日本最長の恋愛♪
沈黙。ホテルのロビーに静かなる時間がただ流れた。
「あの……思い出してくれましたか?」
真宮寺が声を発する。
「ああ、思い出した。何で忘れてたんだろうな、わかんねぇや」
「そうですか、良かった」
真宮寺は安心したようだった。
「あの時は悪かったな、結局助け切れなくて。情けねぇや」
「そんな事ない!私は貴方に本当に感謝している。あの時あなたが来てくれていなかったら、私はどうなっていたかわからない」
俺の言葉に真宮寺は物凄い勢いで反論してきた。興奮しているのだろうか、口調が少し荒くなっている。俺は正直驚いた。こんな反論予測の範囲外だった。真宮寺は、俺の顔を見据えて話し出した。
「私は、貴方にちゃんとお礼が言いたかった。ずっと貴方に……ありがとうと言いたかった。あの時、伝言だけ残していったのがずっと心の中に引っかかっていた」
真宮寺は沈痛な面持ちでなおも話す。
「北海道に帰ってから、ううん、違う。貴方が助けてくれたあの時からずっと、貴方の笑顔が離れなかった。今も心に残ってる、貴方の笑顔。私は不思議だった。何で名前も知らない男の子の笑顔がこんなにも頭から離れないんだろう、何でこんなにも会いたいんだろうって」
真宮寺の言葉からは、真剣な響きが伝わってきた。
「悩んで、悩んで、悩んで、悩んで、ようやく気が付いた」
そして、真宮寺の表情が眩い光を放った。
「私は……私は貴方が好きだったんだって。私の夢見た運命の人は貴方だったんだって」
真宮寺は物凄く清清しい顔をしていた。心の奥に溜めていた思いをまとめて吐き出したようだ。
「変ですよね、あんなほとんど一瞬の間一緒にいただけなのに。でも、この気持ちは本当です。私の想いは本物なんです」
俺は、どう反応して良いのかわからなかった。俺はこの女を助け損ねたのに、この女は俺の事を好きだと言った。その言葉に嘘があるとは思わない。それほど真剣な口調だった。けど……
「だけど、俺はあんたを助け損ねた。そんな俺にそんな言葉を受け取る資格は……」
「そんなこと関係ない!」
真宮寺は悲痛な叫びを上げる。
「私は、貴方が着てくれたとき、私は本当に王子様が着てくれたと思った。そして貴方は、私の心の中に貴方の居場所を作っていた。貴方がいつでも私の心の中に居てくれるような気がした。私にはそれで十分。資格とかそんなのは問題じゃない、貴方が愛しいの」
真宮寺のその言葉は俺の心を大きく揺らした。俺はこいつを助け損ねたのに、こいつはこんなに想ってくれている。なら俺はどうする。そんなの簡単じゃないか、考えるまでも無い。
「俺なんぞで良いのか?」
「貴方じゃなきゃ……ダメです」
「そうか……じゃあ俺たち日本最長の遠距離恋愛になる訳だ」
俺がそう言い終わるか否かの瞬間、皐月の顔が俺の顔の目の前まで来ると、唇に柔らかい感触がした。そして皐月は顔を赤らめて一言。
「はい、よろしくお願いします」
それから後、ホテルのロビーに居たため多くの客からなぜか拍手を浴びせられ、隼人さんから散々いじられて、皇紀に散々「幸せにしろよ」と念を押された後、俺は自分のホテルに帰った。次の日の試合は、もうどうでも良かったのでとっとと負けてしまった。表彰式が終わると、すぐに空港に行き、皐月と別れた。その後、俺は宮崎に帰った。
「……さてと」
部屋にパソコンの起動音が響く。パソコンが立ち上がると、俺はメールを読み始めた。もちろん皐月からだ。ちなみに件名は……『日本最長の恋愛♪』
どうも、菖蒲です。
この小説をここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございます。
さて、この作品、ホントに初期に書いたものでして、何気に自分の処女作だったりします。
今見返すとホントに下手すぎて恥ずかしい限りですが、敢えて、修正等は最小限に留めて出しました。
もしも、この小説で楽しんでいただけた方などがいらっしゃれば幸いです。
ではまた、次作でお会いしましょう。