「俺も勝ちたい」 by新田剛
次の日。昼休みになった。
俺は学校探検がてら散歩することにした。
俺が体育館裏に近づくとなにか音が聞こえた。
「何の音だろう?」
俺は好奇心から体育館裏に行った。
そこにはコンクリートの壁に向かってピッチングをする新田剛がいた。
その球を見て俺はびっくりした。
「は・・・速い・・・」
あの音はコンクリートの壁にボールが当たる音だった。
新田は俺に気づくと笑顔で手を振った。
「よう!ケンタくん!」
「お・・・おう」
なんでこいつ俺をケンタって呼んでるんだ・・・
「キャッチボールしない?」
「やらないって言ってんだろ!!」
言ってから少し後悔した。
口調が強すぎたと思ったからだ。
「なんで野球をやめたの?」
ん?・・・なんでやめたの??
俺、新田に野球やってたって言ったか?
まさか超能力者か・・・
そんなわけないよな・・・
「なんでやめたの?」
その声におれは違和感を感じた。
さっきまでの声とは違いすごく真面目な声だった。
いや・・・さっきまで声がふざけてたっていうわけじゃないいんだが・・・
でも違うことはあきらかだった。
俺は中学校での出来事を新田に話した。
「そんなことがあったんだね・・・」
そして新田は俺の目を見て言った。
「俺も勝ちたい」
ただそれだけだった。
それしか言ってないのに俺の心に響いていた。
その言葉は心に直接語りかけてくるようだった。
俺は新田の目から目をはなさなかった。
いや、新田の目から目がはなれなかった。
新田の目は特別な力を持っているようだった。
特別な力といっても超能力ではない。
自分の言葉を心に届かせる力。
そして人を変える力があるのだと感じた。
根拠はない。そう感じたのだ。
俺は泣いていた。
「俺も勝ちたい」そう言われただけなのに。
俺は涙が止まらなかった・・・
そして俺は何も言わず走り出した。




