「野球って楽しいだろ」 by新田剛
俺はまず様子を見るために外角にストレートを要求した。
ツヨシは小さくうなずいて振りかぶった。
鬼塚はそれを空振った。
これでワンストライク。
次は低めにストレート。
鬼塚はそれも空振った。
これでツーストライク。
鬼塚からは絶対打つという気迫が感じられた。
次は外角にスライダーを要求したが
ワンバウンドしてしまった。
これでツーストライクワンボールだ。
次は内角にストレートを要求した。
ツヨシが投げた要求通りの球に鬼塚は空振った。
これで空振り三振で俺たちの一勝だ。
鬼塚は次も空振り三振となり俺たちの二勝だ。
三打席目もツーストライクと追い込んだ。
そして俺は低めにストレートを要求した。
とても速かった。今日の最速ではなかろうか。
しかし鬼塚の振ったバットにボールがあたった。
ショートゴロかレフト前だろう。
「ははっ!打ってやったぜ!」
鬼塚は笑っていた。本当に楽しそうに。
ツヨシは言った。
「野球って楽しいだろ」
さらに鬼塚の目を見つめてこう言った。
「俺たちと野球しないか?」
少しの間、誰も何も言わなかったが
「・・・俺帰るわ。」
そう言うと鬼塚は帰っていた。
だが俺は見てしまった。
鬼塚の目に涙が溜まっているのを。




