ド変態イロ吉スケベ君?
「このド変態エロティックスケベ痴漢野郎がぁぁぁ!」
と、いきなりお兄ちゃんさん(名前知らないからさん付け)に殴りかかられた俺は、
ドゴッ!
と、その攻撃をまともに受け、地面に突っ伏した。……と、普通はなるだろうが、俺の場合はちと違う。
「このド変態……(以下略)」
と、いきなり殴りかかられた俺は、その繰り出されたパンチを咄嗟に避けて、条件反射で思わず反撃のミドルキックを出してしまった。そのキックをまともに受け、
「ぐぇ」
と、お兄ちゃんさんは地面に突っ伏してしまった。
「ヤバイ……」
俺は焦りまくった。何を隠そう俺は剣道の他に古武術を習っている。戦国時代に造られたとかいう格闘技だ。なんでも素手で敵軍に突っ込んでいって、更に勝つ事を目的とした武術だったらしい(今は弱体化しているが)。その俺の蹴りをまともに喰らったら相当ヤバイのである。
「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ……」
と、俺が取り乱していると、お兄ちゃんさんが、
「ってえなこの野郎!」
と、なんと立ってきやがった。
「なっ!」
俺は言葉を失った。まさか俺の蹴りをまともに受けて立ってこられる奴がいるなんて思ってなかったのである。俺がボー然としていると、
「くっそ、この変態野郎が」
と、お兄ちゃんさんが言った。……ん? ちょっと待てよ、さっきから自然に言われてるけど、いつから俺は変態になった? まさかと思いお兄ちゃんさんに訊ねてみる。
「あのー、お兄ちゃんさん? ちょっと質問したいんですけど、さっきあなたの妹さんになんと言われましたか?」
「あ? てめえよくもぬけぬけと、まあ良い教えてやるぜ。皐月はな、「阿久沢さんがいて、それから声を出したら迫ってきて、手を引っ張られて逃げて、でも追ってきて、やっと会場についたらお兄ちゃんに声をかけられたの」って言ったんだよぉ」
俺は頭が痛くなった。この女、そんな言い方したら勘違いするに決まってんだろうが、主語が抜けてるよ、主語が。ったく本当に厄日だ今日は、こんな事ならあの天然記念物どもさっさと張り倒しときゃ良かった。俺が本気で後悔していると、
「で、もう質問は無いのかな? ド変態イロ吉スケベ君?」
と、お兄ちゃんさんが顔をヒクヒクさせながら訊ねてきた。言葉は丁寧(?)だが、声には殺気がぎっしりと詰まっている。もういい加減こんな事してられん、と思った俺は、目の前で顔をヒクヒクさせているお兄ちゃんさんに事情を説明した。が、
「……っていう訳なんですけど」
「ん〜、そっかそっかぁ、悪かったねぇ。お詫びといっちゃ何だけど……、これでも喰らえこのド変態エロティックスケベ痴漢おまけに嘘吐き野郎がぁぁぁ!」
と、また殴りかかられた。またさっきの再現か、と思ったが今度は様子が違った。さっきのとは段違いに速く、腰の入ったパンチである。
「ちぃ」
と、どこかで聴いたような台詞を吐きながら、間一髪それを避けた俺は、反撃しようと拳を繰り出したが、腕を跳ね上げられ、さらに膝蹴りが飛んでくる。なんとか弾かれてない方の腕でそれをガードした俺は、少々面食らっていた。
(何だこいつ、強い。これ、どう考えたって普通じゃないだろ……まさか!)
うかつにも戦いの最中に考え事をしていた俺は、お兄ちゃんさんの繰り出した前蹴りをまともに受けてしまった。
「ぐッ」
あまりに重いその蹴りに思わず吐きそうになってしまったが、何とか堪えた俺はさっきの疑問を確信にして口に出した。
「なぁ、まさかあんた古武術やってないか?」
その俺の質問に、お兄ちゃんさんの顔が驚愕に彩られる。
「あ、ああ、確かにやっている。しかし何故お前がそれを知っている?」
「ああ、だって俺も古武術やってるもん」
それを聞いたお兄ちゃんさんは、口をポカンと開けて放心した。何故なら、古武術において、同門に喧嘩を売る事は例えどんな理由があろうとも禁止されているからだ。ちなみに規則を破れば厳罰、それが古武術の掟である。
あれ? ところで、真宮寺は? ……あ、いた。あっちゃあ、こいつも口開けて放心してら。