いている。天音だけが少し離れた場所で不機嫌そうにそっぽを向いていた。
1週間くらいで書き上げたら上出来と思っていたのに、まさか1日で書き上げてくるなんて……。
ちらりと天音は大都を見た。大都は椅子の上で眠そうに大あくびをしている。
……根性無しの男だと思っていたのに、予想外だわ。
「書き上げる根性があるなら、小説はいくらでも書けるっスよ! 書き上げてない小説は、作品とは言えないっスからね。やはり、書いて人に見せる以上、書き手は最後まで書ききる責任があると思うんス」
「ほほう、『書き上げてない小説は、作品とは言えない』か。なんかその言葉、格言っぽくて格好いいな」
「いやぁ、天音先輩の受け売りっスよ」
褒める大都に、 衣純は照れくさそうに天音を見た。
衣純につられ、皆が一斉に天音を見つめる。
その視線に、天音はビクッとするとプイッとそっぽを向いた。
「どうだい天音先輩。これで少しは俺のことを認めてくれるだろ?」
少年のように、ニカリと歯を見せ笑う大都。
だが、天音はキッと険しい表情を見せる。
「ふんっ。模写したくらいでいい気にならないことね。そもそも、模写の目的はその作家の書き方や文体を真似て、文章スキルをあげることにあるんだから。いくら模写したって、スキルが備わなきゃ意味ないんだからね」
「ったく、アンタは本当厳しいな。たまにはムチばかりじゃなくてアメもくれよ」
そう言って、大都はちぇっと口をとんがらせた。
「まぁ、1日で書き上げたのは素直に凄いと思うけど……」
ボソッと天音は小声で呟く。
「え? 何か言った?」
「なんでもない! そ、それよりも、次のお題行くわよ!」
そう言った天音の前に、スっと木村がスライドする。
「ここで木村にバトンタッチと言う、木村的に美味しいとこ総取りな展開で申し訳ない気分だね。そんな気持ちを歌でも歌って表現したいところだけど、残念ながら尺の関係で全カットさせてもらうよ。早速次のお題にレッツゴー三匹としゃれこませていただきますよ」
そう言って木村は、黒板にカカカッとリズムよくお題を書いていく。
「はい出た、次のお題はコレ」
黒板に書かれた文字を大都が読み上げる。
「起承転結」
木村が頷く。
「そう、起承転結。小説や物語には必要不可欠な四文字熟語だね。時に大都くん、君は起承転結の意味は分かっているのかな?」
「え? えっと、なんか始まりがあって間に色々あって最後にオチがあるみたいな……」
「おお、大都君、やるじゃないッスか」
「うんうん、概ね合っているね。木村、感動している。今凄く感動しているよ」
パチパチと拍手する木村と衣純に、大都は照れくさそうにする。
「ったく、みんな何を言っているのよ。~みたいな、のように適当に覚えられちゃ困るでしょ。こいつを甘やかしちゃ駄目。すぐに調子に乗るんだから」
天音の物言いに、大都は露骨に不機嫌そうな顔を見せた。
「さいですか。じゃあ、起承転結の意味を教えてもらえますか、天音セ・ン・パ・イ」
「ふんっ。低脳なアンタの頭でも理解できるように教えてあげるから感謝なさい」
そう言って天音は、黒板の前に移動すると黒板に書かれている『起承転結』の文字一つ一つを丸で囲った。
「いい? 起承転結とは、『起』『承』『転』『結』と言う4つの漢字で構成されていて、それぞれの漢字に意味があるの。今から、その意味を説明するわ」